2019年10月例会『僕の帰る場所』

解説

リアルな家族の物語から、現在の日本が浮かび上がってくる

 藤元明緒監督が、在日ミャンマー人家族の姿を通して移民というテーマに切り込んだヒューマンドラマ。日本で暮らす夫婦と、日本で生まれ育った二人の子供たちの日常をすくいとる。映画初出演のカウン・ミャッ・トゥやケイン・ミャッ・トゥらをはじめ、素人のミャンマー人を起用。
 まるでドキュメンタリーを思わせる映像は、ミャンマー人一家の生活を優しく見守りつつ、彼らが置かれた厳しい環境をありのままに映し出すシビアな眼差しで貫かれている。

(物語)
 東京郊外、ミャンマー人男性アイセ、ミャンマー人女性ケイン夫妻は日本でそだった二人の子ども兄ガウン、弟テッとともに暮らしている。不眠気味のケインは心療内科で薬をもらっている。子どもたちは普通の日本人と同じように日本語を話し日本の学校に通い生活している。幼い二人の息子を抱えた母親のケインは、入国管理局に身柄を拘束された夫のアイセに代わって、必死に働きながら東京の小さなアパートで暮らしていた。日本で育ったために母国語を話せない息子たちにケインは不慣れな日本語で話しかけ、慈しみながら育てるが、兄弟は父親不在のストレスでいつもケンカばかりしており、ケインは将来に不安を抱く…。

 父アイセが入国管理局へ連れていかれるシーン。難民申請をするため助けてくれる日本人ユウキに「被仮放免者の署名※」を代筆してもらう。※入国管理局の収容施設への被収容者で、請求により又は職権で一時的に収用を停止し、身柄の拘束を仮に解く措置を受けている者。
 サラッと描かれているが、アイセは難民申請の身であり、難民申請が日本ではほとんど認められない問題や彼ら外国人の言語の問題などが提示されている。この「被仮放免者」という措置があることを私はこの映画を見るまで知らなかった。私たち日本人が在日外国人について如何に無知であるかを痛感させられた。
 入院してしまう母ケイン。彼女は退院し戻ってくると子どもを連れミャンマーに帰る決心をする。母子三人をミャンマーに帰す一方、アイセは日本で働き続けることを選択する。彼らはミャンマーへ帰る選択をするが、実際は母国に帰りたくても子どもは日本語しか喋れずミャンマーでの生活をためらうケースが多いと聞く。いわゆる一世と二世の問題が立ちはだかるのだ。日本人と同じく日本で育ち日本語を話す彼らは、国籍が違うというだけでほとんど日本人と言っても過言ではない。アイセは餞別をもらう先輩に自身の不甲斐なさを嘆く。親として家族を守りたい気持ちがある中、そうできない哀しさ。不安定な身分や生活に身を置く親たちの心情が心にせまるシーンだ。
 ミャンマーではケインが育った家での新たな生活が始まる。子どもたちは新たな環境に驚き、戸惑う。日本から電話をかけてくれるアイセに息子ガウンは訴える。「日本へ帰りたい」異質なミャンマーでの生活を受け入れられないガウンは孤立していく。ある日不満が爆発したガウンはひとりで家を飛び出す。
 兄弟間にも適応に差がある。順調にミャンマーの生活になじんでいく弟を尻目に、抵抗感から「母国」になじめない長男。弟は年齢的にミャンマーでの生活に順応する様子など、そういった人物の細かい描写がとてもうまい。
 この変化で浮かびあがるのは、日に日にストレスを募らせてゆく子どもたち、とくに長男の様子と、逆に活気を取り戻してゆく母親の対比だ。ここには一世と二世の確執という移民問題が、等身大の家族の関係として描き出されている。その一方で父親の影は薄くなり、物理的および心的な距離は大きくなってゆく。家族としての繋がりが失われ、世代間のギャップという新たな問題が浮かび上がってくる。

 脚本はあり、その上に主演を務める家族四名全員に演技経験がないのに、ここまでリアルな物語を作れたことに驚嘆した。兄弟のうち、特に兄の心の葛藤が胸に迫る。「僕は日本人なのかミャンマー人なのか?」しかし、物語はどこまでも生活に根差した日常のことばと行動だけで進行する。ドキュメンタリーではないのかと思う瞬間はこういう時だ。
 あくまでも一家族の生活描写に徹底的にこだわり、まさにドキュメンタリーのように、本当の家族の生活ぶりを切り取ったかのような作品に仕上がっている。もちろんそこには難民認定制度はもちろん在日外国人の雇用、移民一世と移民二世の関係と確執、外国人と言語といった、多くのテーマが盛り込まれている。しかしこれらの問題について予備知識がないものが観たとしても「家族」という誰もが理解できる題材となっており映画として引き付けられる魅力を持っている。移民問題を「問題」としてではなく、「人生」として描くことによって、より衝撃的な映画になっている。
 昨今、海外の映画、特にヨーロッパ映画では移民・難民を題材にした映画が増えている印象の一方で、日本では私の知る限り殆ど作られていなくて、その問題に全く目が向けられていないのではないかと思っていた。でも実際は、東京入国管理局の外国人虐待であったり、外国人技能実習生の劣悪な環境だったり、色んな問題が放置されている。そういった問題に目を向けさせる第一歩として本作の意義は大きい。
(陽)

ひとくち感想

◎大変よかった  ◯良かった  ◇普通  ◆あまり良くなかった  ☐その他

二人の愛らしい子供がすばらしい。どこまでが映画なのか、ドキュメントのようだ。移民問題をこうした形で訴えたのには驚きだ。(78歳 男)
日本の入国審査管理の事情がわからない。ただやるせない。但し、平和な気持ちになるのはミャンマーの風土なのでしょうか。(78歳 男)
子供の気持ちがつらくてかわいそうで涙があふれ出ました。(78歳 女)
出演した人達(子供含めて)どんな関係か、あまりにリアルで涙しました。そして日本の難民審査は問題があると思います。とはいえ、この1~2年、外国人が急増し複雑な気持ちです。(78歳 女)
在日ミャンマー人家族の在留資格と夫アイセの仕事、母ケインの不安感を強く表現し、兄カウンは母国ミャンマーに帰国しても、言葉をはじめ地域の生活になじめない姿をリアルに出している。(76歳 男)
初めて知った現状‼ 一部の国、子供たちの事でもよくないと感じた。世界中での移民の現状、私たちに出来ることは…。(75歳 女)
現実は厳しいことをまざまざとみせつけられ、自分の無力を感じます。でも少年が徐々に自分の帰る所をつくっていく過程に希望をみました。(74歳 女)
ミャンマーから日本に来た「等身大」の家族の姿が見られて、とても感じるものがあった。きびしい現実生活の中で生きる親と子。それぞれ(立場)はちがい、辛さもありながら「支え合って」生きるしかない。かすかな希望に向かう、つつましい家族に勇気も感じた。(72歳 女)
色々な問題がありすぎて…。カウン君達の悲しさが胸にせまりました。今はどうしているのでしょうか、とても気になります。国や民族問わず住めるようになるといいのですが…。(71歳 女)
毎月観たいと思いながらも中々かないません。取り上げていただく映画のチラシ等を見て、いつもよく選んで下さっていると感謝しています。(70代 女)
今日観て知ったのは、ほんの一部。でも、知れてよかった。命を大切にする世の中にならなくては…。生まれて育つ子どもを大切に出来るように。安心して育つように。(64歳 女)
上の子どもの心情の変化とその描かれ方がとても良かった。難民と入管について興味のある人は以下を聞いてみて下さい。インターネットで聞けます。TBSラジオ荻上チキSession-22のMain Session(10月2日放送)で特集しています。(60歳 女)
子どもたちにミャンマーでの生活に慣れさせようとしていた母親の気持ちがよく伝わってきた。父親が一日も早くミャンマーに帰ってこれたらなー、とつくづく感じた。(58歳 男)
ミャンマーの実情を、初めて知りました。2F(ロビー)展示も充実していますね。リアルなドキュメンタリー映画でした。(43歳 男)
長男がアダム君とジョン君という日本語もミャンマー語も話せる友人が近所に住んでいるってわかってよかったです。幸せになってほしい。次男も(一難去ってまた一難?!)きっと友人ができるよ! いとこも遊んでくれるしね。(女)
カウスマという麺料理を食べたことがあります。市場とか街とかは、こんな感じなのですね。
ミャンマーから日本に来て、ミャンマーにもどった子供の視点で、気持ちがよくわかりました。いい映画でした。
ミャンマーのことは、よく知らなくて、でも最近、留学生にあった。その人は勉強で日本に来ているので、楽しくミャンマーの話をしていたが、多分いろいろあると思う。難民で日本に来ている人は大変だと思うけど、子どもたちには明るい未来があるように願いたい。言語に関しては、ダブルよりマルチリンガル(多言語)の考え方をすれば、解決すると思う。(インドとかヨーロッパのベルギー、ルクセンブルグなど)多言語がふつう話されるところでは問題になっていないようです。二つの言語は争いになるが、三つ以上だとならない。マサチューセッツ大学でスーザン・フリン教授や東大の酒井先生も研究しているのでもっと知られるといいと思います。

日本の難民受け入れ体制がなぜ非人道的なのかな。(75歳 男)
ドキュメンタリー風の映画でしたね。日本ではこれからも移民の労働力なしに経済が成り立たなくなる事は著明なのに排外政策が継続していく理由は何なのか、大きな疑問です。長男のカウン君の演技はとても素人とは思えませんでした。(73歳 女)
今の日本での、問題提起するべき必要な映画だったとは思いますがもう少し丁寧な説明があればもっと効果的な訴えができる様な気がしました。(72歳 男)
平時においての移民の大変さ。戦時下ではさらに…。みな、地球人として助けあえられるか。(70歳 男)
難民認定??? 家族、子供の心、奥さんの心、Good Luck!(68歳)
日本には260万人以上の外国の人が住んでいるのに、受け入れ体制が整っていない。また、日本人も海外、特にアジアから日本に入ってくる人々に対して一種の偏見を持っている気がしてならない。(66歳 男)
家族の日常を写し撮ったシンプルな映像にすべてが込められていた。難民の勇気、子どもの成長、将来の不安、家族の絆、夫婦の距離、日本政府の冷酷さ、故郷の暖かさなど、色々なことが伝わってきた。もっともっと知らなければならないミャンマーのことや難民受入れのこともあるだろうが、故国を離れざるを得なかった人々の心情が伝わってきた。(63歳 男)
『僕の帰る場所』の「僕」はカウンを指していたのですね。父親アイセはミャンマーでは勉学に励んでエンジニアになったのに日本では報われず、悲しい。(61歳 男)
今回も前回シネ・リーブル梅田で見たので二回目です。ミャンマーに帰ってからお母さんが妙に元気になっていて、子どもの変化にもうまく対応できていて、日本で不安定だった事情も納得できる様子で、母はやはり強い!と思いました。難民、移民問題はむずかしいですが、何度も、又、いろいろな角度からの映画を見ないといけないと思いました。(60代 女)
希望作品、日緬合作映画『血の絆 THWAY』をとりあげてほしいと思います。(59歳 男)
トランプ政権による親子のひきはがしが、一時ニュースになっていましたが、国を越えて離れた親子のイメージが状況は違えど辛く胸に刺さりました。親子間のアイデンティティの認識の差や語学力の問題がカウン君を通じて生々しく考えさせられました。(21歳 女)
これはドキュメンタリー? 子供の演技がとても自然でした。こんな家族が日本にはたくさんいるんだろうな。ますます増えるんだろうな。辛いです。

話(ストーリー)はともかく、(私の難聴のせいかもしれないが)日本語は聞きとりにくい。英語字幕は早すぎ(すぐ消える)これはだれに向けての映画だろうか?(75歳)
よー判らん。何故この母親がミャンマーへ帰ろうと思ったのか。そもそも何故、この夫婦がミャンマーから日本へ来ようと思ったのか。ミャンマー人の子供が日本人学校に入る意味が何なのか。さっぱり理屈が判らんままただぼうと立ち尽くしてしまいました。(67歳 男)

何のための会合だったのか? 全く理解出来ない映画だった! 日本語は聞き取れない! 字幕も読み取れない!(82歳 男)
よく解らない感じだったが、他の国の事は少しわかる。(82歳 女)
在留外国人について研究しています。(75歳 女)
難民申請が通るのがむつかしいことがわかりました。兄弟二人がミャンマーで、たくましく生きて行ってほしい。住めば都だと思う。(51歳 女)