2020年8月例会『i-新聞記者ドキュメント-』

解説

わたし達が新聞と新聞記者に望むものは事実ではなく、真実の報道。

 19世紀にドイツで活版印刷術が発明され、社会活動を支えるコミュニケーション手段は格段の進歩を遂げ、社会的ニーズとしての書籍と新聞を生み出す事になった。また20世紀に入ってからは電話、ラジオという音による通信技術、映像メディアとしての映画の発明・発展、さらにテレビの家庭への進出、90年代からはインターネットの普及により人々のコミュニケーション環境はめまぐるしく変化することとなる。
 そんな社会的変化の中で今、新聞の存在意義も大きく変わろうとしている、そんな気がしている。

日本の新聞の現状
 日本における新聞の発行部数は年々、減少し、2019年の新聞協会によると大手5紙では読売790万部、朝日528万部、毎日230万部、日経224万部、産経135万部、計1907万部となっており、2000年から今日まで1057万部の減少、2017年から2018年の2年間でも約400万部も減ったという。
 そんな中、新聞を読む世代も変化し、若い世代の多くは読まない世代となりつつある。
 50代以上では毎日、新聞を読む人が70%以上だが10代から30代では30%前後。
 この世代で新聞を購読しているひとは少ないのではと思う。
 そこには雇用情勢の変化も大きいと思う。かつては就職すれば安定した暮らしが保証され、新聞をはじめ文化的な事にお金を使う余裕が若い世代にもあった時代と、非正規で収入も不安定な状態で仕事をせざるを得ない人たちが労働者の40%を占める今の現実の中では新聞も必然的に生きる上での必需品ではなくなりつつあるのではと思えるのだ。
  
 映画『i-新聞記者ドキュメント-』は2019年度キネマ旬報文化映画部門においてベストテン1位を受賞した作品であり、監督はフリーのドキュメンタリー映画監督、森達也。

ドキュメンタリー映画と私見
 最近はドキュメンタリー映画も劇場ではよく公開されており、珍しくもないが、今から30年以上前に大阪でみたルイス・ブニュエル監督のスペイン映画『糧なき土地』は衝撃的だった。スペインのコルデスという片田舎で貧しさに苦しみながら生きる人々の映像はファシスト政権を敵に回す事になり、以後、ルイス・ブニュエルはフランコ政権下のスペインで映画を撮る事ができなくなってしまう。
 ドキュメンタリーではないが、1959年制作の映画『黒いオルフェ』では映画舞台の一部にブラジルの貧民街ファヴーラがなっていたことからブラジルでは公開されなかったし、最近では2013年、中国のジャ・ジャンクー監督作品『罪の手ざわり』があまり見せたくない中国の一部を描いたとして中国では公開されていない。

想定内の作品?
 それらに較べれば映画『i-新聞記者ドキュメント-』はまだ劇場公開されており、政府の想定内の作品なのであろう。それは日本映画の限界をも?示しているのだろうか?
 また韓国女優シム・ウンギョンが2019年度キネマ旬報最優秀女優賞を受賞した劇映画『新聞記者』は韓国でも公開されたが観客の不評をかい、1週間で打ち切りとなった。民主化以降の映画を見続けている韓国国民には物足りなさが残る作品だったのであろう。
ブリタニカ国際大百科事典によればドキュメンタリー映画の特徴は事実をその現場で撮影するのが基本と記されており、事物の表面の記録にとどまらず、その内に潜む真実をも露呈させるものだと…。
果たしてこの映画はこの定義に当てはまるような作品になっているのであろうか? また監督・森達也の思いが映像の中で充分に表現されているのだろうか?

望月記者は直球派
 映画『i-新聞記者…』の主人公、東京新聞の望月記者は官房長官との記者会見でのやり取りで有名になった人だが、映画の中でも分かるように自分の意見がそのまま記事になるような事はない、新聞社に属する大勢の記者の中の一人だ。
彼女が回りの空気を忖度せずに、いつもその行動と発言が直球的なのは何故なんだろうか? 国民が疑問に感じている事柄を当たり前に質問しているだけなのに何故か映画の中では目立ってしまっている。様々な社会の出来事にいつも何故?を問う姿勢が望月記者を突き動かし行動させる。記者としての原点なのではと思う。
 3月28日の首相のコロナウイルスに関する会見の時、フリーランスの記者が二人指名されて質問をした。一人は江川紹子さん、もう一人はニュースメディア社の神保さん。彼は7年間も質問出来なかった人だ。その事自体が話題になるという事自体が日本の新聞というメディアの危機を物語っている。

ドキュメンタリー映画は真実?
 ドキュメンタリー映画は使う映像により、悪意に満ちたものとなる。2009年度アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞受賞作品『ザ・コーヴ』では和歌山県太地町で古くから続くクジラの伝統漁法と捕鯨で生きる人たちをまるで「高度な知能を持つクジラを虐待、虐殺する漁師たち」という表現で真実を覆い隠し、世界に広めた。

この作品と私たち
 映画『i-新聞記者…』で扱われている事柄はどれも国民の注目を集め広く報道されたものから一地方の問題として扱われたものまで多種多様だ。
 しかし、映画の中で私たちが身近に感じられないと思う問題でも根本的には私たちの生き方と深いところでつながっている。そうおもう事ばかりだ。
 映画が描いた現実は今も解決を見ることなく、私たちの前に存在している。けっして映画の中だけの物語にしてはならない。それがこの映画を撮った森達也監督の思いを受け継ぎ、望月記者の思いを受け取ることに繋がると思えるのだ。
(水)

ひとくち感想

◎大変よかった  ◯良かった  ◇普通  ◆あまり良くなかった  ☐その他

望月衣塑子の現代社会、政府、メディアに対する個人の思いを、いかにすなおに世間に出せるかの挑戦だった。現政権の行いが、いかにギマンに満ちているか。それを全て表に出してほしい。(77歳 男)
望月さんの強い信念に敬意を表します。菅さんはシナリオ通りのやり方なんですね。これが日本の政治家と思うと悲しい。しかし現実は沖縄のことが戦争前と同じように国民の知らない間で着々と進められて気がついたら戦争してたと同じような形になっていく将来を思って、又、悲しくなりました。国民が賢くあるってむずかしいことなんですねと思ってしまう。でもくじけないでおかしいと思うことを声をあげれる意志は持ち続けたい。望月さんに叱られます。いろいろ思いますが、何だか悲しいという気持ちだけが残ったドキュメントでした。(76歳 女)
望月記者のエネルギーに圧倒された。最後の森監督の言葉が重い。(七六歳 男)
望月記者の民主主義を守る奮闘に頭が下がります。このような記者さんが増えて欲しいと切に願います。(76歳 男)
ここ数年の「おさらい」的感じではありますが、望月さんの体力・執念に感心します。取材の舞台裏が判って興味深かった。しかし、記者クラブの体質、多くの日本人の民度変革にこの映画が少しでも役立つことを願います。(気分の悪くなる顔がたびたび出てくるので少し閉口)(73歳 男)
初めて鑑賞しました。この映画ドキュメントは政治の裏側を生で写した。とっても良い。日本をよくする為にも良い。(73歳 男)
現権力者が、強力な「保身」のための権力を持ち、実行している!!「複数(我々は)の一人称」は、「単数(私は)の一人称」が人権を守られなければ成り立たないと考えさせられた!(73歳 女)
とてもおもしろかったです。記者たちの苦労がよくわかりました。日本の自由度がとても低いことが心配。新聞を読む人が少なくなっていることも心配です。平和で自由な日本でありたいですね。(72歳 女)
一人称単数、群れてはならない自分の言葉で自分が語る。民主主義に慣れていない小市民の姿が少々おぞましい。しかし知りたい、知っていかねばならない。一度読んでも文章が理解できない、根気がなく気もそぞろ! 何年生きていくかわからないが、少しでも孫たちのため、生きやすい世の中にしたいと頑張るわ。しかし、世の中を変えることにどうしていけばいいのか。望月さんの男前な生き方はすごいね!!(72歳 女)
なんなんだこの国は! 望月さんがんばって! 命を大切にして。新聞記者さんたち、みんながこれだけ、熱を持って仕事をしたら…。(71歳 女)
日本の記者の良心である望月さんを追ってのドキュメントよかった。しかし、他の記者は何を考えているのか? あらためて、マスコミ人として目覚めて欲しい。(70歳 女)
次の面でよかった。問題点(社会の)を再認識させるうえで。(70代 男)
大きな組織(権力)と、それに忖度し自主規制するとりまき集団に抗う i (一人称単数)。望月さん、森さんだけでなく、いろんな人の姿があった。一人称単数は民主主義の基本だ。一方、最後の方で出てきた古い写真で、人間は集団に寄りかかり飲み込まれてとんでもない悪をなすものだ、と突き付ける。自分の目で見る、自分の頭と心で考え感じる、おかしいと声をあげる、そんな基本の大切さを改めて思った。(69歳 女)
考え方は一人一人異なっていても、表現の自由、言論の自由は尊重されるべき。それを権力でおさえこもうとしているのが現アベ政権ということを森さんは望月さんの姿を通して表現していると思います。(68歳 女)
多くの人たちの協力で新聞、テレビとはまた違った報道になっていたと思う。(67歳 男)
望月さんの講演を聞いたことがありますが、その時のバイタリティーそのままの映像でした。日本の政府やジャーナリズムがもっと開かれたものにならないと、いろいろな問題も、ウヤムヤになるのかなと思います。(66歳 女)
望月さんのバイタリティすごい。一回講演会を聞いたことがあったが映像で見ると感じが違って見えた。方向音痴なところは私と同じだ。(66歳 男)
真実は一つのはずが、メディアによって変化させられている。ニュースは事実を正しく伝えているものと思いこんで、テレビのニュースによって人の心は操作させられている現実がある。忘れやすい国民、深く考えない国民ではなく、自分の眼で見たことをしっかりと見ようと思う。ジャーナリストのたましいに期待しています。(66歳 女)
今回はいろいろと考えさせられるテーマでした。若い世代の人たちにも、ぜひ見て頂きたいなと痛感します。まずは身近な人からすすめてみます。(60歳)
ドキュメンタリーとは思えない多角的な映像。(55歳 男)
みごたえありました。(53歳 女)
マスコミ、頑ばってほしい。
麻生さん、安倍さん、菅さん、はやく消えてほしい。

いつも御世話になって有難うございます。(83歳 女)
菅の顔が最後のスクリーンに写った。イラストそのものだった。なんぼ仕事柄とはいえ、無能無策の安倍の忠犬か? 望月記者の勇気と記者魂が光っていました。どうぞお元気でいらして下さい。(74歳 女)
コロナ禍の中で集団心理というか、みんなと一緒というのがこわい時がある。自分は自分でありたい。そんな生き方をしたいです。(73歳 女)
最近このような感動的な作品にめぐまれないので、望月さんの正義感…事実を世に知らせる職業としての義務を果たしているように思えた。すばらしかった。もっと若者に見て欲しい。私、西宮から来ましたが、新開地駅から当館に来るまでは怖かった。どうして老人たちが道路をしめてだらしない姿をしているのか。(70歳 女)
iはisoko(衣塑子)のi, iはinformation(情報)のi, iはindependent(自立)のi, iはideal(理想)のi。 だけど、 また、 iはillegal(非正当)のi, iはiwashi(鰯)のi, iはishuku(萎縮)のi, iはidiot(愚か者)のiでもあるわけで。史上最悪とも思える政権下で、史上最悪の災厄を蒙っている不幸を思うと、森さんが映画の最後で言うように、i=identitiyを今こそしっかり持たなきゃ、と強く想ってしまいました。(68歳 男)
望月記者の同僚の言葉「空気を壊す」RKB毎日放送の記者の言葉「右派も左派も記者の仕事に変わりはない」心に届いた。(67歳 男)
望月記者を追いかける映画ですから、彼女の考え方や行動パターンが描かれますが、それ以上に森監督が記者会見に入れない問題が繰り返し描かれます。これを主催する「記者クラブ」なるものの問題だと思いますが、その責任者をスクリーンに出さないのはなぜか。「マスゴミ」などと呼ばれる「伝統的メディア」の弱点をもっと暴いてほしかった。わずかに前川喜平さんを報道した読売新聞に言及しただけだった。その新聞が世界一、日本一の発行部数であるのに腹が立つ。(64歳 男)
想田和弘監督作品、ムリでしょうか?(63歳 男)
国際松竹で二週間だけ上映の時に、なんとか見に行けて、よかった作品だったので、映画サークルに取り上げてもらえてうれしいです。政府が国民は馬鹿だと思っている、と言うジャーナリストのシーンがありましたが、今回も腹が立ちました。他にもいろいろと感じましたが、これにつきる、と思います。次回上映作品も大阪で見ていますが、期待しています。(60代 女)
iとは? 自分自身に問われているのか、迫力ある映像でしたが、望月さん、森さん共、好き嫌いは分かれるかも?
映画の中のこんなダメダメな政府でコロナ時をむかえてしまったのだからうまく対応できるわけもなく…。本当に情けない。
日本の政府の人間は皆悪代官のようだ。特に麻生。

望月記者の不屈の闘いは尊敬だけど、他社の記者は誰も望月記者と闘わないのですか。赤旗記者は官庁記者会見に入れないのですね。(80歳 女)
最後のメッセージには賛同します。(80歳 女)
ジャーナリストの使命がよく分かった。日本において、ジャーナリズムが機能していないということも。(62歳 男)
一人でも多くの人が見るべき映画でした。そうすれば日本は変わる。そのためにも「半沢直樹」のようにたくさんの人に見てほしいと願います!(56歳 男)