2019年9月例会『30年後の同窓会』

解説

取り返せない過去、そのせつなさ、でも、笑いもある

 『さらば冬のかもめ』(73)、原題は「Last Detail」をご存知ですか。アメリカンニューシネマの佳作で、監督はハル・アシュビー、主演はジャック・ニコルソン。わずかな金額を盗んだことから刑務所に入ることになった新兵さんを海軍刑務所に護送する役割になったのがジャック・ニコルソンと同僚。懲役8年となった若者に同情したニコルソンは刑務所への道中でいろいろと人生経験をさせることになるが…。という作品でしたね。
 この作品の原作者がダリル・ポニックサン。そう、今月の例会作品『30年後の同窓会』(原題は「Last Flag Flying」)の原作者です。本作では監督との共同脚本もしています。で、ある面では、『さらば冬のかもめ』を思い起こさせるものがあります。ですから、『さらば冬のかもめ』に思い出のある方にとっては必見ともいえる作品です。ダリル・ポニックサンは、他にも『シンデレラ・リバティ/かぎりなき愛』(73)の原作・脚本などもあり、米海兵隊での経験を活かした作品を発表しています。
 さて、『30年後の同窓会』ですが、監督はリチャード・リンクレイター。『6才のボクが、大人になるまで。』(14)など。家族の移り変わりを描いていますが、これを同じ俳優で12年間にわたって描くという、普通では考えられない作品で国際映画祭にて監督賞など数々の賞を受賞しています。
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 ベトナム戦争に従軍して同じ釜の飯を食った三人の仲間が、30年の歳月を経て再会を果たし、イラク戦争で死亡した親友の息子の遺体を連れ帰る旅にでます。といっても戦場での事件のわだかまりや音信不通であった三人の旅では、当然のことながらはじめはギクシャしたものがあります。でも、道中で語り合う中でお互いに次第に打ち解けていきます。
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この作品は『さらば冬のかもめ』と同じようにロードムービーになっています。バージニア州のノーフォークでバーを経営してい るサル(ブライアン・クランストン)のもとに30年ぶりに訪れたドク(スティーヴ・カレル)。そこから牧師をしているミューラー(ローレンス・フィシュバーン)へと、そして、三人はアーリントン墓地、ドーバー空軍基地へ、さらにドクの家まで車や汽車での旅となります。
 当然のことながら、こうした作品では三人での会話によるやりとりをとおして、三○年間の空白が自然に展開される必要があります。監督は撮影前に出演者たちを集めてリハーサルして、出演者たちの関係もつながりが密になるようにしたといいます。脚本も何度も書き直しながら自然でリアルなものを追求したと語っています。30年前の出来事なので、普通だと回想場面を入れることが多いけれども流れを大切にする監督は他の作品と同じくあえて回想形式を用いていません。作為をできるだけ避けてリアルなものを作りたいという監督の思いがあるのでしょう。心の奥には死に直面した戦場での「闇」が存在します。でも、封印してあくまで今を生きるなかで描いています。そのため戦場でのそれぞれの姿があいまいになったこともあるかも知れません。でも、その空白部分を埋めるのは観客にまかせるということでしょう。
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 一年前に妻が亡くなり、二日前には一人息子がイラクで戦死して、息子の遺体を引き取りに行くのに同行して欲しいというドクが、旧友を訪ねたことが、三人の旅の契機となります。独身でアル中気味のサルは気軽な身上もあって、すぐに同行を決意します。サルの奔放で世の中のいろいろなきまりも気にかけない、建前や権威にはひとこと言いたくなるという性格は『さらば冬のかもめ』のジャック・ニコルソンを思わせるものがあります。おとなしくて静かに話をするドクには、護送される新兵さんが投影されています。新たに登場しているのが牧師のミューラーです。彼を入れることによって作品に一層広がりをもたせています。戦場ではまじめであった年下のドクと違ってサルと一緒に過酷な戦場での憂さをはらすかのように酒、女、ドラッグに溺れた日々を送っていた彼は、すっかり変わっています。牧師として生きる彼には30年前のベトナム戦争の体験は永遠にしまい込んでしまいたいものでしょう。だから、同行は願い下げしたいものでしたが、妻の勧めもあってしぶしぶ同行します。もう一人途中で亡くなったドクの息子の戦友のワシントン(J・クィントン・ジョンソン)も加わります。彼の存在はいまの兵士として生きるひとりの姿を伝えています。宿泊したホテルでのテレビ映像でイラクのフセイン大統領が捕縛されるニュース映像も使っています。過去の戦争だけでなく現在とのつながりもさりげなくあらわしています。
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 三人で交わされる会話や演技をじっくりと味わいながら見る作品です。この手の作品だとつい声高に描いてしまいがちですが、ここでは、音楽的にも映像的にも、強調することなく静かに丁寧に描いています。ラストではボブ・ディランの「Not Dark Yet」が流れますが。
 戦争によって起こった三人のやりきれない出来事、運命の手によって死を免れたワシントン。ひとりぼっちになってしまったドクの悲しみ、忘れてしまいたい記憶にもかかわらず、過去の戦場での体験によって、あらたな結びつきを見出していく。そして、笑い。
 遠慮会釈のないサルの下ネタ、牧師のミューラーに対する神の存在についての突っ込み、そして、携帯電話でのオヤジぶりなど。途中でサルのあまりにもちゃらんぽらんな態度に不信を抱いた店員からの通報でテロの疑いで逮捕されるなど、笑いとともに今の姿をとらえています。
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 いろんな出来事について、一つの割り切りをつけたい、つけてほしい。でも、現実では、なかなかそうはいきません。さまざまな選択肢のなかからその場で「出せない結論」を迫られます。それは、本心でなくても、そうでいい場合もあります。いままでとは矛盾したものになるかもわかりません。ゼロ%から100%まで、その振れ幅には広いものがあります。その揺れをそのまま表現していく。苦味、取り返しの出来ない過去、そのせつなさ、でも、笑いもある。そうした中で生きていくのが人生。そんな声が聞 こえてくる作品です。
 三人の会話が多くて、字幕を読むのが大変ですが、じっくりと味わってほしいと思います。回想がないので、見たときはちょっとわかりにくいところもあるかもしれませんが、あとで、思い返してみるときっと後に残る作品だと思います。(研)
 参考資料:本作のHPほか

ひとくち感想

◎大変よかった  ◯良かった  ◇普通  ◆あまり良くなかった  ☐その他

忙しくて久し振りに来ました。今日の映画は最高に良かったです。(80歳 女)
ドクの静かな姿とサルの多弁な姿を対比させながら、牧師となったミューラーの神の言葉が仲立ちとなり、進行する話の手法が良かった。(76歳 男)
ロードムービーというのでもう少し風景を期待したがナシ。軍というものの性格はどこでも似たようなものということを理解した。それぞれの味付けが少しずつ違うだけで。任務とフリータイムの切換はカンタンではないとも。(75歳 男)
戦争に関ることは、日本の戦争での様々な問題は同じなのだということを感じました。政府のいうことは兵士の士気を高めるために使われる。映画、しっとりといろいろ考えさせるせりふがあってよかった。少ししんどかったですが、脚本がいいというのですかね。(74歳 女)
あまり期待してなかったけど、とても配役もぴったしだったし、30年振りの再会の流れも上手くアメリカ政府に対しては戦争の仕掛け屋で憎しみは大きいけど徴兵された青年達の現状等よく表わしていると思えた。長く記憶に残りそうです。(73歳 女)
戦争に従事させられる者の状況をじっくり描きこんだ、いい映画でした。「あっ、アメリカ人」と思うところも、チョットありましたが。アメリカではアーリントン、日本では靖国か、という思いも。(72歳 男)
未来に向かっては誰も加害者・被害者にならないようでありたい。(72歳 男)
「息子の死」一人では乗りこえがたい時に、そっと寄り添い、支えてくれる旧友を、アメリカらしい「退役軍人」達で表現していて興味深かった。(72歳 女)
遺言で「軍服で埋葬してほしい」という言葉はあの頃の海軍兵の言葉としては普通だったんだろうか。本当は戦争に行くことすら抵抗があっただろうに。若い兵隊が黙っているのは、罪の意識に苦しんでいるからか。その辺を友人達が喋らせるのがよかった。買春が普通の会話として出てくるのには抵抗があった。昨今の#Me Too #With Youの時代には聞き逃せない。全体として反戦で「戦争に行かせるには理由がある。今回はどんな理由だったか」など鋭い指摘で、あのチャランポランな人が意外と真実をついているのには驚いた。麻薬を常時もたせていたのか。けがには効くが心の病を起こす。(70代)
戦争に正義はありません。世界平和を祈る。(68歳 男)
この映画は二回目でした。今夜はより深く味わえました。(66歳 女)
「この国には、いつも戦争があった」という言葉は重い。平和が続いた日本ではあり得ない。父と子が互いの戦争体験を語れるアメリカなのだと思った。(65歳 男)
青春時代が戦争だった三人。息子をまた戦争でなくすというドクが、二人を訪ねて、旅していく中で、人生がまた輝いていく様子がよかった。むちゃくちゃしたけど、また胸はって三人の友情が築いたこと。(65歳 女)
ベトナム戦争の大義に疑問を持ちながら、亡くなった戦友の母親に真実を伝えることができなかったところから、一気に名誉を守る方へ傾いていくストーリー展開が、無理無くつながりました。(61歳 男)
「どの世代にも戦争がある」というセリフが印象的だった。覇権国の悲しさと愚かさを表していると思う。(60歳 女)
いい作品でした。ありがとうございました!
アメリカの戦争の結果に起こるつらさが多くの人を悲しませていると思った。でも三人は思い出話で楽しんで、生きていこうとしている。人は再び希望をもって生きられる。それがすばらしい。(女)

今回も男性主役の映画、しかし私も男・女の性差なく生きる中、古い友人たちと腹の底から語れる友人、何人いるかな。これから先も話せる友人捜そー!!泣いて笑って、また…抱腹絶倒!!映画も友人もいいなあ!(72歳 女)
知らない事ばかりの内容だったと思います。家族や愛する人を守る為に軍に入り戦争に行く、どの国の人もそんな理由。武器など使わず、激しいスポーツで戦ったらいいのに。いつも思います。ラグビーが適当だと思う。(71歳 女)
1970年代のベトナムも2003年のイラク戦争も目的は〝なに〟?と、そして、今に続く混迷する現状。アメリカとそれを支持した〝罪〟は深い。(71歳 女)
それぞれの世代に戦争があったこと、ずっとずっと繰り返していること、たまらない気持ちになる。息子の死を、海兵隊経験者としてどう受けとめるのか…アーリントン墓地に埋葬するのでなく家族のもとへ連れて帰ろうとするドク、卒業の時に着たスーツで埋葬したい親の思いがほんとうでしょう…。映画のあとのおしゃべりで映画の見方が深まりますね。(68歳 女)
戦友三人の会話のやり取りが絶妙。広いアメリカを感じさせる。車、トラック、列車を乗りつぐ旅物語。アメリカらしい。(66歳 男)
男性目線の映画かなと思うところもあったが、戦争にかり出された人たちの率直な気持ちも知れた。軍服で埋葬されることになったいきさつには微妙な気持ちが残った。息子は望んで入隊したから軍服で埋葬してと望み、その思いを叶えてやりたいのも親心だろうけど。(64歳 女)
米国のリベラルは軍隊に対してこういう捉え方をしているのかと思いました。ベトナム戦争やイラク戦争など、国にだまされたと思い怒りを持っている男たちは、最後に海兵隊の軍服で葬式をし、国旗を大切にしました。それぞれ人生の大切な時期を壊され、その後の人生に大きな影をおとす戦争だが、それだけに戦友はかけがえのないものと思うのはわかるが、国家や戦争に対する思いは日本人とちがうようだ。(63歳 男)
二回目なので、今回は埋葬に対するアメリカと日本のちがいや、戦争、従軍に対するちがいを考えさせられました。靖国にまつられたくないという人もいますし、そのあたりについても…。(60代 女)
父親は、息子が戦場に行くことにはきっと猛反対していたに違いない。しかしながら、最後には「俺の子だから仕方ないか」という気持ちのほうが勝ってしまった結果、その息子が悲惨な目に遭うなんて!!戦争は本当に恐ろしい!!(58歳 男)
真実と嘘、本音とフォーマルな振る舞い。少年の心と、大人の誇り。戦争で傷ついた心。戦友。いろいろ考えさせられる良い映画でした。(58歳 女)
ベトナム戦争とイラク戦争に関った親子、父の友人たち。「いったい、何で何のために戦ったんだ」という思いを持ちながら生きてきたのに、息子を送り出した父にあてた最後の手紙に心をうたれた。それにしても男たちは、猥談してる時はサイコーに楽しそう。(女)

私の観方が短絡的な勘違いなのかもしれないが、これはひとつの、軍隊受容、戦意高揚映画と、見えてしまった。「戦争の目的は何なの?」との言葉が出てきたり、国に対するベーシックな反発や疑念が語られたりしながら、最終的にそれらの矛盾を受け止め、「軍隊国家の臣民」として生きていくことの覚悟を持つ、とでも言いたいかのような結末に強い違和感。軍服を着せずに埋葬することにこだわっていた三人が、唐突に「軍隊葬」もどきを遂行してしまう姿、全く納得も理解も出来ないまま、呆然と立ちつくしてしまった。原題の「ラスト・フラッグ・フライイング」の意味もよく判らなかった…。(67歳 男)