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2019年5月例会『夜明けの祈り』

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解説 

悲劇の中から灯りを見い出す人間の強さ

 人間は心と体に生涯忘れられない痛みと傷を負った時、何を支えにそれからの人生を生きていくのでしょうか?
 映画『夜明けの祈り』の出発点は第二次大戦末期のソ連兵によるポーランド修道女への性暴力事件を題材にしていますが具体的には描かれていません。
 映画はモノトーンと静寂、透明感という背景を見る者に強く印象付ける作品となっています。
 フランス語の原題はLes Innocentes (罪なき者)
 作品は史実を基に作られており女性監督(アンヌ・フォンテーヌ)自身の視点で突然の悲劇に遭った若き修道女たちのそれからの日常と彼女たちを献身的に見守り悩みながらも暗闇の中の明かりとなる若きフランス赤十字の女性医師マチルドの生き方を丁寧に描いています。
 戦争と性暴力をテーマとした作品はテーマ的にも興行的に難しく制作本数も少ないのが現状です。
 以前ボスニア・ヘルツェゴヴィナ紛争をテーマにした『サラエボの花』(2006)という作品を見た時に感じたのは「それでも人は生きていく」という強い思いでした。
 映画は娘が修学旅行時、旅行の補助金を貰うために紛争で殉職したと母から聞かされていた父の事を改めて母に訪ね、自分の父親が実は敵国の兵士で自分は性暴力の末に生まれてきた事実を知る。主人公の母親は戦時の悲劇をひた隠しにしながら幼い我が子を育ててきた事を娘に告げる、そんな内容でした。
 タイトルの「サラエボの花」とは紛争により沢山のつらい思いをしてきた女性たちやこれからを生きる若い世代の女性たちを表すものだと今、作品を振り返って思います。映画の持つ強さ、人間に対する暖かさ、希望を感じた一本でした。
    
 『夜明けの祈り』を映画化するにあたり、監督が着目したのは第二次大戦末期の衝撃的事件と共にその渦中でフランス人医師マドレーヌ・ポーリアックが自らの命も顧みず人道支援に飛び込んでいく姿でした。監督はポーリアックの手記を基にマチルドという女性を主人公に設定し、作品の中心に据えました。
 彼女の存在なくして若き修道女たちは救われなかっただろうし、修道院自体も地域との共存の道を歩めなかったに違いありません。
 映画は彼女自身の目線を道案内人として描かれています。
 
ストーリー
 1945年12月のポーランド。赤十字医療所の勤務医フランス人マチルド(ルー・ドゥ・ラージュ)は負傷兵を祖国へ帰す日々に追われていました。
 ある日、マチルドの前にポーランド語で助けを求める修道女が現れ、彼女のひたむきさに心が動いたマチルドはカトリック系の修道院に案内されます。
 マチルドが目にした修道院の風景は信仰と相いれない妊娠し苦しむ修道女ソフィア。手術で赤ん坊を取り出し、翌日も修道院を訪れるマチルド。やがて妊娠した多くの修道女から事件のあらましを聞き衝撃を受けた彼女だったのですが…。
  
修道女マリアの言葉
 映画の舞台、修道院の場面で信仰についてシスターのマリアが語る言葉には普段、信仰と遠い暮らしの私にも少しはわかる箇所があります。
 マリアはこう言います。「信仰とは最初は子供と同じ。父親に手を引かれて安心する。そしてある時、父親が手を放す時が必ず来る。迷子になるの。暗闇で叫んでも誰も応えない。それは突然にやってくる。それが十字架。喜びの後ろに必ずあります」と。
 マリアと打ち解けたマチルドは自分の人生を振り返りこう言います。「今までの人生に後悔してはいない」と。
映画の最後、マリアからマチルドに届いた手紙にはこう綴ってあります。「親愛なるマチルドへ。暗い雲は消え去って空には太陽が輝いています。あなたは私たちの心の中にいます…。神があなたを導いてくれました。苦しい時も神と共に喜びに包まれますように」と。
このマリアの言葉こそが映画が描きたかった大きなメッセージのひとつだと私には思えます。

「マドレーヌ・ポーリアックの物語」
 マドレーヌ・ポーリアックは27才の時、パリの病院で働いていてレジスタンス運動に参加。同盟国の落下傘部隊に物資の供給や支援を行いました。
 1945年のはじめ、フランス内務省の中尉医務官としてモスクワのフランス大使館駐在の将軍命でモスクワにて祖国兵士帰還の任務を指揮します。
 ポーランドは悲惨な状況にありドイツ占領軍に対してワルシャワ蜂起(1944年8~10月)を決行した2ケ月間で殉教者の街ワルシャワは国内軍2万人、市民18万人の死に見舞われます。
 この間、スターリンの命令により1944年1月からポーランドに駐留していたソ連軍はヴィスワ川対岸で待機し、ポーランド市民に救いの手を差し伸べず見殺しにしました。
 ドイツ占領軍の撤退とドイツ人による暴力行為の発覚後、ソ連軍とその暫定政権は解放された領土を支配します。
 こうした背景の中、マドレーヌは1945年4月、ワルシャワの廃墟と化したフランス病院のチーフドクターに任命されます。彼女はフランス赤十字でフランス軍兵士の帰還任務に当たっており、この任務をポーランド全土とソ連の一部で行いました。
 ポーランドでのフランス軍兵士の送還任務は200件に達し、その任務は救急車の運転手をはじめ女性で構成された赤十字のボランティア部隊と共に果たされます。このような状況の中、マドレーヌは性的暴行を受けた女性たちに医療を施しただけではなく、その心も癒し、修道院を救う手助けをしました
 そして1946年2月にワルシャワ郊外で任務の遂行中、事故死を遂げるのです。
(スウォン)

ひとくち感想

◎大変よかった  ◯良かった  ◇普通  ◆あまり良くなかった  □その他

一口に戦争が生んだ悲劇と云ってしまえば終わりだが、修道院をおそったレイプによるソ連兵の子供が続々と生まれる。修道院の体制と尊厳を守ろうと、院長は生まれた子供達を殺してしまった。本人が云うように人間としての道を誤ってしまった。悲しいお話し。(78歳 男)
人間の尊厳を表したすばらしい映画でした。ポーランドという国はナチスからもスターリンからも侵略された国だが、そういう中でこうした映画が生まれたことに感動を覚える。(78歳 男)
この映画を見て、どのような切り口でコメントするか? 第二次大戦により、ナチスの圧政をソ連軍が解放したが、修道女たちがソ連兵に犯され、次々と赤子を生む苦境におち入り、修道女たちの苦悩と院長のとった行為が、キリストの教えに反するのではないか? これらの疑問を解決してくれる糸口がタイトルのLes innocentesであり、アンヌ・フォンテーヌ監督の言う「未来への希望」だったと気づかされた。(76歳 男)
大変悲しいお話でしたが、最後は自由になれてよかったと思いました。(77歳 女)
重苦しい、鉛を腹に入れられたような。最後のアイデアで救われはしたが。長たるものに全てを任せる社会はよくない。(74歳 男)
いつも思うのですが、願いが強ければ、何か道が開けると思っています。やはり、たてまえの行動はどんなにえらい人がやっても邪道であることを示されたと思わされた。(74歳 女)
戦争の罪悪さ、むごさの中でも、人間は生きぬいていく、賢い女性達、母親が前を向いて生きぬいていく姿に感動しました。(73歳 女)
「どんな事がおきても、たち向かおう!」、ちから強い言葉を修道院の(でき事)中から教えてもらった。たち向かう事から未来はひらける。「何事も」。よい映画でした!(71歳 女)
二回目でした。今年は二回目の作品が少ないかも? 仕事の合間、今週は『運び屋』、『ブラック・クランズマン』、『ビリーブ』と見ました。疲れ気味ですが、なるべく自分に何か感じさせるものは見逃したくなくて。(70歳 女)
戦争や争いでは、女性やこどもがいつも犠牲にされる現実が描かれ、それも閉鎖的な修道院の中、勇気のある女医に脱帽!! 最後が少し明るい展望がひらかれ、ほっとしました。(70歳 女)
宗教の不条理の中から、人間愛への展開は、明日を感じられた。(69歳 男)
静かで力強い映画でした。私も、その時にやるべきことをやれる人、でありたいものです。(69歳 女)
少々重かったけど、静かに人間を支える信仰について考えました。信仰心はあまりない方だけど、迷う、迷う、まちがう、何かにすがりたい人間にとって一番芯になる何かを求める気持ちは誰にもあるだろう。院長にさからってはいけないと思っていたマリアが迷いつつも強くなっていく様子が興味深かった。生命と向き合う医師のマチルドの迷いと成長はもちろんだけど。(68歳 女)
アンケートに挙がっていた映画の中で最も観たかった映画でした。期待通りよかったです。『サラエボの花』も上映して下さい。『ザ・ウォーター・ウォー』の画質、私は全く気になりませんでした。DVDでも良い映画は上映すべきと思います。(67歳 女)
歴史の中でのでき事が、リアルでわかりやすく描かれていた。こわいこともみせずにそれでも重い現実がわかるように描かれているのはうまい。もっと多くの人にみてほしい。勇気ある行動に拍手。人の命はいちばん大切だと思いました。(65歳 女)
「事実を知り伝える」、これが出来ないとまた同じ苦しみを抱える人ができてしまう…と思いました。(64歳 女)
邦題が良いと思いました。明けることは無いと思う程の暗闇に突き落とされても強い祈りで夜明けを迎えることが出来たシスター達にふさわしいタイトルだと思います。女医も、弱いところをたくさん描いているところが逆に共感を持って観ることが出来ました。(57歳 女)
修道院長の頭を石板でなぐりたい! と思いました。それからスマホみている人、家でDVDでも見てください。かわいそうなあなた、あなたの頭の中も修道院長と同じですね。そんなに自分で思っているほど人気者じゃないはずですよ。
ポーランドは、悲劇に見舞われた国である。
 ドイツ・ヒトラーによるポーランド侵略によって、イギリス、フランスがドイツに宣戦布告し、第二次世界大戦が始まる(1939)。そして、ポーランドはソ連からも侵略され、ドイツとソ連に分割占領される。
 例会誌の「作品背景」でも紹介されているが、ソ連軍によるポーランド軍将兵を大量虐殺した「カティンの森」事件(1943年)、国内軍が主導したワルシャワ蜂起(1944年)を見殺し、ソ連がポーランドを占領(1945年1月)する。
 この映画は、ソ連軍が国内軍兵士の捜索を理由に女子修道院に入り込み、三日間に亘って暴行を繰り返した(1945年12月)。修道女(シスター・マリア)は、雪の中を歩いてフランス赤十字の女性医師(マチルド)を探し当てる。診察を断られ悲嘆にくれて雪の地面に跪いてマリアの祈る姿は印象的である。マリアの案内で修道院に着くと臨月を迎えたシスターがいる。そのシスター・スフィアを帝王切開で赤ん坊を取りだすマチルド。修道院長からソ連兵の暴行を受けたこと、7人もの修道女が妊娠をしていることを知らされる。
 院長自身も梅毒に犯されている。マチルドの献身的なはたらきにシスターたちはマチルドに賞賛の声を送り彼女を取り囲む。
 修道女たちの信仰と望まぬ妊娠と出産という苦悩。院長が生まれた子どもを遠くの道端に置き去りにする酷い場面も(村の里親を探して預けたと嘘の報告)ある。極限の状況の中で信仰とはどうあるべきなのか?を問い架けている。マリアが「信仰は二四時間の疑問と一分の希望」とマチルドの問いに答えた。
 ラストで、3年後の修道院がマチルドたちが取り上げた5人のこどもたちと戦争孤児を囲んだシスターたちによって孤児院に生まれ変わった映像が映し出され、生きる希望を与えた。
 ポーランドの悲劇として、ヒトラーによるユダヤ人虐殺のために造られたアウシュヴィッツ強制収容所がある。この人種絶滅のための施設がドイツではなくポーランド南部に造られたことだ。
 第一強制収容所開所(1940年5月20日1941年完成)。続いて第二強制収容所(1941年10月)。第三強制収容所(1942年)が建設。
ヒトラーは、ホロコースト(人種差別による絶滅政策)によるドイツ国内のユダヤ人強制労働者15万人(男性10万人、女性5万人)のアウシュヴィッツ移送を命令した。(1942年1月26日)
 ホロコーストによる犠牲者は推計600万人とも言われているが、最も犠牲者が多いのはポーランドにおける300万人にも達するようだ。
 ヒトラーや強制収容所を取り上げた映画も毎年跡を絶たない。それほど現在も世界を震撼させた歴史的大事件であり、決して忘れることは出来ない。(男)

良い映画でした。いつも期待しています。ありがとうございました。(77歳 女)
静かな中に戦争のもたらす残酷さが伝わりました。院長様が生まれた子どもを養子に出すとしていた事が殺すという事、おどろきでした。実際にはもっとひどい事があったのではないかと思わずにいられません。(71歳 女)
仏女医さんは、よくないことであれ、被害者たちのことをより理解できたのか。悲惨な結果でゆさぶられたポーランドの女性たち。最後、希望の光がさしました。(71歳 女)
女性にとってはつらいシーンもありますが、二度目なので、余裕をもって見ることができてよかったです。(67歳 女)
なかなか重たい、また深いものを受け取った感じです。戦時下の性暴力のむごさ、醜さというものを改めて感じざるを得ませんでした。状況はかなり違いますが、満州からの引き揚げの中でソ連兵たちに襲われた日本人女性たち、当時、それを「特殊婦人」と呼んだそうですが、その状況事情を掘りさげたTVドキュメンタリー、山口放送の「奥底の悲しみ」と「記憶の澱」というのを思い出し、粛然とした気持ちになりました。また、この映画の修道院院長の行動を見る中で、「信仰」というものの意味、ひとつの怖ろしさのようなことも考えてしまいました。(67歳 男)
いのちを救うことで、私たちは自分も救われることが伝わってきました。その時にどんな選択をするか、自身がとわれる。どんな生き方をするか、考えさせられました。(65歳 男)
後味の良い終わり方だったけれど、途中まで同じポーランドの尼院を舞台にした『尼僧ヨアンナ』を思い出した。宗教は人間を不幸にするという話にも取れよう。しかし、カソリックが自殺するか?(64歳 男)
戦争が生んだ悲劇でおわらすことなく、なぜ人はそういう行動をとるのか、考えた。ソ連兵は、ナチスを追い払いポーランドを占領したあと、なぜ、修道院にまで押し入って暴行したのか。フランス赤十字は、なぜポーランドに来たのか。院長は赤子の命よりも、なぜ院の名誉を大事にしたのか、修道女たちは、なぜ命の危機を前にしても祈るだけなのか。子を産んだ修道女の一人は、自分の子を捨ててまで、なぜ修道院を出たのか。マチルドは危険を承知でなぜ修道院に通い続けたのか、フランスはソ連軍をどう思っていたのか、マリアの手紙などラストは希望を見ているが、人の心はわからない。(63歳 男)
しんどい映画でしたが、いろいろ考えさせられました。(58歳 女)
重たーい話だった。修道院は人を救助する場であるはずのものなのに、院長の頑ななポリシーが結果として人の母親の一人を死に追いやるなんて、矛盾を感じた。今の日本人の感覚では想像がつかないくらい複雑な社会なのか?!(57歳 男)
最後までハラハラ、ドキドキして集中して見られました。神への愛、神の導きを又命より優先して、形をくずせない宗教の世界も大変ですね。昔の宗教革命って大変だったんでしょうね。しかし、どこかでこの映画みたことがあるのだが、どこだったかな。
悲劇を越えてゆく人間の勇気に感動!

よい映画でした。いつも戦争中では、どこの国でもあったことだと。後のことが。(82歳 女)
女性という性が常に大きな犠牲をしいられるのだと再認識。だからこそ、平和のための声を女性からあげていかなくてはならないと強く感じました。(女)

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