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映画サークル機関誌2月号「解説」は下欄にあります
アルツハイマーで記憶を失っていくジャーナリストの男性と彼を支える妻の愛と
癒しに満ちた日々を記録した、ドキュメンタリー。
著名なジャーナリストである夫アウグスト・ゴンゴラと、チリの国民的女優にして同国初の文化大臣となった妻パウリナ・ウルティア。20年以上にわたって深い愛情で結ばれてきたふたりは、自然に囲まれた古い家をリフォームし、読書や散歩を楽しみながら毎日を丁寧に暮らしていた。そんな中、アウグストがアルツハイマーを発症し、少しずつ記憶を失っていく。やがてアウグストは、最愛の妻パウリナとの思い出さえも忘れてしまう。
監督は『83歳のやさしいスパイ』でチリの女性として初めてアカデミー賞にノミネートされ、本作でも同長編ドキュメンタリー賞にノミネートされたマイテ・アルベルディ。夫婦愛の向こうにチリのピノチェットの独裁政権時代の闇、非情が描かれる。『NO』、『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』、『スペンサー ダイアナの決意』などの監督パブロ・ララインがプロデュースに名を連ねている。2023年サンダンス映画祭ワールド・ドキュメンタリー部門で審査員大賞を受賞。
解説 機関誌2月号より
アルツハイマーで記憶を失っていくジャーナリストの男性と彼を支える妻の愛と癒しに満ちた日々を記録した、チリのドキュメンタリー。例会でも好評だった『83歳のやさしいスパイ』でアカデミー賞ドキュメンタリー賞にノミネートされ、本作でも同賞にノミネートされたマイテ・アルベルディ監督作品だ。前作でも見られた人間味のある温かな視点でこの作品を創り出している。
本作は、アルツハイマーを患い、少しずつ記憶を失っていくアウグストと、困難に直面しながらも彼との生活を慈しみ彼を支えるパウリナ、二人の愛と癒しに満ちた日々を記録した感動のドキュメンタリーだ。
著名なジャーナリストである夫、アウグスト・ゴンゴラと、国民的女優であり女性で初めて文化大臣になった妻パウリナ・ウルティア。ふたりは20年以上にわたって深い愛情で結ばれてきた。
アウグストはアルツハイマーを患い記憶を失いつつある。そんな彼をケアするパウリナ。スクリーンに愛があふれるふたりの日々を、私たち観客は記憶する。記憶とケア。人間が社会で暮らしていくうえで重要なことがこの映画には映されている。
妻であるパウリナもカメラを手にして撮影を行った。夜のコミュニケーションの様子など、監督が決して目にすることがなく、立ち会うこともできなかった非常に親密な瞬間がとらえられている。
この映画を制作するようパウリナを説得したのはアウグストだった。この記録を残すことを決めたのはパウリナ、アウグストの子供たち、そしてアウグスト自身。この作品はまるでアウグストの息遣いが伝わるスクラップブックのようだ。
『エターナルメモリー』は愛が儚い状況でどのようになるのか、完全な記憶がなくなったカップルはどうなるのかということを扱ったラブストーリーだ。大事なのは、愛にあふれる今の状況であり、お互いがいるということではないだろうか。
『エターナルメモリー』には、美しい夫婦愛の向こうに南米チリの独裁政権時代の闇や非情が語られている。
ドキュメンタリー映画の重要な存在理由の一つは事実の記録にある。作り手の意志がこもる目を持つカメラが何かを記録する。その記録されたことが時間を経ることによって歴史の一部になり、いまあらためて評価される。誰がなんと言おうと事実が刻まれているのだ。
アルツハイマーの夫を自分の仕事先へ連れて行く妻。病状を隠すことなく、ありのままに見せて、一部に変化があっても、知的で聡明なアウグスト・ゴンゴラである事は変わりないことを見せる。世界中がコロナウィルスの蔓延に振り回されたときにアルベルディ監督に代わってパウリナ・ウルディア自身が家の中でビデオカメラを回し、妻が捉えた夫の姿は多少ぼやけてはいても孤独の中にあり、愛する人の心がアルツハイマーという病気によって遠く行ってしまう妻の悲しみを浮かび上がらせてどこか物悲しい。
でもそこから見えてくるのは、人の記憶が消えても記録されたものは残り、多くの人々の心に拡散されて消えることがない、という事実だろう。そして私の心に刻まれた、あなたのほほ笑みが私を幸せにしてくれる。
この作品には、アルツハイマーという、記憶を失っていく恐ろしい病気の側面を描きつつも、それ以上に、人生を楽しむこと、人生の豊かさが描かれている。
ジャーナリストであったアウグストの活動が、チリの三つの歴史と彼の人生の三つのステージとを見事に重ね、表現されている。
一つめは、チリの独裁政権時代と、人々の記憶がどんどん失われ恐怖に包まれている時代に、彼が始めた「記憶を回復させるための活動」。二つめは民主化の時代と、社会のための記憶を一から作るため文化番組を制作したアウグストの姿。そして現在、がんばって生きてきた彼がアルツハイマーになり記憶を失っていく。この三つをうまく組み合わせたことによって、個人的な物語、記憶だけではなく、チリという国の物語、記憶を語る映画になった。
記憶は人々の意識の礎だ。それは、日本被団協が、被爆の記憶を活動の根源にして粘り強く訴えてきたことで、2024年ノーベル平和賞を受賞したように。
個人の記憶とその時代の記憶が結びついているのは、世界中のどこでも同じで、普遍的なものが描かれているのがこの映画の素晴らしさではないだろうか。
最後に、アウグストの言葉を紹介して締めくくりたい。
パウリナ
私にとって大切な本だから 今日君に贈ろう。
この本には痛みがあり 恐怖を訴えている でも同時に気高さもある
記憶は封じられているがこの本はあきらめない
記憶をもつ人は勇気があり 種をまく人だ
君のように 記憶のことを知る人は勇気があり 種をまく人だ
愛をこめて アウグスト
1997年1月15日
(陽)
【参考文献】 「エターナルメモリー」パンフレット