2019年11月例会『12か月の未来図』

『12か月の未来図』

解説

生まれ育った地域・国に関わらず自分の未来を

 少し分かりにくい作品タイトル『12か月の未来図』。誰のためのどんな未来を描いているのだろうか?
 映画の舞台はフランスのパリ郊外。荒れ果てたアパートと町の風景から明らかにここは貧しい地区だとわかる。
 父親を有名な小説家に持ち、自身もパリでも有数な進学高校に勤める主人公の国語教師フランソワ・フーコー(ドゥニ・ポダリデス)は自身の教育省関係者に対するある発言からパリ郊外の荒れ果てた中学校に赴任するはめになる。

教師フーコーの思いと現実
 騒々しい教室、話を聞かない生徒、覚えにくい移民の名前等々。前任校と一八〇度違う環境の中、教師フーコーと生徒たちの一二か月が始まるが…。
 新しく赴任した中学校で同僚の教師たちの誰もが授業がうまく運べないとの嘆きを聞いたフーコーは自分の授業方針を前任の進学校と同じように貫こうとし、生徒たちと衝突する。
 同僚のパーティーに誘われてもその生真面目な性格から溶け込めず、授業に悩む若い女性教師の姿が気になりながらも声をかけることをためらう。
 それでも生徒たちに学ぶことの楽しさを教えようと授業を工夫するフーコーがいる。生徒に誠実に接し、見捨てないという思いを行動で示す。

「レ・ミゼラブル」を教材とした思い
 フーコーは生徒たちにビクトル・ユーゴーの小説「レ・ミゼラブル」を教材として与えます。何故だったのでしょうか?
 この小説は単に貧困によって虐げられた弱者ばかりでなく、貧困が生み出すあらゆる悪を、被害者も加害者もひっくるめる形で描き出した様々な事象の中に生徒たちが日常的に感じている自分たちの今に共感できる部分が沢山含まれているとの思いからだったのではないのだろうか。
   
生徒を信じる
 人間は子供でも大人でも誰かから期待されたり、褒められたり、自分の存在を認めてくれる存在が身近にいれば生きる上での大きな力になり得るものだ。
 フーコーは気がかりな生徒セドゥにたいしても彼を切り捨てようとせず、声をかけ根気よく話を続けていく。
 カンニングしたことを咎めず、テストの結果を逆に褒めてセドゥに自信を与える。それが生きる上での自信にも繋がるとフーコーは信じているからだ。
 そこには遠足先のベルサイユ宮殿での生徒のいたずら心を許すことが出来ずにセドゥ達を指導評議会にかけ退学させようとする学校の対応とは異なる、真に生徒を思う教師の姿がある。
   
フランスと「郊外問題」
 1970年代の石油ショック以降、フランスで「郊外問題」は大きな社会問題となった。景気の低迷の影響で失業した多くの移民が都市郊外の低所得者用住宅に住みつくようになった結果、暴動、治安の悪化、教育水準の低下などの問題を生み、その事がフランス社会に暗い影を落とすことになった。
 この映画はまさにそういう社会的背景をベースに教育と貧困問題を正面から捉えた真っすぐな作品だ。
 出演者も大人は全て俳優、それ以外の子供たちは現実に学校に通う生徒たちを起用し作品にリアリティーを持たせている。
    
監督の映画製作への思い
 この作品を制作するにあたり監督オリヴィエ・アヤシュ=ヴィダルは、取材のため二年間、中学校に登校し500名の生徒、40名の教師たちと一緒に学校で過ごした。また、生徒と触れ合う一方でセドゥのように問題を起こした生徒の処分を決める学校評議会や職員会議にも参加し、フランスの郊外問題が色濃く表れている学校の現実を丁寧に調べて作品に投影しようとした。
   
この作品を貫くもの
 フランスの重い社会問題をテーマにしながら映画が重くならない要因は全編をつらぬくユーモア精神ではないのか。
 どことなくクスクスと笑える場面や生真面目な教師と落ちこぼれ生徒たちの行動と言動の対比に思わず頬がゆるむ。
 セドゥはじめ落ちこぼれクラスが変わり始めると同時に画面から感じる温かな空気。コーラス発表会では生徒も教師も保護者も同じ思いに包まれる。進学校勤務時代には感じることのなかった子供たちの目の輝きに心動かされる教師フーコーの姿。
   
移民大国フランスと我が国の今
 フランスの中学校の科目は11あるが映画でも教育の基礎として母語フランス語の大切さをさりげなく描いている。第二次大戦後、沢山の移民を労働力として受け入れてきたヨーロッパ、とくにフランス、ドイツでは移民教育の基本は母国語の習得が第一であり今も変わらない。
 国連経済社会局の定義によれば、移住の理由や法的地位に関係なく、定住国を変更した人々を国際移民とみなすとしている。
 我が、日本でもこの定義に照らせば国内に住む移民は250万人ちかくになると言われている。これは名古屋市の人口とほぼ同じの人間が移民として国内に住んでいるということだ。
 これだけ多くの人々が日本を目指し、日本で暮らしている現実があるのに我が国はフランスのように母国語教育を充実させるという大切な施策を他人事のように考えている、そんな気がしてならないし、多くの人材を受け入れる本気の覚悟が感じられない。
 この作品がフランスの希望を描けたように我が国でも同じように子供たちの明日の希望を描く下地があるのだろうか。
(スゥオン)

ひとくち感想

◎大変よかった  ◯良かった  ◇普通  ◆あまり良くなかった  ☐その他

見終った時、全身が暖かい気持に包まれている事に気付きました。来た時より元気になっている自分に驚きました。(78歳 女)
気持ちの良い映画でした。最後の音楽もよかったです。(78歳 女)
映画らしい映画でしたね。ラストのフーコーとセドゥの会話ですべてがほっとしました。又、終わりに流れた音楽もよかった。(78歳 男)
とても良かったです。私、地域で新年から読書会を発足させますが、呼びかけ文迷っていましたが、本日のシネマが示唆を与えてくれました。仏の移民国家あらためて知りました。(78歳 男)
友人にさそわれて来ました。良い映画でとても良かったです。感動しました。この様な先生がもっと増えたら幸せな社会になる事と思います。(77歳 女)
パリ名門高校教師のフランソワが貧困移民層の子供たちとの闘いの中で自らの信念と彼らを思う心を大切に、大きく成長させて行く姿は、現在の日本の教育に最も必要な教育であると確信した。(76歳 男)
フランスらしさを感じさせる映画だった。最後のなつかしい曲に心動かされる。(75歳 男)
教育映画(?)はいいですね。教育とは愛?(74歳 女)
人を信じることはすばらしい‼︎ とことん信じれば、きっと通じるのね‼︎(74歳 女)
思ったより更に奥のあるいい映画でした。しっとりと心に響きます。フランス語がもう一寸聴きとれれば更に面白かったかと少し残念。(72歳 男)
どちらが教師か生徒か…いくつになっても、年がちがっても人間同士教えられる事が多いです。フーコー先生、一年間でも悪ガキ達の学校に行ってよかったですね。(71歳 女)
フランス版金八先生は先生も生徒もカラっとしていて、またこれも面白いです。(70歳 男)
成功体験−大事ですね。人を育てる。(70歳 男)
子供達を信じることの大切さ。難しいが…フーコー先生の姿に感動しました。(69歳 男)
多民族国家の大変さと寛容の持つ良さとを考えさせてもらいました。最後のセリフも仏映画らしくてグッときました。(66歳 男)
子供を信じる事で子供たちと共に自分も新しく成長できる。教える事のよろこび、学ぶ事のよろこびが、画面からあふれている。感動した。(66歳 男)
二度目ですがやっぱりよかったです。結構テンポよく話が展開しているとあらためて感じました。導入が面白い。誠実さは誰にでもとは言えないが、純粋な子どもたちには間違いなく伝わるものだと思った。(65歳 女)
学校問題をテーマにした映画はよくあるが予想外に良かった。ストーリー的に結論づけないで開かれたラストシーンはフランス映画の味。(64歳 男)
ラストの歌がピッタリ!1年で終わりなのか…。又、この中学に帰ってくるのか、帰ってきてほしいと思いました。教師みょうりにつきるセドゥの言葉ですね。(63歳 女)
教師は生徒たちにやる気を起こさせてなんぼの世界にいるんだな、とつくづく思った。ただ「まじめにやれ」「できないのなら出て行け」と怒鳴っても生徒サイドにしてみれば「はい、そうですか」というわけにいかない。生徒のために一生懸命泣いてくれる先生だからこそ慕われる。それはどこの国も同じ。(58歳 男)
あまりに面白かったので2日続けて見ました3、4月の投票に期待します。フランス語の発音が良すぎました。(43歳 男)
エンディング曲、名曲が使われていました。12月作品に期待します。投票させていただきました。(43歳 男)
フランスでは若い人の失業が多いと聞く。10代前半で学校を放り出されたら、どこへ行けというのか。その子たちの多くはギャングの手下となり、ドラッグの取り引きの一番キケンな所で生きる。そのほとんどが移民の子どもだと聞くとせつない。映画は大ゲサにラストを描かない所がステキ。(匿名)
学ぶことの楽しさを子ども達に教えてくれた先生に出会えた子どもは幸福! 愛と忍耐、なかなか出来ないことですよね。(匿名)
殺人も女性に対する暴力も何もないのがよかったです。「郊外もの」としてはとても穏やかでほのぼのとした映画でした。前に自宅で見た仏ドラマ(刑事もの)は偏見にあふれていてとてもイヤだったので、甘いと言われるかもしれないけど、こんな映画やドラマがもっとふえてくれるといいと思いました。(女)

楽しかった。自分の学生時代を・・・。(83歳 女)
こういう先生がおられたら生徒もハッピーですね。この先生が悩みながら手探りで工夫していく様が上手く描かれていましたね。多種多様な生徒達も悩みながら成長する姿がよかったです。(73歳 女)
最後の歌とメロディがいいね。中学生がこんな先生に出会えたらGood。今の日本の教育はどうでしょうか。先生がかわいそうやね。エーところほめ、子どもの目線でほんまによかったわ…。先生次第。子ども本位に!(72歳 女)
エンディングの曲とてもなつかしく胸があつくなりました。人を育てる、育つは、いつの時代でも難しいなと思います。でも人間を信ずる事かな?と思います。(71歳 女)
フランスの教育(移民の多い社会)そこで教育からも切り離される若もの。複雑な社会をみました。1年ばかりではなくもっと経験のある教師が長くおれる制度があれば…と思った。(70歳 女)
先生の頑張りと生徒の関係がとても良かった。(68歳 男)
心が暖かくなるいい映画でした。フランスっていいな。カイセツがすばらしかったです。(66歳 男)
いまの学校を考えると、子供たちひとりひとりがのびやかに人にみとめられて、自信を持ってすごせることが保証されているのだろうかと考えさせられた。人として、みとめられていくことと学ぶことの楽しさで、生徒が変わっていき先生もかわっていく場面にすくわれました。(コーラスにあらわれていた)(65歳 女)
あちらこちらに小さな笑いの種が散りばめられた心暖まる映画でした。何よりセドゥなど子ども達の変化と成長がすばらしく、人間の可能性を信じさせてくれました。フーコー先生、ベテラン教師の真髄を見せてくれました。子ども達の姿をよく見て、自らを変えていきました。きっとクロエ先生も帰ってくるような予感がします。いい男にはいい女がよく似合うと思うから。(63歳 男)
うーん。自分の中高時代を思い出しました。いろいろ問題はあるだろうけれど…前向きにいかなあかんのやろうね。(60歳 男)

久しぶりに心あたたまる映画を見せていただきました。先生も生徒によって変わり、生徒も先生によって変わる。失いかけた恋人も帰ってくるのでは?(78歳 男)
初めて意見を書きます。3・4月のアンケートで『生きる街』を見たいです。当映サは外国映画ばかりですので、日本の良い=みたい映画も取りあげて欲しいです。今日の最初の予告編を見てそう感じました。(男)