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2020年6月例会『北の果ての小さな村で』

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解説

遥か遠くに確かにある 小さくて温かな場所

 世界中におよぶ新型コロナウイルスの影響は、私たちに目に見えないものが確実に人の命を奪っていく恐怖を見せつけると共に、今までの便利で快適な日常がいかにもろいものであるかを知らしめました。不安と懐疑の中での自粛という名の行動の制限は、人との関わり方にも課題を突きつけ、文明化されている国に暮らしていると思っていても、人間一人ひとりはいかに弱々しいものであるのかを思い知らされました。
 又、コロナウイルス対策等の報道で海外ニュース映像を見る機会も増え、地球上のそれぞれの場所で「社会」があり、人々は日々暮らしを営んでいる当たり前のことを再確認することになりました。
 『北の果ての小さな村で』は、約80人が住む極寒の地の村を舞台にした物語です。
 世界で一番大きな島グリーンランドの神々しいほど美しい自然をスクリーンに映し出して、主人公アンダースをそして私たちを迎え入れてくれます。

デンマークの青年、北の果に行く
 29歳のアンダースは、父の反対を押し切ってグリーンランドで教師の職に就こうとしている。
 デンマークと同じような生活ができる首都ではなく「片田舎」を望み、デンマーク語を教えるし、グリーンランド語を覚えたいと言うまるでバカンスか交換留学生のような感覚のアンダース。しかし、その思いは担当者にぴしゃりとはねつけられる。
 息子の行き先がグリーンランドというのも気に入らない父からは、「あの島の人々は酒飲みばかり」だと言われる。
 仲間たちに祝福されて、アンダースの「長い旅」がはじまる。
 一面雪と氷に覆われ、色とりどりの家が並ぶ人口80人の集落に教師として一歩を踏み出した彼は、すぐに生活面での不便に直面する。
 新米教師としては、授業に集中できない子どもたちに苛立ち、実の両親と暮らしていることが珍しいことに驚き、学校でおやつを貪るように食べる様子に家庭環境を心配するアンダース。
 連絡もなしに学校を休んだ生徒アサーの家に訪問すると祖母から、祖父と犬ぞりで旅に出ていたと聞かされる。
 「アサーの夢は猟師になること。大切な事はすべて祖父が教えるわ」と祖母に突っぱねられ、この地で教師であることに自信を失う。
 親しい友人もできず、村の集まりにもひとり呼ばれず孤立感を深めていく。極寒の地で暖房が壊れた部屋でひとり、アンダーソンは孤独を感じていた。

翻弄されてきた緑の島
 2019年8月、トランプ大統領は、グリーンランドの購入について「戦略的に興味深い」と発言。対してデンマークのフレデリクセン首相は「グリーンランドは売り物ではない」と反論している。
 又、最近では、豊富な地下資源に中国が関心を示している。
 しかし、デンマークも地理的に遠いグリーンランドを長きにわたり占領し、古来から狩猟を糧に自然と共に暮らしてきた先住民の生活を変えてしまった。現在では、自治権を得ているものの「本国」デンマークの影響は強く反映されている。西部の大都市ヌークでは、経済発展を遂げ、教育、医療等デンマークの地方都市と大差ないようになっている。
 画一的な近代化は、西洋的な豊かさを得た判明、アルコール依存症や若者の自殺の増加という負の部分も生み出した。
 劇中、アンダースは学校の給湯室で地元出身の同僚にいくつかの疑問を投げかけるのだが、「あなたは最初から、ここの人たちを見下している」と言われる。
 村民にとっては、アンダースの言葉は、彼個人のものではなく、デンマークがグリーンランドに与えた屈辱を意味するのだろう。

アンダースの目覚め
 村の人々と一緒に見た冬の花火の美しさは、アンダースに明るさを取り戻させ、柔らかい心で住民たちに接することができるようになる。又、人々も彼を受け入れるようになっていった。
 物語はそのあたりからスピーディにエピソードを重ねていき、彼のいくつもの新たな経験がユーモアをもって描かれている。
 猟師のトピアスの幼い頃の猟の体験を興味深く聞いたアンダースは、彼を学校に招いて子どもたちに話をしてもらう事もする。
 映画は、新しい命と同様のトーンで白一色の中での葬列のシーンをスクリーンに映し出す。
 時には美しいオーロラに包まれる神秘的な村は、いくつもの伝承の物語を持っている文化的にも魅力的なところだった。

そして人々の営みは続く
 サミュエル・コラルデ監督は、フランス東部のジュラ山脈にある実家の農家を描いたドキュメンタリー作品で映画作家としてスタートしたときから、牧歌的で雪に覆われている世界「グリーンランド」でいつか撮影したいという思いがあったという。
 2015年に初めてグリーンランドを旅した時、英語が話せる電気技師のジュリアスという男性に出会い、彼の案内で東部の村々を訪れた。そして彼の故郷人口80人の小さな村チニツキラークを映画の舞台にすることを決心した。
 この村で出会った女性教師から退職し、新しい教師が来るという話を聞いた監督はその人物を主人公にして村の生活を描こうと考え、アンダース・ヴィーテゴーに連絡を取った。
 北欧人らしい大柄な青年は、シャイで明るい性格だと感じたが、話すうちに心の中に悩みを抱えながらグリーンランドに行こうとしていることも知った。
 村に暮らすほとんど全ての家庭とやりとりをする教師は、村民にとって重要な役割を持つ存在だ。教師としての経験もなく、グリーンランド東部の予備知識もないデンマークの青年が村にどう溶け込んでゆくのか。
 コラルデ監督が得意とするドキュフィクション(ドキュメンタリー的要素がつまったフィクション作品)映画である『北の果ての小さな村で』は、アンダースを道案内役にしてストーリーを展開する方向性が見えたという。
 教室での子どもたちの様子や食事の場面、日々の生活の瞬間等はすべてドキュメンタリーで、一方で終盤の犬ぞりでの探検のシーンでは演出が必要であったが住民に協力してもらい撮影したという。
 
 『北の果ての小さな村で』は、圧倒的な自然の美しさと共に、野生動物に敬意を払いながら、その命をいただく行為、相棒としての犬との関係なども写し出している。
 又、この地で収入を得る事の困難さや、猟師として生きる事の厳しさを教えてくれる。決して、夢物語を描いた作品ではない。
 しかし、映像の中で、生きる一人一人がなんと魅力的なことか。彼らは決して人を責めない。自分自身だけを見つめ、しなやかに生きている。
 「デンマーク人は複雑に考えるんだな。何がしたい?」
 その言葉は、今、私たちの心に響く。
(宮)

ひとくち感想

◎大変よかった  ◯良かった  ◇普通  ◆あまり良くなかった  ☐その他

グリーンランド南部のチニツキラークという80人の村での素朴な日常生活と自然との戦いの中で、デンマーク語の先生が、いかに現地の住民となじんで行けるかをすなおに記録している。言葉は昨年上映された『サーミの血』の住人たちが話すスウェーデン、ノルウェー語と同じ語源の単語を用いた点は、理解しやすかった。(77歳 男)
地図だけで知っていて、平坦とばかり思っていた。夏冬の変化もある。結局、いろいろな自然があり、いろいろな人がいる。しかし、やはり厳しい土地だと感じた。(76歳 男)
いやーよかったです。機関誌で作品がつくられるきっかけを読んでたのしみにしてました。文化のちがう所に同化するには、みんな通る道だと思いました。彼の人生が輝いていくのが想像できました。あの大きなところで人間は小さく生かさせてもらっていると感じました。今ある私たちの状況も形はちがうけど苦労は同じだと思う。まだ恵まれている!!(75歳 女)
グリーンランドの人々のきびしい自然との共生は「尊厳」という言葉が思い浮かびました。地球の果てだからこそ残ってこられたのだろうと一人納得しました。(74歳 女)
久々の感激(?)うれしいです。映画大好き、大好き人間です!! 最初はこわごわです。自然、大自然の中の生活が大きいため。もう一つは教師と子どもたち、地元の人々との葛藤にたえず神経質になってみていました。大きいだけに終わり頃はアーと、いう間でした。あっと感じでした。これから続けてみたいです。これからも!(73歳 女)
白い世界に堪能しました。これは大画面でないと味わえない。コロナ禍を乗り越えて上映にこぎつけてもらった努力に感謝です。(73歳 男)
きびしい自然の中での生活、私達の便利すぎるなかでの生活は、人間のくふうする生活も失われていくのではないか、とも思います。その土地土地での生き方、食べ物が守られていけるように願っています。温暖化も心配です。(72歳 女)
地球上に、まだ、こんな美しい大自然があり、その中で生きる人々が(私からみて)自然な人間の営みをして人生を生きぬいている事が、やっぱりスバラシイ。オーロラが美しかった。家が適度にステキだった!(72歳 女)
デンマークから持ち込んだ意識のままの授業は空回り。しかし、アンダースが雪と氷に閉ざされた不便な村で生きることを学び始めたとき、人々の心の豊かさも見えてきたのだと思う。猟師トビアスの話に子どもらの瞳は輝く。厳しい自然の中で生きること、生きるために殺す野生動物との付き合い方、オーロラの話やおばあちゃんが語る伝承、葬式。犬ぞりでの探検の場面は特に、厳しく美しかった。時代の流れの中、難しい問題もあるだろうが、アサー少年とアンダースはそこで大事なことを学びつつ生きていくだろう。(「女の子も猟師になれますか」と聞いた子は、どんな道を行くのだろう)(69歳 女)
グリーンランドの人達、アジア系の顔立ちにびっくり。テレビや新聞でグリーンランドがでてきたらこの映画を思い出すだろう。(66歳 男)
人生に意味など無意味かも…。生きてる手応えさえ感じられたら…。それだけで…。(61歳 男)
全然ちがう環境の暮らしが見られて、とても新鮮だった。すばらしい自然!! どこにいっても子供たちは屈託なくあどけない。でも、あの大自然の中で生きていくのは厳しいことだろう。アサーがどのように成長していくのか見てみたいような。白くまの親子が印象に残った。ありがとうございました。(57歳 女)
人生の楽園(又は地獄?)、グリーンランド編! 犬ぞりの旅がとても楽しそうだった。(女)

アンダースの青春はグリーンランドにあったのですね。グリーンでなくホワイトのきびしい寒さと闘い…。でも、人とのふれあいがあたたかい。故里よりこの北の果てが彼の生きる場所なんですね。(72歳 女)
豊かな人生って、富って何だろうと、あらためて感じ、考えさせてくれました。ありがとうございました。(72歳 男)
デンマークの青年教師アンダースを、そのアンダース本人が演じ、グリーンランドの寒村チニツキラーク現地の人たちによって描かれる映像詩のような情景は、ロバート・フラハティによる世界初のドキュメンタリーと言われる『極北のナヌーク』を彷彿とさせるものがあり、しみじみとした迫力を感じました。文化啓蒙の命を受けた教師が、現地の伝統習俗に共感していく様は判り易くはありますが、きっと結局は、この大事にされるべき「本当の文化」が、アンダースがグリーンランドに赴任申請する窓口で女性役人の放った論理「デンマーク語を話せないと(都市文化に染まらないと)彼らは不幸になる」という支配国家による同化政策の中で、別の意味の「不幸な世界」に変わっていくのだろう、と少し哀しい気分にもなりました。(68歳 男)
あまりにもかこくな環境にあらためて驚きました。アンダースが村の人にうけいれられていく様子にほっとしました。子供の笑顔がとてもかわいかった。あまりにも自然のきびしさの中で生きる人たちは本当にすばらしかったけど、やっぱり、私は生きていけない。久しぶりの映画でとてもよかった。やっぱり映画はすばらしい。(66歳 女)
心いやされる映画でした。グリーンランドの人々の日常はほぼドキュメントなのでしょう。アサーは猟師になる道を選ぶとしても、アンダース先生から多くを学べば、おじいさんとは、また違う猟師になれる。この村のくらしも少し変わる。グローバリズムによる生活の変化がこのようにゆっくりとしたものだったら、世界はもう少し幸せなのかもしれないと思った。(64歳 男)
上映作品は二回目ですが、グリーンランドのくらしに徐々に慣れていくところをていねいに写し出していてよかったと思います。二ヶ月余り、映画館へ行けなくて、自宅でDVDを見ることもできず、再開されてうれしいです。最終回の前にKAVCシネマで『水と砂糖のように』という撮影監督のドキュメンタリーも見ました。有名監督の信頼も厚く「光、光、光!」と技術面も極めた人ですが、周りの人を思いやる暖かい人がらが素晴らしいチームワークで芸術作品を高めることにつながったようです。人が人と映画を作るということを改めて教えられました。(60代 女)
子供の頃から興味を持っていたグリーンランドが舞台の映画。家族は今どきの映画館はまだ心配、と一人での参加となりましたが、来て良かったです。厳しい自然の中での伝統的な暮らしが変化していくのは時代の流れで仕方無いのかもしれません。しかし、その昔ながらの暮らしの中にこそ、本当は人生の中での大切なことが、全てあるのかもしれない、と思わされました。(59歳 女)

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