2月例会(第632回)
カーテンコールの灯

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  2月21日(土)①11:30 ②14:30 ③18:00  神戸朝日ホール
  事前予約(電話、メール)受付中 1700円 → 1300円 078-371-8550

監督:ケリー・オサリヴァン、アレックス・トンプソン(『セイント・フランシス』) 
脚本:ケリー・オサリヴァン
出演:キース・カプフェラー、キャサリン・マレン・カプフェラー 、タラ・マレン
   ドリー・デ・レオン
(2024/アメリカ/115分/原題:Ghostlight)

解説   ユニークで愛おしき珠玉の映画

 『セイント・フランシス』の脚本・主演ケリー・オサリバンと監督アレックス・トンプソンが共同監督を務め、壊れかけた家族の絆が再生していく様子を「ロミオとジュリエット」の物語に重ねて描いたヒューマンドラマ。繊細な家族の感情の機微を丁寧に描き、じっくり味わい、こころに沁みる良質な作品です。

あらすじ
 アメリカの郊外の街。建設作業員のダンは家族に起きた悲劇から立ち直れず、仲の良かった妻や思春期の娘とすれ違う日々を過ごしていた。そんなある日、彼は見知らぬ女性に声をかけられ、アマチュア劇団の舞台「ロミオとジュリエット」に参加することになる。経験もなく乗り気になれないダンだったが、個性豊かな劇団員たちと過ごすうちに居場所を見いだしていく。
 やがて突然の変更でダンがロミオ役に大抜てきされるが、自身のつらい経験が重なり演じることができなくなってしまう。
 そして本番当日、家族や仲間の思いが詰まった舞台がついに幕を開ける。

演劇の持つ力
 父親のダンが地域劇団に足を踏み入れて「ロミオとジュリエット」の世界にのめり込み始めると、物語は魅力を放ちはじめます。
 特に印象的だったのは、演じるという行為が、ダンにとって「自分の内面を掘り起こす」行為そのものになっていた点です。
 最初は戸惑いながらも、劇団の個性的なメンバーと関わり、舞台に身を置く中で、彼は否応なく「言葉」を口にし、「感情」を露わにする機会を与えられます。
そしてそれは、家族との間に閉ざされていた心を、ゆっくりとではありますが、確実に開いていくきっかけとなります。
 演劇という「他者の人生を生きる場」が、現実と向き合うための「自分の心を映す鏡」となっている点に感動しました。
 愛と喪失を描く悲劇の物語を演じることが、まさに彼自身の過去をなぞることになるという皮肉。その重なりによって、彼はロミオの台詞を口にできなくなってしまいます。
この「演じられない苦しみ」は、演技を通して自分をさらけ出すことの怖さと、過去を直視せざるを得ない葛藤を象徴しており、共感を覚えました。
 ダンは演劇グループに行って、そこで、「ロミオとジュリエット」の最後のシーンをかえるように頼みますが、これはジェークスピアの劇だから変えられないと言われてしまいます。ダンは怒鳴り散らしてしまいますが、ここで初めて逃げずに、自分が直面した問題を演劇仲間に細々と語り始めます。その話から、このシーンはそれゆえに彼にとって堪えられなかったのだと気づかされます。彼にとって、安全で自分の悲しさを表現できる場はここでした。この演劇のグループの場での経験があって本当によかった。誰にも安心して、自分の気持ちを表現できる場があれば救われると改めて感じました。
 演劇にきちんと向き合うようになってからはダンも柔らかくなっていって、途中から全く表情が違うようになります。
 演劇仲間でディレクターのリタはこの家族にとって大きい存在だと思います。リタがダンに与えた影響は大きい。彼女はダンに「ダンはしばらく他の誰かになるチャンスを欲しがっているように見えた」と言います。演ずるという一つの自分から起こす行動を通じて能動的になるのです。そして、この行動が人間を変えていくことができるということではないでしょうか。

構成の妙
 序盤は、トラブルメーカーの娘を巡って両親が頭を悩ませる場面から始まり、事情を知らない私たち観客からすると多少の分かりにくさがあるかもしれません。デイジーのセリフ「悲しむことを許されないように感じる」というのは、父親ダンが問題に向き合えず、家族がバラバラな状態なのを表しています。
 しかし物語が進むにつれて、家族の抱える問題が浮き彫りになり、彼女や彼の行動の理由が明らかになってくると、がぜん面白くなってきます。
 苦悩の種が、舞台劇の『ロミオとジュリエット』と重なっていくことで、ダン自身の苦悩を一歩引いたところから見てみるという形となっており、実に巧みな構成となっています。
さりげない伏線と、それがゆっくりと回収されていく演出が素晴らしい。
 娘の問題行動は氷山の一角、ごく身近に見えているだけで、家族が抱えるほんとうの問題・苦悩は何かをなかなか見せません。得てして重くなりそうな題材に、少しユーモアも交えているのも好ましく感じました。
 全てが明らかになった段階でダンが演技を躊躇した気持ちや、彼らの哀しい物語が奇しくもそれをなぞらえていたこともあり、後半はずっと心を揺さぶられました。

俳優のアンサンブル
 ダン役を演じたキース・カプフェラーと、劇中の妻(タラ・マレン)・娘(キャサリン・マレン・カプフェラー)は、実生活でも実の家族であるという事実に納得しました。
物語の中で、わずかな表情の変化や沈黙のあいだに滲む、言葉にできない感情のやりとりが確かに存在していたのは、まさにリアルな関係性が土台にあったからこそだと感じます。
そうした演技を超えた繋がりが、この映画にとって大きな支柱となっていたように思います。
 また、共同監督のケリー・オサリバンとアレックス・トンプソンもパートナーであり、俳優やスタッフの多くも、監督たちと長年親交のある友人たち。実の家族による配役と、キャスト・スタッフの間に流れる親密な空気感が本作にリアルさと温もりをもたらしています。
 前作の『セイント・フランシス』に引き続き主人公たちの心のひだを繊細に描き出しました。
 どの年代の人が観ても心にポッと灯をともすような素敵な作品となっています。(陽)

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