2019年1月例会『天命の城』

HP1901 天命

解説

一国の存亡を賭けた闘いの真実を描く感動の本格大作時代劇

 1636年12月、清が朝鮮に侵入した「丙子の乱」を描いた歴史大作。平和を重んじ国と民を守るために清と和睦交渉を図るべきだと考える吏曹大臣のチェ・ミョンギル(イ・ビョンホン)。清と真っ向から最後まで戦い、大義を守るべきだと考える礼曹大臣のキム・サンホン(キム・ユンソク)。主和派と主戦派。ふたりの意見の対立に挟まれ、王・仁祖(パク・ヘイル)の葛藤は深まる・・・。
 1636年に起こった「丙子の役」を題材に韓国でベストセラーとなったキム・フンの同名小説を、『怪しい彼女』『トガニ 幼き瞳の告発』のファン・ドンヒョク監督が映画化した。

 400年近く前の歴史劇だが、あらゆる人物、セリフやエピソードがまるで現代の物語のように心をひきつけ一瞬も目を離せない。凍てついた厳しい光景も状況的な緊張感となっている。本当に国や民のためを思っている意見もあれば、保身や追従やその場限りのつじつま合わせもある。王はそれらの意見を吟味して決断しなければならない。大変なのは、本当に国や民を思っている二つの意見が対立することだ。二人の忠臣が、同じ大義を掲げて、全く正反対の結論を導き出して主張する。その忠臣二人を、イ・ビョンホンとキム・ユンソクが、演技合戦をするかのように魅せてくれる。
 主君の前で体を倒すように頭を低くし、静かだが力強く、王や兵、民が生き残る唯一の道を進言する吏曹大臣ミョンギル。国家の体面を重んじる大臣たちからは逆臣扱いされ、何度も「首をはねて敵に差し出せ」と攻撃される。どんなに追い詰められても、意見を変えず国のためにはそうするしかないという信念がある。
 正面を見据えて屈辱より名誉の死を主張する礼曹大臣サンホン。国家体制を守るために何が必要かを合理的に考える。兵士の待遇改善をしたのも、その一環。どちらにも一切の私利私欲がないだけに、いずれも説得力がある。主戦論者サンホンは誰よりも情が深く、下層の人たちの苦しみを知っており、そのさりげないエピソードがいい。特に彼に引き取られた少女ナルとのやり取りは心に残る。兵として城に引っ立てられた鍛冶屋を通して描かれるあからさまな身分差別。彼が王の檄文を死ぬ思いで届けた時のエピソードなどしっかり描き出す。
 特にナルは、幼い少女ながら自分を引き取ってくれたサンホンのことを心に掛け、精一杯の愛情を示すが、冒頭でサンホンがナルの祖父に何をしたのかを知っている観客としては、見ていて複雑な心境になってしまう。このあたりが脚本のうまさで、どの人物もキャラクター設定が緻密なところが、物語に重層的な膨らみを持たせて観客を退屈させない。韓国の歴史劇ではあるが、どの人物も近しく親しみやすいのは、やはり多彩なキャラクターに命が通っているからなのだろう。
 ミョンギルとサンホンのほかに、都合のいいことばかり言って事態を悪化させるような愚かな大臣もいる。そういう大臣たちが、御前会議で、いろんな意見を言う。王は、それらの意見のどれが妥当でどれがおかしいのか、孤独に判断を下さなければならない。最終的に責任を取るのは王なのだ。
 そういう、王と臣下の意思決定のドラマの外側に、国家に翻弄される庶民がいる。サンホンに斬り殺された老人、老人の幼い孫娘、兵士として駆り出された鍛冶屋。敵陣の通訳も、元は身分の低い朝鮮人。彼らにとっては、国家の運命なんて二の次で、自分たちの平穏な生活の方が大事。重厚な人間ドラマとして、迫力ある時代劇として、見応えのある作品を渇望している方に、ぜひ見ていただきたい作品だ。

 馬に食べさせるために、兵士の寒さ除けの「むしろ」を取り上げるものの、結局は、馬を殺して兵士に食べさせるという愚かな話が描かれる。
 監督はインタビューに次のように答えている。
 「これは実際に、「丙子の役」の記録に残っている話。悲惨ではあるけれど、どこか笑ってしまうような連鎖、戦争によって生まれる皮肉を見せたいと思いこの場面を入れました。非常に重要なシークエンスです」
 「国家的な状況と、個人が抱える状況。私はこの二つの側面から、本作を現代に照らし合わせてみたいと思うのです。このような状況はいつどこでも起こりうること。個人の信念を追い求めた方がいい場合もあれば、後々のことを考えて、頭を下げた方がいい場合もあると思います。同じような状況が起きた場合、どのような選択をすべきか。これを問い続けることで、悲しい結果を二度と繰り返さないようにしたい。そう思って、この映画を製作しました」
 なぜ、忘れたい歴史の一面をあえて映画にしたのだろうか。鑑賞後にいろいろ考えたくなる作品で、時代は違うが私達現代人にも当てはまる内容ではないか。この作品の登場人物もたとえ主張が通ったとしても自らの主張が本当に正しかったのか自問自答していたはずだ。
 争いも戦争も全く不毛で、残酷なもの。欲望を押し付けず、資源を分かち合う。正しさを押し付けず、考えの違いを歩み寄る。こうした判断を行動に移すためには、理性や知性、相互理解や寛容が必要だと映画が教えてくれる。 
(陽)

ひとくち感想

◎大変よかった  ◯良かった  ◇普通  ◆あまり良くなかった  ☐その他

敗者の気持ちがよくわかる。敗戦時の日本もそうだった気がする。(84歳)
大阪城の話、第二次世界大戦の話が思い出された。民を官は信用しない。今もそうみたい。日本人は敗けの屈辱がないみたい。常に自分をごまかして負けを消し去ろうとしている。(77歳 男)
民の命を尊重するといい乍ら、あちこちで民の命を粗末にしている。おまけに50万人の民が戦後連行されている。このような和議は結局朝鮮王朝の支配層を温存するだけではなかったのか。史実に基づいているとの由、民の真に大切にされるようになったのはつい最近のことに要に思われる。[希望]韓国映画『軍艦島』をお願いします。(76歳 男)
これは大作、力作だ。なぜか日本の太平洋戦争末期から敗戦後とのアナロジーをいろいろ感じてしまった。最大の共通点は、もっと早くに決断できていれば…ということだ。(74歳 男)
斗いに出撃する時の「声明文」を恐ろしく思った。すべてを正当化して「やる気」を高め「扇動する」。思慮深くあらねば!「生きる道」は本当に「茨の道」だと思った。(71歳 女)
力の世界、生きてこそ。(70歳 男)
◎戦いのシーンが多くて気持ちがのりませんでしたが、後半になり、国の在り方とか深い思いがわかりかけてきました。白と黒の画面に王の衣の赤と血の赤が印象的でした。最後、女の子が希望とうつりました。音楽が良かったです。(70歳 女)
二回見ました。二度とも退屈せず眠らず。王が臣下に問うけれども、自分としてはどうしたいのか明確にしたのは生き永らえたいという時のみ。トップは往々にして責任をとらず、下の者は駒として使われる。ナルとナルセが共に暮らし、タンポポがさいた時、ナルは友と遊びに行く。そしてナルセは槌を打ち続ける。この光景が続いてゆくことを。(69歳 女)
1636年の「丙子の役」で朝鮮は清国の臣下となったが、それ以外の選択はなかったのでは…。我が国の今を思う時、この映画の主人公たちのように真剣に国を思う政治家がどれほどいるのだろう? (66歳 男)
映画公開時観そびれて、今回上映してくださるのがとてもうれしいです。よい映画でした。(60歳 女)
第二次世界大戦の終結時の日本とよく似ているなと思いました。無謀さとか、民の犠牲とか。(60歳 男)
大学で中国の歴史を学んでいたので、この映画がすごく観たくて来ました。朝鮮王朝のことはあまり知らなかったのですが、籠城をしている側の苦悩、民の悲しみ、二人の大臣のやるせなさと辛さ、たくさん考えさせられました。すごい映画で二時間あっという間でした。ありがとうございました!(44歳 女)
多くの人が死んで、国のトップの人の判断で、こんなにも犠牲が出るのはつらかったと思う。最後に春が来て、平和になったのを見てほっとしました。(20歳 女)
男だけしか出てこない、その男たちがカッコイイ。重みのある演技ができる俳優が多い(私はその点では日本は負けてると思う) ラストは黒澤明の『七人の侍』に似ているように思う。戦いがおわり、民はいつもながらの生活に戻っている。(女)
シリアスな韓国映画。破たんなくまとまっていた。韓国映画も大人になったと思いました。日本映画の『二百三高地』や『八甲田山』のように思えました。「よそのお国のこと」ではなく、日本にもありうる、いつもおきるできごとです。これを見るべき意味はひたひたと聞こえてくる、いつか聞いた足音です。もっと早く決断してくれれば、チルボクにもまにあったのに。本当にかわいそうでした。なんかバラバラと書きましたが、この映画を見て本当によかったと思いました。(女)

戦争映画は好きでないです。でもそれぞれの立場で苦悩する姿はよかったが、流れにのって意見が流れるのはイヤだけど、自分がその立場だと動かされるかも。(74歳 女)
小国の悲劇と役人の嫌な面が印象に残りました。この歴史を描くとこういう映画になるでしょうか。残念ながら、楽しい映画にはならなかった。とにかく支配者に振り廻される民衆こそ悲劇。(71歳 男)
久しぶりの映サの映画をみました。骨のある歴史ドラマで良かったです。(70歳 女)
韓国映画の時代劇は映画で見るのは初めて。朝鮮が地理的理由からか過去何度も侵略を受けていることに驚いた。朝鮮の暮らし・風俗など興味深く、ハラハラして見た。王の決断の難しさ…。(後ろの席で咳をしている人がいてマスクを着けて欲しかった。インフルエンザが流行っている折であり、考えてほしい)(70代 女)
二回目ですが、忠臣は得難いものだと思いながら見ました。戦争になると私などはどう逃げたらよいのか、残酷なシーンは見方を変えるとリアルなわけで、戦争は嫌だと思いました。(67歳 女)
武力では何も解決しないということでしょうか。戦闘場面が多いのは苦手です。かなりの製作費がかかってるのでしょうね。(66歳 女)
相変わらず王のメンツを大切にする国のことがよく描かれている。命は奴婢でも同じだと思うが。本当に不義理な時代の話はあまりにも壮絶だった。明と朝鮮の関係は長い歴史の中で血塗られていると思った。64歳 女)
1600年代の清に、強力な大砲が雨のように弾を発射させるほど多数の準備ができていたのかと驚いた。(64歳 男)
命の安全や安心がない日々を暮らす人々のことを思えば、今日こうして映画をみて物事を考えられる日々を送っていることを大切に過ごそうと思いました。(64歳 女)
歴史は「過去と現代の対話」を見事に映画的に表現していると思います。国家と民との関係、政治を動かす人々の様々な姿は現代でも、どこの国や組織にでもあるものです。見る側としては、もう少しあの時代の東アジアの情勢についての知識があればよかったと思いました。(62歳 男)
酷い話だった。戦争は人の心身をずたずたにするにすぎないのに、兵士たちにとっては勝負ごとに過ぎないのだろうか。(57歳 男)
韓国の良心が作った作品だと思います。歴代の韓国政府はこの史実から何を学んだのでしょうか。(55歳 男)
平和をつかむのはむずかしい。何が正解なのでしょうね。鍛冶屋さんと女の子が笑ってるのでホッとした。
非常に良かった! 今の朝鮮半島はたいへん問題が多く多難であるが、翻弄されたこういう歴史的背景をよく理解し、地理的、地政学的な立場をしっかり見ておく必要がある。もちろん、現在の国際法、国連等のルールは遵守してもらわないといけないが、琉球やインドシナにも共通するところもあると思う。古代から深いつきあいのある我国は、弱きを助け強きをくじく日本男子、大和撫子たるべき交流をしなければならない! キムチ、みそチゲ大好き!(男)
朝鮮、韓国に生まれなかって良かった。映画以外で申し訳ないのですが、後ろの席の方が私の席を何度も何度もけり続けすごく不快でした。今後上映前にご注意のアナウンスをされることを希望致します。

清、明、朝鮮の歴史の勉強&朝鮮の忠誠心への想い↓現代に通じる想い。Interesting (67歳 男)
朝鮮史においてこれが重要なひとつの転換点のようなものであること、そしてそれが決して誇るべきことでなく屈辱的なものであることを、逃げずにしっかりと伝えてくる重みを感じました。大国の強権に対し小国がどうして行くのか、「クニ」を護るとはどういうことかについても考えさせられ、国家組織の非道さ愚劣さにも言及され、それは今の日本のありようにも思いを致すことになりました。「死は耐えられないが、恥辱は耐えられる」という言葉を韓国映画の中で聞かされるのは、ちょっと凄みのようなものを想いました。ただ、やっぱり「遠い」。この、遂に手許に寄って来ない「遠さ」は如何ともし難いものがあります。力作であることは間違いありませんが。(男)