2月例会(第632回)
カーテンコールの灯

🔳トップページ
2月21日(土)①11:30 ②14:30 ③18:00  神戸朝日ホール アクセス
事前予約(電話、メール)受付中 1700円 → 1300円 078-371-8550

監督:ケリー・オサリヴァン、アレックス・トンプソン(『セイント・フランシス』) 
脚本:ケリー・オサリヴァン
出演:キース・カプフェラー、キャサリン・マレン・カプフェラー 、タラ・マレン
   ドリー・デ・レオン
(2024/アメリカ/115分/原題:Ghostlight)

主人公の人生とシェイクスピア悲劇がリンクし唯一無二の感動がわきおこる、
ユニークで愛おしき珠玉のインディペンデント映画

 壊れた家族の絆の再生、深く傷ついた心の癒やし、現代において希薄になっているコミュニティーの温かな交流。これらの普遍的にして切実なテーマを、あっと驚くアイデアで映画化した珠玉の逸品が誕生した。ある悲しい出来事を経験したことでバラバラになりかけている親子3人の家族が、希望のありかを探し求めていく軌跡を、誰もが知るシェイクスピアの戯曲「ロミオとジュリエット」のストーリー展開に重ね合わせ、現実と虚構、実生活と演劇をリンクさせるという斬新さ。それが『カーテンコールの灯』である。
 SXSW映画祭観客&審査員賞受賞、女性の心身のリアルな本音を軽やかに描き日本でも好評を博した『セイント・フランシス』のアレックス・トンプソン監督、主演女優ケリー・オサリヴァンが共同監督を務めた本作は、重苦しくなりがちな主題に絶妙のさじ加減でユーモアを配合し、くすっと笑えてほろりと涙を誘われるヒューマン・ドラマへと結実。ちっぽけな独立系の作品でありながら、インディペンデント・スピリット賞で主演男優賞、ジョン・カサヴェテス賞にノミネートを果たすなど、胸に染み入る感動の輪が広がって高評価を獲得し、批評サイトのRotten Tomatoesでは批評家99%、観客92%(2025年4月14日時点)という高いスコアを記録している。
 とあるアメリカの郊外の町。建設作業員のダンはひどく憂鬱な日々を送っていた。昨年、家族に降りかかった悲惨な出来事の痛手を引きずっているダンは、不器用な性格も災いして妻のシャロン、思春期の娘デイジーともすれ違いがちだ。そんなある日、見知らぬ中年女性リタから地元のアマチュア劇団に勧誘されたダンは、彼女らの新作舞台「ロミオとジュリエット」に参加することに。これまで演劇とは無縁のダンだったが、個性豊かな団員が集う劇場の雰囲気に居心地のよさを感じていく。その先にはまさかの展開が待っていた。突然の配役変更で主役のロミオに抜擢されたのだ。ところが妻と娘のサポートも得て、ぎこちなくも稽古に熱中していたダンは、シェイクスピアの悲劇と自らのつらい経験を重ね、セリフをしゃべれなくなってしまう。そして、ついに訪れた上演当日、ダンと家族の切なる思いをがこもった「ロミオとジュリエット」の幕が開く……。
 主人公のダンは感情を表に出せない口下手な男性で、前年に被った取り返しのつかない喪失の悲しみに囚われ、家族にさえ心を閉ざしている。そんな極度の恥ずかしがり屋でもあるダンが、未知なる演劇の世界に飛び込み、年齢的にもまるっきり不似合いなロミオ役に奮闘する様は、観る者の頬を緩ませずにおかない。さらに演劇という創作芸術が人の心を動かす力を描いた本作は、「ロミオとジュリエット」との出会いがダンの内にくすぶるわだかまりを溶かし、家族が互いを思いやってひとつになっていくドラマに真実味を吹き込んだ。とりわけ劇中、ロミオ役のダンが“ジュリエットの死”と対峙するクライマックスは、まれに見るエモーショナルな名場面として観客の胸に刻まれるに違いない。
 シカゴを拠点に活動する監督コンビ、ケリー・オサリヴァンとアレックス・トンプソンは、私生活におけるパートナー同士でもある。そもそもの企画の始まりは、新型コロナのロックダウン中にオサリヴァンがナショナル・シアターの「ロミオとジュリエット」の予告編を見たことだった。その予告編に心を揺さぶられたオサリヴァンは、本作の脚本執筆に取り組み、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』などにもインスピレーションを得てこの物語を生み出した。加えて、ダンとその妻子を演じるキース・カプフェラー、タラ・マレン、キャサリン・マレン・カプフェラーの3人は本当の家族でもある。さらに、本作の出演者、裏方のスタッフたちもほとんどが監督コンビの長年の友人たちだ。本物の家族の配役、監督たちスタッフと役者たちの親密な距離感。それらが功を奏し、インディペンデント映画ならではのリアルで優しい空気感を宿した本作は、『わたしは、ダニエル・ブレイク』『家族を想うとき』の巨匠ケン・ローチの作品をも想起させる一作となった。
 また、本作の原題(『Ghostlight』)となった“ゴーストライト”は演劇用語で、閉館時や公演終了後の暗くなった劇場を照らす安全灯のこと。劇場をめぐるさまざまな言い伝えと結びつき、「劇場に居ついた幽霊のために灯されている」とも語られるゴーストライトは、本作において重要な意味を持ち、喪失からの再生というテーマに格別の味わい深さを添えている。

元へ戻る