2020年7月例会『芳華』

解説

大きな時代のうねりの中で 翻弄される若者たちの姿。

 2010年に元町映画館が開館した時、オープニング上映作品の1本としてかかっていた作品、『狙った恋の落とし方。』を覚えていらっしゃいますか? 軽快なテンポで進むストーリー展開、海南島の、杭州の、そして北海道の息を呑むほど美しい情景描写。4月例会作品『芳華-Youth-』は、『狙った恋の落とし方。』を撮った馮小剛(フォン・シャオガン)監督の作品です。
 映画館で予告編をご覧になり、ひと時代前の青春時代を彷彿とさせる情感たっぷりの美しい映像に心を鷲掴みにされて、本編をご覧になった方も多いかもしれません。私もそのひとりです。

 フォン・シャオガン監督は、チャン・ツィイー主演の『女帝エンペラー』(06)や『戦場のレクイエム』(07)、『唐山大地震』(10)など数多くの話題作を手がけた、中国を代表するヒットメーカーと言われる映画作家です。これまで中国国内最大の映画賞である金鶏百花奨を五回も受賞しています。また、ヴェネチアやトロントでも受賞歴があります。
 原作は『シュウシュウの季節』(98)『妻への家路』(14)で知られるゲリン・ヤンです。
 中国公開時に2週連続1位を獲得。1ヶ月で興行収入230億円という爆発的な大ヒットを記録し、年間興収ベストテン入りを果たしました。中国国内の映画賞のみならずアジアのアカデミー賞と呼ばれるアジア・フィルム・アワード最高の最優秀作品賞に輝きました。
 作品の舞台となっているのは人民解放軍の文芸工作団。後に作家となった団員、スイツを語り手に、人民解放軍の若者の青春を描いた群像劇という形で物語は進行します。文化大革命で揺れた1970年代から中越戦争を経て現代までという大きな時代のうねりの中で翻弄される若者たちの姿を描いています。

 フォン・シャオガン監督は1978年、20歳の時に北京軍区の京劇団に入り美術部員として7年間活動していました。また原作者で、脚本も担当したゲリン・ヤンは、12歳で四川省の文工団に合格し、8年間、団員として活動していたそうです。制作者自身の青春時代への懐古が色濃く前面に出ている作品に仕上がっています。思い出は美しく昇華され、登場人物たちの悩みや苦しみでさえも、まるで夢のような時間を過ごしているように見えます。

ストーリー
 1976年の中国。兵士を慰労・鼓舞する歌劇団、「文工団」に農村出身で17歳のシャオピンがダンスの才能を認められ入団する。周囲となじめずにいる中、模範兵のリウ・フォンだけが彼女の唯一の支えだった。しかし、時代が大きく変化する中で起きたある事件をきっかけに、二人の運命は非情な岐路を迎える・・・。

 日本に紹介された文革期を描いた中国作品といえば、弾圧された人々の悲劇を描いたものが多い印象がありますが、『芳華-Youth-』では人民解放軍内の若者たちを、私たちと何ら変わらない等身大の若者として描いています。喜びや苦しみ、時に恋をし、傷つき、傷つけ、悩み、という青春の日々が、普遍性を伴って胸に迫ります。この普遍性を感じさせることが重要だと感じました。彼らが在籍する文工団は、いわば前線へ兵士を送るための広報活動の一端を担う組織。戦場へと、死線へといざなう活動と言い換えても良いかもしれません。青春時代へのノスタルジーを共有することにより、スクリーンの中の彼らは容易に国や時代を超えて私たちと置き換わります。
 どんな時代も、どんな社会も、特別な何かによって生み出されるのではなく、社会を構成する私たちひとりひとりが作り出して行くのだという事実が突きつけられます。

 続いて描かれる1979年の中越戦争の場面は衝撃的でした。文工団での青春模様を描いた情景から一転して、戦闘の様子や野戦病院の描写へと移ります。戦争の怖さや汚さ、死の恐怖がリアルに伝わってきます。隣の国で、自分とほぼ同世代の登場人物たちが「戦争」を経験していることにハッとさせられました。時に目を背けたくなるようなシーンが繰り広げられます。6分間に渡り、ワンショットで撮られた戦闘シーンの臨場感は、本物の戦場に迷い込んだかのような迫力です。『戦場のレクイエム』で朝鮮戦争を描いたフォン・シャオガン監督は『芳華-Youth-』ではその戦場描写を一歩深め、ヒロイズムでなく、悲劇でもなく、より現実を直視させる描写へと舵を切っているように思えました。
 そして時代は移り、戦闘や野戦病院での働きで英雄となった彼らの報われないながらも誠実に生き抜いていく姿、親が幹部の子どもたちがその後の中国の経済発展の波にうまく乗り、金銭的に成功を収めている姿までを描いています。時代の、社会の不条理にやるせない思いを抱きながらも、深い余韻とともに何かがしっかりと心に刻み込まれていきます。

 シャオピンを演じるのは、純粋でまっすぐな眼差しが印象的な新星ミャオ・ミャオ。シャオピンが一途な想いを寄せるリウ・フォンを演じるのは染谷将太主演の『空海―KU-KAI― 美しき王妃の謎』で白楽天を演じたホアン・シュエン。文工団のダンサーたちが踊る、京劇と現代的なバレエを融合させた華麗で躍動的なダンスと、楽団員たちが様々なシーンで奏でる心に沁みる美しい音楽の数々も、作品の大きな魅力です。
(mei)

ひとくち感想

◎大変よかった  ◯良かった  ◇普通  ◆あまり良くなかった  ☐その他

久しぶりに中国映画よかったです。(83歳 女)
今回、映サの映画は初めての友人を誘いました。「二人の間に何かがあったという内容ではないけれど、何か心に響く暖かい気持につつまれる内容だった。あゝいうふうに生きなければいけないなと思わせてもらった。良かった」と、とても喜んでくれた。 私は時々居眠り、ストーリーはプツン。プツン。「あーあ」です。それでも覚えている場面から主役の女の子の可愛らしい事!! 相手の男性共々謙虚でひたむきに生きる姿に深い感動と生きる励みをいただきました。(79歳 女)
文化大革命の時期、香港に住んでいた友人は大陸から続く川に死体が何体も流れたきたと言っていた。今の中国留学生の殆どはこの映画を見たという。習近平の時代に又物言えぬ歴史が繰り返さない事を願う。(75歳 女)
最後のベンチのシーン、良かったです。それまで少々あった違和感(特に中国の解放軍について感じていた)も吹き飛びました。(73歳 男)
それぞれの人間が生きて人生を重ねる。国家体制が違っても同じ思いをしている。そして、今私も老いの中。「青春を同じ環境」で生きた人々の変化が見れて、よかった。(72歳 女)
とても感動しました。何回か涙してしまいました。戦い、青春、人生、いろいろ考えさせられます。私も後半の人生、私の青春、いろいろ思い出されますね。(72歳 女)
軍服の無断着用がばれたときは、謝らなあかんやろ、と思ったが・・・。理不尽だらけの世に、自分にとって大切なものを守る彼女なりのやり方が徐々に見えてきた。父のこと、リウへの思い、踊ること。自然を背景に病院着で踊るシャオピンの姿が印象的だった(機関誌の表紙、これでしたね)。そして、リウへの思いも静かに確かに、彼女の中にあり続けたのだ。ゲリン・ヤンの小説を読んでみたいと思った。(69歳 女)
NOと言えない青春世代を描いた。私たちは少なくともNOと言える事を大切にしたい。(67歳 男)
戦争のリアルな場面もあったが、中国の若者が時代にくみこまれたことがよくわかった。みんな同じ青春のよろこびだ。テレサ・テンの曲がとても自然でよかった。心のままに生きられるいまがいい。(66歳 女)
入団直後の軍服姿の写真、敬礼が、ストーリーの最初から一本の柱としてつながっていて、よくできた構成だと思いました。(62歳 男)
人生いたる所に戦争あり。いついかなる時も刻みたい。純粋な幸せを・・・。(61歳 男)
二度目です。どうしようかと思ったけれど見てよかったです。いろんな画面があったけれど、最後の二人でベンチにすわっているシーンが一番印象に残っていてすきです。生き抜いて理解しあっている二人がすごすひなびた駅のベンチ。すべてがこの時間のためにあったような気がしました。(女)
二度目の鑑賞でしたが、改めて素晴らしい作品だと感じました。水しぶきや布のはためきが輝かしい青春を表していました。どんな時代にも青春はあるのだと思いました。(女)
戦争シーンはすごかった。(匿名)
中国の文工隊という特殊な(?)団体の映画と思っていたが普遍的な青春群像に涙した。西洋バレエの要素も入った素晴らしい踊り、歌、若さみなぎる人達。自分の青春もやはり輝いていたのかと思わせる。そして挫折、別れ、病気。人生の様々なトンネルをくぐり抜け、たどり着いた境地。だからこその平穏な心境。『インドへの道』や『草原の輝き』を思わせる。ベトナムとの闘いは意外だった。かってベトナム戦争であんなにも支援し合った関係なのに。この頃から中国の覇権主義が始まっていたのだろうか。−いつも素晴らしい映画をありがとう。1回目『大地は揺れる』から見ています。(所で最初の事務局長はかの有名な木崎さんだったのですね!)(10月例会『パパは奮闘中!』に期待しています。やっぱりフランス映画はいい!)

再び、ここで映画を見れてよかった。出演者が、みんな美人で同じように見えわかりにくいところもあったが、青春を力いっぱい生きたこと、自身と照らして感じ堪能した。(70歳 女)
現在から1976年毛沢東死後の中国を振り返る映画には多くの制約があることは、容易にわかります。その下でも彼等の青春、その後の人生の描き方に『芳華』以外の抑えた怒りを感じました。特に中越戦争の悲惨戦場とこの戦争の意味をまったく語らず、戦傷者、心の中を深く傷ついた者を出すことの意味です。さらに片腕を失った男が、苦労して生きている姿は(警察にイジメられることも含め)鋭い社会批判になっていました。(64歳 男)
みるのをためらっていましたが、みてよかったと思いました。(59歳 女)
きれいな若い男女たちの映像を見ているだけでいやされる。その後の人生は、生きてみなければわからないのは誰もが同じ。それでも時代がその時の政権が大きくかかわってくる。(女)

冗長だった。この骨子で違うシナリオでもっとよい作品を作ればよかったと思いました。もっと歌や踊りをきちんと見せてほしかった。自分の思ったような作品ではなかったのが残念でした。「ありがち」でもよいからそれが見たかったと思いました。これが「中国映画」なのでしょうか?それならそれでいいことにしましょう。(女)

力作、であることは認めます。でも、そこはかとない不快感。国策世情に翻弄され、いろいろあったけど、あれはそれでも「青春の芳しき華」だったんですよね、と丸めてしまうような気分には、少なくとも私は到底なれません。結局は、中国政府の現況を諾々と受容した上でのささやかな情感へと落とし込んでしまっているようにさえ、思ってしまった・・・。今の香港の状況も、何年か経ったらこんな風な感懐譚としてまとめられてしまうんじゃないか、とまで考えてしまうのは、うがち過ぎでしょうか。(68歳 男)
『コリーニ事件』を例会でとりあげて下さい。(68歳 女)

鑑賞して良かったと思いました。現在の中国の香港、台湾への人権、民主主義否定の動きでは映画の内容は別に鑑賞しようと思う人は少ないのではと思い残念です。対ベトナム戦の場面には驚きました。政治にほんろうされながらも懸命に生き抜く男女の姿には胸を打たれました。中国が初心を思い起こし世界の平和と人権、民主主義を守り国民を幸せにする政治に戻ることを願わずにいられません。(78歳 男)
結論から、やっぱり中国を題材の映画はなかなか感情的になり表現できない。テレサ・テンの歌も時代が過激に写る。偏見か頭が青いのか。ごめんなさいね。(73歳 女)□今の中国から見てこの映画は宝物です。(72歳 女)