2019年12月例会『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス』

解説

音楽を愛し 音楽に愛された 老ミュージシャンたち
人生のすべてが込められた至福の音楽映画

 世界中にキューバ音楽の素晴らしさと老音楽家たちの粋(いき)を伝え愛された音楽ドキュメンタリー『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』(99)。全世界を席巻し、日本でも2000年1月に公開されて大ヒット、音楽・映画にとどまらず、サルサダンスやキューバレストランの流行、キューバへの直行便の就航が始まるまでの社会現象へと広がった。神戸映サでも同年12月例会で上映し、参加者1200人超を記録している。
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 ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ(BVSC)は、アメリカのギタリスト、ライ・クーダーがキューバを旅した際にセッションした地元の老ミュージシャンに声をかけ、当時92歳のギタリストを筆頭に、平均年齢78歳のかつて第一線で活躍していた歌手や音楽家たちを集めたビッグバンド。彼らの即興セッションが収録された、バンドと同名の アルバムが97年に発売され、400万枚を売り上げたとも言われる。98年アムステルダム公演をきっかけに、2か月後にはカーネギー・ホールでの歴史的公演が実現。
 彼らの音楽と人柄に惚れ込んだヴィム・ヴェンダースがバンドの軌跡とミュージシャン達の紹介、感動のカーネギー・ホールまでを写し取ったのが99年の前作。
 あれから18年。グループによるステージでの活動に終止符を打つと決めた現メンバーによるアディオス(さよなら)世界ツアーを収めたのが『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス』。
 前作同様、思わずステップを踏みたくなるようなリズムで、息するように歌い、奏でる彼ら。大ヒットになっても暮らしぶりは左程変わっておらず、キューバという国柄もあるだろうが、彼ららしさを感じさせる。前作のおさらいも含めつつ、未収録のリハーサル風景や世界を駆け巡ったツアーの様子、バンド結成以前のメンバー達の過去のキャリアや、その後の18年間の様子を伝えてくれる。
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 2016年のハバナ、夕焼けに染まるマレコン通りを乗り越えて打ちつける荒波。映像に重なって、フィデル・カストロの訃報を伝える声が流れる。今しも、ひとつの時代が終わりを告げようとしているかのように。
 バンドリーダーのファン・デ・マルコス・ゴンザレスが、ダンスクラブ「BVSC」があった場所を訪れる。昔は白人用と黒人用のクラブが分けられていて、「BVSC」は黒人用のクラブとしてたいへん賑わっていた。現在は民家やスポーツジムとして使われているが、床のタイルなどは往時のまま。その伝説のクラブが閉鎖されて半世紀後、そこで活躍した老ミュージシャンたちに再び脚光が当たることになった。
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 アメリカとの国交正常化まで支配、繁栄、混乱、経済不安と激動の歴史を辿ってきたキューバ。
 1492年コロンブスによる発見をきっかけに、スペインに侵略された。先住民はほとんど虐殺され、アフリカ大陸からの黒人奴隷の保管先として使われるようになる。1868年から10年戦争が行われ、スペインに勝ち独立かと思いきや、今度はアメリカの植民地となってしまう。
 1930年代の黒人差別事情。40年代まで、コンガが禁じられていた史実。バティスタ軍事政権、アメリカの腐敗がキューバ国内を蝕み、貧困に苦しむ人々の唯一の娯楽としての音楽―カストロも革命時、音楽で人々を鼓舞させていた話など、歴史のさまざまな局面が紐解かれてゆく。
 アフリカから連れてこられた奴隷たちがもたらした民族音楽と西洋音楽との融合で「ソン」という音楽が産まれ、そこにアメリカからやってきたジャズも影響を与える。 歴史が、そのまま音楽に刻み込まれている。
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 BVSCの面々の音楽人生はそのキューバの歴史や文化を体現。ソンの王者アンセニオ・ロドリゲスからピアノを学んだルベーン・ゴンザレス。タバコ工場で働いて稼いだ金でハバナに出て歌手デビューしたコンパイ・セグンド。幼い頃からギターを弾いて生活費を稼いだエリアデス・オチョア。キャリアの大部分を失望の連続で過ごし、靴磨きで生計を立てていたイブライム・フェレール。白人の母親と黒人の父親との間に生まれ、父親から歌を教わったオマーラ・ポルトゥオンド。本人たちの口から時に詩の一篇のように語られる人生ドラマが、貴重な映像資料で肉付けされていく。
 そんな中、イブライムとオマーラの長年にわたる絆がみえてくる。二人がデュエットするシーンから、記憶を遡るように思い出が綴られる。駆け出しの二人がテレビで共演する初々しい映像も紹介されるが、二人はそれぞれに苦労を重ね、BVSCで再会して遂に夢を叶えることができた。前作、カーネギー・ホールのステージで、オマーラの涙をイブライムがそっと拭いてやる。そこには50年分の想いがこめられていたのだろう。
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 後半、前作ですでに老齢の域に入っていたメンバーの幾人かが、この世を去ったことが告げられる。彼らの「最後のステージ」を撮った映像も紹介され、何度も胸を締めつけられる瞬間が訪れる。しかし、ただ悲しいだけではない。死の4日前まで元気に歌っていたイブライムなど、人生の最後の最後まで大好きな音楽と一緒にいられた彼らの幸福を分かち合う。そんな「喜び」に満ちた感動を覚える。
 そして、亡くなった仲間たちの遺志を継ぐようにスタートするアディオス・ツアー。若いメンバーを加えてのツアーは、さよならを言うためだけでなく、新しい世代に受け継ぐための旅。トランペット奏者の孫が共演している姿が象徴的だ。2015年米国ホワイト・ハウスに招かれた折の映像、16年ハバナのカール・マルクス劇場でのコンサートの模様が、本作を力強く締めくくる。
 まだまだ現役で音楽を続けるオリジナルメンバーの健在ぶりが頼もしい。とりわけ八六歳のオマーラが赤いドレスをまとい、軽やかなステップでリズムに乗り、歌う姿がまぶしい。
 ブエナ魂にブラボー!
(ゆ)

ひとくち感想

◎大変よかった  ◯良かった  ◇普通  ◆あまり良くなかった  ☐その他

「これがキューバの伝統・文化」というのがよく伝わってきた。「音楽っていいな」ってつくづく感じた。(58歳 男)
久々の例会。私の従妹がUSAでキューバ人と結婚し、子どもは二人、大阪で活躍?中。ワーキングホリデーで高校中退後ニュージーランドに行ったすごいヤツ。また会いたくなりましたナ。京都の学生時代ラテン音楽が好きな先輩も思い出した。オバマの時代は良かったナ。貴重な映像をありがとう。(58歳 男)
古くても良い。心に残る映画を見たい。(65歳 男)
音楽が哀愁があって素敵でした。

なつかしかったね、な。(82歳 女)
初めてキューバの音楽、いえ、ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ・アディオスの音楽にふれて、すっかり魅了された。きびしい人生の中、つらい思いをしながらも、誠実に生きている人達の心がこめられているからこそ、私達にも伝わってくるのでしょうか。(78歳 女)
年を重ねるっていいもんですね。音楽が身体の中で熟成され、一生、生活の中で愛しつづけられる。キューバにとって音楽はとても大事なもの。私には、クリスマスプレゼントです。(71歳 女)
キューバ音楽にはあまりなじみがありませんが、ソンという民族音楽、民衆の音楽なんですね。詩がとても良いですね。リズムも楽しそうでよかった。キューバの歴史も紹介されていましたね。(71歳 女)
キューバの歴史の中で、ソンが定着し、人々が愛唱し、その伝統音楽が世界中の人々に愛される、受け入れられることが、少し理解できるキッカケになってよかったです。超高齢者の音楽家たちが素晴らしいです。元気になります。(70歳 女)
コンパイ、ルベーン、イブライム、オマーラ…。何でこのお年寄りたちはこんなにキュートで「可愛いい」んでしょうか。そして、彼らの音楽は基本、陽性なのに、何でこんなにじんわりと滲みてくるんでしょうか。前作が「発見」の映画だったのが、今作は「喪失」と「離別」の映画なので、ラスト、緞帳が降りてくるシーンでは、ちょっとじんとするものがありました。オバマのやったことをせっせと全否定している今の大統領サンが彼らのことをどう思っているのか、少し気になるところですが、オマーラの言葉が耳に残ります。「人は誰かの命を奪うことができる。でも歌うことは奪えないのよ」(68歳
音楽が人生の軸になっているキューバの人々は年齢に関係なく、輝ける時が、いつかは訪れる。そんな思いを強くした作品。(66歳 男)
「アディオス」と言われて、その心意気を「引継ぎましょう」と思う。気強く自由に、明るく陽気に歌い生きていく彼らを見ていると、キューバってそんな国なのとか。世界でも貧しい国の一つだと思うが、彼らからそれは感じられない。「一度は咲く」と困難にくじけない人生に学びたい。(63歳 男)
人生の終盤に花が咲いて良かったなと思っていたら、題名の「★ADIOS」の意味が分かってきて、切なくなりました。(61歳 男)
「人生、いつかは花咲く」の言葉に励まされた。とても自然で人間らしい豊かさにふれた気がした。(65歳 女)