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2020年1月例会『ロング,ロングバケーション』

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解説

生きる意味を問いかける 老夫婦ふたりのロードムービー

 『人間の値打ち』などのパオロ・ヴィルズィが監督を務めたロードムービー。老夫婦が人生最後の旅を満喫しようと、キャンピングカーでボストンからアメリカ本土最南端の地を目指す様子を描きます。
 元文学教師でアルツハイマー病のジョン(ドナルド・サザーランド)と末期がんの妻エラ(ヘレン・ミレン)の結婚生活は、半世紀を過ぎていた。子供たちもすでに独り立ちして家を出た今こそ二人きりの時間を楽しもうと、彼らは愛車のキャンピングカーで旅に出る。目的地は、ジョンが大好きな作家ヘミングウェイの家があるフロリダのキーウェスト…。

 オープニングにかかるのはキャロル・キングの「It’s Too Late」。このシーンが秀逸で一気に映画の世界に引き込まれてしまいます。
 私はキャロル・キングのこの名曲が大好きなのですが、この曲が収録されたアルバム「つづれおり」はグラミー賞受賞作のなかでも名盤中の名盤です。このアルバムが作られたのは1971年。この『ロング、ロングバケーション』主人公のふたりが人生を共に歩み始めた若かりし年代です。
 本作の主人公のひとり、妻エラ役を演じた女優ヘレン・ミレンは、役柄と自身の共通点をこのように述べています。「確かにエラは、私自身が望んでいる生き方を体現している。私は彼女の人柄がとても気に入ったの。彼女は人生の終わりを迎えながらも、エネルギーに満ち溢れ、一生懸命生きて、人生を楽しんでいるから。私もこの人生が終わるまでそうありたい」。
 その理由は妻エラというキャラクターは、どのような状況に至っても、夫ジョンへの愛に生き、生き抜く美学の自由を選択し続けた存在だからでしょう。例えば、70年代の頃に若かりしエラの初恋の相手は黒人のヒッピーの男性でした。そのことは彼女がこれまで生きてきた人生観のなかで、独自性の価値観を持った強さがあることを読み取れます。
 70年代という今よりもさらに黒人差別の激しかった頃に、黒人男性に恋をしたというエピソードは、かなり先進的人物であることが見て取ることができるからです。
 「何者の価値観にも邪魔されることのない、直感的で自由人」であったことをさりげなく描いています。

 二人が旅する先々で、「アメリカらしいこと」が起こるのも見どころです。強盗に出くわす彼らが銃を持っていることで身を守るシーンは、如何にもアメリカ的だと考えさせられます。そして「Make America Great Again」 とトランプの選挙応援を行っている現実もしっかり収められています。
 映画ロケを行っていた2016年夏、トランプの演説に熱狂する人々の風景をみて衝撃を受けたと語る監督は、その様子を映画に取り込みます。エラが共和党に投票すると言ったらジョンに大層怒られたというエピソードを盛り込むことで彼らが生きる現代のアメリカが浮かび上がってきます。そこで本作のトランプ大統領候補のエピソードが重要な意味を持ちはじめるのです。

 パオロ・ヴィルズィ監督は本作のテーマを、「最後の瞬間まで自分の人生を選ぶという問題に対してどう行動するか」だと述べています。マイケル・ザドゥリアンの原作についてヴィルズィ監督は、「私はこの本に非常に魅力を感じた」と語ります。「その破壊的なマインド、つまり社会的および医学的規制、さらには医者や自分の子供たちに強制される入院からの反逆に惹きつけられた」この作品を自分の人生の自由を選ぶ映画だとしているのです。
 ヘミングウェイがモチーフとして繰り返し引用されます。彼らの旅の目的地はヘミングウェイの自宅があったキーウェストだし、「老人と海」もたびたび触れられます。ヘミングウェイは原作には出てこず、映画での脚色となっています。「老人と海」にただよう誇り高き終焉はこの作品のふたりの世界にも感じられました。

 サザーランドとヘレン・ミレンの二人の名優も見事で、圧倒的存在感で老境の夫婦を演じています。ドナルド・サザーランドの目の輝きひとつでアルツハイマー病にかかっているジョンを体現してみせます。そしてヘレン・ミレンは夫の記憶を呼び覚まそうと彼を支える妻エラを自然に演じています。
 ユーモアと冒険に満ちた最後の日々。末期がんと痴ほう症の夫婦というと、なんだか重そうに感じるけれど、この映画にはその重さは感じられず、むしろユーモアに描かれているのが救いになっていて、そこがこの映画の魅力となっています。

 主人公の老夫婦が妻は末期がんを患い、夫はアルツハイマー病なので、彼らには明らかに「終末の時」が見えています。その時、人は何を思うのか。それが、この映画のテーマといえます。エラは8ミリを映しながら二人の想い出を語り夫に思いださせようと試みます。その彼らの姿に半世紀を超える結婚生活を送る彼らの愛情の深さを実感しました。
 自分が自分でいられる間はそんなに長くはない。それを思うエラは、夫の人生の夢に同行し、その終着をどうするか決めていました。この想いがとても切ない。でも、自分の人生を生き抜き、終わらせることはとても難しいことだと改めて感じました。だからこそ、今を生きる意味を忘れてはいけないのだと思います。
 結婚生活の幸せと共に、難しさも知った人にぜひお薦めしたい作品です。
(陽)

【参考文献】
公式ホームページ
東京創元社「旅の終わりに」マイケル・ザドゥリアン著

ひとくち感想

◎大変よかった  ◯良かった  ◇普通  ◆あまり良くなかった  ☐その他

とても良かった。こんな映画が出来て、今、自分がそれと同じようなことに・・・。一人でどうしようかと。(82歳 女)
ハッピイエンドを予測していたのでとてもショックな結末でした。本人からみればいさぎ良い人生の結末かもしれませんが、私自身も他の人たちにも自死という選択は絶対させてはならないと思う。(79歳 女)
昨日の道化座の芝居に引きつづき、認知症のおはなし。これからの人生どう対応しようか考へさせられています。自分のうそが思わなくばれるかも? どうだっていいんでしょう!(78歳)
夫ジョンがヘミングウェイを語るくだりは米国最高の文学を英国風に称賛した形で表わし、妻エラもイギリス婦人の気品と強い信念を持つ女として演じていた。ある意味では最高の終末を表すEndと言える。(76歳 男)
人生の最後をお互い信頼できる人と一緒に旅立てて幸せだと思いました。(78歳 女)
夫婦では行けなかったキャンピングカーでの旅をうらやましく見ていた途中までとちがい、最後の人生の終わり方には、それしかないかと思わないではいられない。(75歳 男)
せつなくて愛しくて、長い間いろいろな事を共有して来た人は離れがたいネ!(74歳 女)
自分の「ロング・バケーション」を実現したいと思いました。ただ、映画の最後だけは自分ならちがう生き方があると感じました。認知症、病気は誰もがむかえることです。困ったことを「相談することは美しい」文化が必要です。自死ではあってならないと思います。1月号の解説で映画が分かりやすかったです。質問です。3ページ3段目後ろから一一行目なぜ「認知症」ではなく「痴ほう症」の表現なのでしょうか。(72歳 男)
いずれ自分たちもこうなる可能性が、と思いながら観ていましたが、一つの好ましい終わり方でした。なかなかうまく筋を作り上げたのに感心。それから美しいフロリダの風景にも。(72歳 男)
身につまされた映画でした。演技とは思えないほど自然体でした。いろいろな場面、これから生きていくうえで思い出されると思います。(71歳 女)
私達夫婦も70歳代でこの映画のようなことがいつ起こるかもしれず、他人事でなく見入った。妻は最期の時を覚って薬も準備して旅に出た。それはいいことか、悪いことか。認知症の夫を置いてはいけず、共にこの世から旅立つ。最高に 素晴らしい南の海。常に離れず共にいる。私ならどうするか。あくまで生きることを選ぶが、難しい場合は?(70代)
大変良かった。たぶん原作がしっかりしているからが第一か。2時間内の枠に、盛り沢山の中身をよくまとめている。監督の腕と、主人公二人の演技も秀逸。(70代 男)
昨年末に『アルツハイマーと僕』というアメリカPOPS界の大御所グレーン・キャンベルを主人公にした映画をみた。この映画『ロング、ロングバケーション』の終わり方はとても好きです。音楽もよく聴いていた70年代のアメリカPOPSが効果的に使われていて・・・。最後に流れたジャニス・ジョップリンの「ミー・アンド・ボビー・マギー」は最高でした。(66歳 男)
自動車の修理業者のところで、エラとジョンが娘と話した電話で、大人の娘が親子関係に戻って泣くシーンが、家族の情景をよく浮かび上がらせていました。(61歳 男)
夫婦それぞれの病気で苦しんでいる中、最後のほうで長~いバケーションができて、本当に幸せだったに違いない。あの夫婦の死は、彼らにとっては解放されたことに違いない。(58歳 男)
アメリカ映画にも、このようなきれいな心中があるなんて思いもしなかった。きっといつまでもLeisureを求めて旅立っているのだろう。

先日病院の図書コーナーでNHKのドキュメンタリーで老夫婦が認知症の妻をつれてふるさと近くの温泉をめぐって最後に二人で日本海に身をなげるという本を読んだばかりで、型はちがえど愛する者同士が最後に取るかたちが心中なのですね、と思ってしまいました。新聞記事でも介護するものが相手を殺すのも一つの心中なのですね。(75歳 女)
とても賢いエラで最後まで冷静でしたね。呆けてほとんど自力で動けない夫の介護している身なので羨ましい人生の締めくくりでしたね。多分、私は一人残るのでどう腹をくくるか課題ですね。(73歳 女)
「認知症の夫を残しては死ねない」その思いはわからないではないが・・・???の残る感想です。キャンピングカーの名前でもあり映画の題でもある「The Leisure Seeker」は意味深ですね。(72歳 女)
しばらく心に残る宿題の映画だった。「尊厳死」のTVをみたあとなので、なんともふくざつな・・・。(71歳 女)
久しぶりの映サ! チラシをみて観たかった映画でした。結末が、ショックでしたが、長年つれそってきた夫婦で、死を選ぶのはしかたなかったのかな? 私たちも、高齢になり、認知症や病気になることは避けられない中、複雑な思いになりました。(70歳 女)
非常に巧い見せ方をするので、思わずするっと受け容れてしまいそうになるが、最後の選択、ホントにそれでイイんだろうか。ヘミングウェイの最期に言及していることも考えると、「自殺」を、場合によっては救済、と受け止めても良いのだ、とさえ言っているようにも思うが、うがった観方に過ぎるでしょうか。キャロル・キングの歌「イッツ・トゥ・レイト」で始まり、ジャニス・ジョプリンの「ミー・アンド・ボビー・マギー」の歌で締められる感覚も想わされるところがあり、その意味では、歌詞の字幕も出して欲しかったなァ…。(68歳 男)
人生の終点を自殺にするのは、どうしても納得がいかない。施設で余生を送っている人をバカにしている。死を目前にしたエラが、夫ジョンを無理やり心中するのは、それまでのノビノビした人生観とはちがうように思う。生も死も自分の思うとおりにする、それも夫も含めて、それは愛だろうか。(63歳 男)
『M☆A☆S☆H』で、倫理感覚メチャクチャだけれど、とび切り魅力的なアメリカ軍兵士を演じていたあのドナルド・サザーランドが・・・・・・。しかし、老いてなお、素敵にコメディを演じこなしていた。ダンスも上手! ヘレン・ミレンのしっかり者の奥さん、超リアル。ヘミングウェイの使い方は、もっと深められたか。カナディアン・クラブでなく、バーでマティーニやダイキリを飲んでほしかった。(58歳 女)
ファンタジー、コミック、陰気でなく、問題提起 (58歳 女)
いかにもアメリカらしい「終わり方」だけど、実際は「こうはいかないでしょう」と言いたくなりました。ベンだかダンだかのように施設に入って・・・車に細工していたのはこのためだったのね、と思いました。(55歳 女)
まさか隣人との浮気を告白されるとは思わなかったでしょうね。あの怒りはもっともです。ラストは、あれ以外ないですね。

身につまされること、考えさせられること多し。相手を受け入れ認めることが相互の信頼につながるのか。(84歳 男)
二回目です。やっぱりラストは気にくわない。無理心中じゃん。ロードムービーとしてはGood! 音楽もよい。二人の名優もすばらしい。(女)

人生最期をどう迎えるか、難しい問題ですね。病院や施設を拒否して旅に出た二人が、二人の関係をふりかえりながら過ちもゆるし、いたわりあう時間を、わからないながらもふむふむと見ていたのだが、最後の結論(無理心中)はどうかと思う。気に入らない。子どもたちのお荷物にならないって、どう? 違う気がするのですが。(68歳 女)

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