2020年2月例会『パリの家族たち』

解説

描かれるさまざまな家族のありかた

 『パリの家族たち』、やさしい色合いの数家族のスケッチと思ってみると、意表を突かれる。
 冒頭「いろいろな母親がいる。親にならない母親も。ダメな母親も」と、はじまる。
 原題は「母の日」。母の日までの数日間が描かれている。
 「家族たち」ではなく、パリの「母子」の物語。父親として登場するのは、母親になったばかりの大統領の夫、ただ一人である。
 数組の母子の場面が切り取られ、コラージュのようにちりばめられていく。
 母子と書いたが、見たときは母娘の印象をとても強く感じた。
 監督は「母の思い出と共に生きる息子。母親に対して過保護な息子」と、息子の存在も母との関係性において取り上げている。
 劇中で語られる「母の日」の由来や、提唱者がその後商業主義に利用されることに抵抗した事実もでてくる。女たちの母と娘についてのいろんな思いが交差してゆく。
 けっこう辛口の映画であり、問題提議もはっきり現わされていて、見ていて戸惑う場面もある。しかし日本でも意識される事柄も多くある。
 旧来からの親子の「こうである」として規定され、また「かくあるべし」とされてきたあり方。それをそのまま肯定する母親もいれば、受け入れられず悩み反発を感じる母親も女性もいる。それ以前に、産まなければ親にはなれないのかということも含めて、パリに生きる女性たちを描いた。

 登場する親子たち
 大統領(アンヌ) 出産したばかりで、夫は育休を取得中。母親として自信が持てず、今までの自分が変わってしまったと思っている。
 三姉妹とその母親
 ・小児科医の長女(イザベル) 幼いころに母親を求めて応えてもらえなかった心の傷?を抱えている。モザンビークから養女を迎えようとしている。
 ・ジャーナリストの二女(ダフネ) 二児のシングルマザー。子供たちはシッターのテレーズになつき、ティーンエイジャーの娘は母親に反発している。
 ・大学教授の三女(ナタリー)年下の恋人(教え子)がいる。講義で「母の日」を取り上げ「期待とストレスが交差する面倒な日」という。
 ・三人の母親(ジャクリーヌ)母親より個である自身を優先してきたが、今は徘徊をするようになっている。誰も一緒に暮らそうとはしない。
 三姉妹の女友達(ブランシュ)  彼女も母と口を利かない生活を続けている。
 女優(アリアン) 舞台でセリフを忘れてしまい、息子(スタン)に心配されている。でも、タップダンスを習い新しいことを始めている。
 花屋の店員(ココ) ゲイのおじの花屋で働く。妊娠したことを恋人(スタン)に告げようとして、受け入れてもらえない。その恋人はカフェを経営している。
 シッター(テレーズ) ダフネの二人の子供の世話をしていて、子供たちとも良好な関係を築いている。が、転倒し仕事ができなくなる。 大統領(アンヌ)の母親である。
 中国人の娼婦 息子のために遠く離れて暮らす。パリの街角の風景にたたずむ。

 そして「母の日」
 大統領アンヌはダフネのインタビューを受ける。「母になって自信が崩れた。母親は偉くもないしすごくもない。でも、前の自分と確実に違う。私を豊かにしてくれる。母親見習い中です」
 テレビを見ている息子を抱く大統領の夫、スタッフ達。
 テレーズは家族とともにテレビを見ている。娘を見る誇らしげなテレーズの顔。
 女優アリアンは、息子と病院へ行く。息子に「恋人を作って。いい父親になれる。わかってる。私も愛している、もう来ないでいい」と言い残し、息子を突き放すようにステップを踏んで見せる。
 三姉妹は母と食事をしている。デザートのお代わりをする母を残して、一人ずつ席を立つ。見回すと、高齢者ばかりのレストランである。 施設の職員に託して隣室から見つめる三人。
 ココはやっと恋人に妊娠に気づかせることができた。
 ページをめくるように、スクリーンにそれぞれの母娘(子)が映し出されてゆく。
 懐かしい聞いたことのある曲が流れる。「キラキラほしよ あなたはいったいだれでしょう・・・」

 セリフで語られる思い
 「(子供が生まれて)不安でたまらなかった。(子供が優先にならず)罪悪感があった」 「世間は男に寛大だ。母の影響力が大きすぎる。(母の)視線に無関心や失望を感じると子供は傷つく。責任が重すぎる」 「子供を産んだ女は偉いの?世界はあなたのものだから?『私は母親だから』なにをしてもいいの?」 「母から『夢を制限しないで。望めばいい。必ずかなう』と言われた」
セリフに私たちの事?と思わせるような言葉がある。

 一番好きなエピソードを
 シッターが休みのため、子供二人と学校から帰るダフネ。水たまりに足を入れてしまった息子。叱られるかなと母親を見る。次の瞬間 水たまりに飛び込む母親。驚く子供たち。子供たちも一緒になって水をはね散らかして飛び回る親子。
 「また やっていい?」「いいわよ。」
 三人の楽しさが、映像から伝わってきてとても大切な時間を親子で共有していると、ちょっとうらやましくなった。
 ★エンドロールが終わって、場内が明るくなるまで座席でお待ちください。最後にお楽しみが待っている?
(点子)
参考資料:パンフレット・HPほか

ひとくち感想

◎大変よかった  ◯良かった  ◇普通  ◆あまり良くなかった  ☐その他

久々に楽しいひと時でした。ありがとう。(83歳 女)
あとからじわぁと来る映画でしたネ。最初少々わかりづらかったです。キラキラ星の音楽が効いてました。自分の親や子供に対する深い深いところでのつながりを考えさせる映画だった。メインは母の日とは何を考えさせる映画だったのかなぁ?(75歳 女)
フランスらしいエスプリの効いた内容で、亡くなった母を思い出し自然に涙が流れました。在日一世の女性で無学で自分の名前も書くことのできなかった人で、94歳で逝きましたが母への感謝の思いが…私もたくましく生きていきたいです。(74歳 女)
登場人物が大勢で、ストーリー的な理解がむずかしかった。「字幕」が読みづらかったが…どの母親も子供もそれぞれの状況の中で、精一杯生きていると思う。私とても同じである。(72歳 女)
最初人間関係わからんし、エーと思いながらみていました。大統領もタップダンス習う女性も“すてき”久し振り女性が主人公の映画、男性ツマミか!! よかった、よかった。最後サボテン、フランス映画ですねぇ。(72歳 女)
きらきら星のメリーゴーランド。楽しもう~と。でもサボテンって…。(60歳 男)
「何が大事か」というのが何となくわかった。価値観は人それぞれ違っててあたりまえ。お互いに相手を許し、理解しあえることはすごく大事。(58歳 男)

最初勘違いをしていてストーリー映画ではなく、さまざまな家族の表現とわかったのが遅かった。フランスの女性大統領の発言、フランス初の女性大統領として、次は母親の大統領としてが印象的だった。字幕の場所はいつもの所ではなく見づらかった。これも勘違いか?(79歳 男)
複雑なストーリーの映画ですね。女性大統領とその夫、三姉妹とその母親までは分かったが、それ以外は追いかけることができない。解説を読み直したが、三姉妹の女友だち、女優と息子、花屋の店員と恋人、大統領の母親、中国人の娼婦になるとなおさらだ。家族の組み合わせが複雑で、終わった後のロビーでスタッフの方の説明を聞いて初めてこのような映画もあるのだということが納得できた。『パリの家族たち』より『母の日』の方がよいかも知れないですね。母になること・母をやめること・母に悩むこと・等々が描かれている。なお、作品背景は、「生み育てる環境の整備」等、フランス社会を理解する上で参考になる。併せて、例会学習会での白鳥義彦先生の話も興味深く読ませてもらった。(78歳 男)
いかにもフランス(人)らしさというか、日本(人)とのちがいはあるが、同じようなものも多々あるようだ。態度に出して、口に出しているかいないかはあるが。(75歳 男)
大統領のスピーチが良かったですが、人物関係の把握に少々疲れました。親の離婚で母の日のいい思い出がないので、映画の受け取り方が少し違うのかも知れませんが。フランスの女性には圧倒されました。(72歳 男)
「母の日」の成り立ちを知りました。フランスの映画だなと思う事しきりでした。「優しい言葉は耳が聞こえるうちに」が心に残りました。(71歳 女)
フランスらしい映画でした。女性の様々な生き方…、親子のあり方も含めて、日本との違いを感じました。(70歳 女)
パリの様々な家族が取り上げられており、誰が誰かわからず最後まで混乱した。ただ、辛口の映画で、予想していた甘い家族の話ではなかった。そこがフランス映画の特長と思った。考えさせられる映画だった。最近パリへ旅行したので随分この映画の雰囲気は理解できる。個人主義…。(70代 女)
普段着・日常のフランスの街角をみているようでした。よかった。(70代 男)
誰が誰で、どういう関係か、事前にパンフを読んでいてもよくわからなかったけど、母親になること、母親であること(or 母親にならないこと)について考えました。自分の母親のこと、母と自分のこの頃のことも思いながら、肩ひじはらず、自然に向きあえたらいいのに、親子ゆえに構えてしまうところもあるのですね。(68歳 女)
フランス映画独特の作り方で、国のちがいを毎回意識させられる。「母の日」についてあらためて考えた。「母」とは、真にその人を作りあげるものだと思う。絶大なる人格をつくるうえでも、「愛」がいちばんのものなんだと思った。(66歳 女)
母を中心としたイロイロな家族の姿があった。母にならない選択もあるし、同性愛もある。そこにも家族があるから原題の「母の日」よりも「パリの家族たち」がふさわしい。人生の最後は子どもから別れて施設に入るのも家族の姿かと思う。フランス人は最後まで自立を選ぶ。(63歳 男)
二回目なので、前回よりわかってよかったです。解説を聞いてオルセー美術館の時計台がはじめと終りのシーンに出ていることもわかり、内部のシーンもあって、映画の他に楽しめました。お茶のみながら劇中劇のブレヒトの話も聞けてよかったです。(60代 女)
お世話になりありがとうございます。久しぶりに来れました。ホール広くてよいですね。ずい分前に上映された『クレアモントホテル』をスクリーンで観たいです。又、フランソワ・トリュフォー、イングマル・ベルイマンの作品もよろしくお願いします。(58歳 女)
登場人物が多く、しかも、だれしも個性的。弱さやいやらしさ、やさしさ、残酷さをあわせ持っている人間であることを、スクリーンの中で自由に表現している。好感を持ってしまうのは、色々気ぃつかってしまって本音がいえない日本に住んでるから?(女)
最初、誰が誰と親子とかよくわからなかったけど、だんだんわかるようになってきました。意外とおもしろかったです。(女)

オルセーからルーブルのながめが良かった。(60代 女)

登場人物が多すぎて、とてもわかりにくかった。(56歳 男)

「母」というものを多面的に、様々な方向から掘り起こそうとするために、「群像映画」にしようとすることは判る。しかし、余りに登場人物が多過ぎ、また入り組み過ぎて、一体、今喋っている人が誰で、言い争っている人が誰で、その関係性が何なのか、さっぱり判らず戸惑う時間が延々と続いて、正直、しんどいまま、貧しいアタマではちょっとついていけませんでした。でも恐らくはこれは極めてエスプリに富んだ知的な一編ではあろうと思います。「母とは最も狂気の存在である」という言葉は非常に強く耳に響いてきましたし…。ただ、ゲイの男性に「次の世代にバトンを渡せない」という言葉が浴びせられるのには違和感。老母を介護施設へ放り込むくだりも、物語の本筋とはちょっと違うところを突ついちゃったような気もしますし。(68歳 男)