2018年2月例会『弁護人』

解説

国家に抗い、社会を変える闘い
時代の流れ
 『弁護人』は、大韓民国は「少し前まではこんな国だった」と過去を直視する映画です。
 この映画は1981年釜山で実際にあった「釜林(プリム)事件」をもとに、「国を守る」ために「人間を踏み潰すことをためらわない政治が支配する社会」の怖さを描きました。国家と公務員が憲法や法律を守らないと、どのような恐ろしいことになるか、そしてそれに抵抗し、民主主義のために身を挺して闘う人々が社会を変えていくと、強く訴えています。
 1910年以来、朝鮮半島は日本の植民地として支配されてきました。1945年日本の敗戦によって、植民地から解放されます。しかし米国とソ連(当時)によって分割占領され、北と南に分かれて国づくりが進められました。
 1950年、300万人もの犠牲を出した悲惨な朝鮮戦争が勃発します。3年後、戦いは38度線で休戦となりますが、米ソが対立する東西陣営の最前線、分断国家として現在まで続いています。
 韓国は、李承晩初代大統領(1948~60)以降、独裁政権が続きます。軍事クーデターで大統領となった朴正煕(1963~79)は長期の軍事独裁政権を敷きました。
 1970年代後半、ベトナム戦争は終結していましたが、ソ連のアフガニスタン侵攻があり、西側諸国のモスクワオリンピック・ボイコット事件等、東西陣営が厳しく対立していました。韓国は、新興工業国として経済成長するとともに、独裁に反発し民主化を求める声が起こり始めます。米国からも人権抑圧に批判がありました。
 1979年に朴大統領が暗殺された後、「ソウルの春」という民主化を求める学生、市民運動が各地で一気に広がります。それに対し、軍隊が弾圧、虐殺する光州事件(1980年)が生じました。
 その後、軍事クーデターにより大統領となった全斗煥(第11、12代)は「北」の脅威を強調して、戒厳令を発するなど民主化を求める市民運動を、さらに厳しく弾圧しました。
映画は、その時代です。
 この映画は2013、14年に韓国で上映されて観客動員1100万人と大ヒットしました。朴槿恵大統領(第18代)が誕生した時期です。李明博大統領(第17代)と二代続いて、軍事独裁政権の流れを引き継ぐ政権が出来たことに対する、韓国市民の反発と危機感が足を運ばせたのかもしれません。

生き方を変える
 高卒の学歴しか持たないソン・ウソク(ソン・ガンホ)は、猛勉強で司法試験に合格し、釜山で弁護士事務所を開業しました。名門大学の学閥に属さないソンは、不動産取引や税務業務等の民事を扱い繁盛しますが、「金儲け主義」と陰口をたたかれる弁護士でした。
 しかし昔から大変世話になっていた食堂のおばさん(キム・ヨンエ)の息子パク・ジヌ(イム・シワン)が、国家保安法違反で捕まった裁判を引き受けることになります。
 拘置所で、全身あざだらけになり、痩せこけて生気のなくなったジヌを見て「官憲の犯罪」を直感した、ソン・ウソクはすべてを投げ打って裁判に取り組みました。事件の全容を調べていくにつれ、官憲の不法な拘留、逮捕、拷問の実態、さらに事件そのもののねつ造に気付きます。
 しかも検事、警察だけではなく裁判官も国家の方針に従うことを求め、弁護団内にも無罪を争うのではなく、情状酌量で量刑の軽減を求める意見がありました。新聞などのマスコミも政府発表しか掲載せず、事件の真相を報道するものはありません。ソンの家族に対する脅迫もあります。
 そういう四面楚歌のなかで、ソン・ウソクは徹底的に闘う決意を固めます。貧しい階層から苦学してたどりついた民事専門の弁護士でしたが、正義感と勇気をもっていました。大韓民国憲法を信頼し、猛勉強でそれを武器に法廷で闘います。そこには世界の趨勢に影響をうけ、韓国の未来に対する責任を負う気概を感じます。
 彼は、裁判官に要求して、まず「推定無罪」の近代的憲法の原則から、法廷での被告人の手錠、腰縄をはずさせます。

人間の尊厳を守る
 「釜林(プリム)事件」は、政府に批判的な学生、市民団体を弾圧するために、官憲が国家保安法違反をねつ造して、社会科学を学ぶ学生や市民を、令状もなく長期に不法拘留、拷問した冤罪事件です。
 官憲は若者たちを拷問にかけて、ありもしない事件、事実にないことを「自白」をさせます。殴る蹴る、水責め等、彼らは若者たちの精神と肉体を徹底的に痛めつけ、人間の尊厳を潰します。見るのもつらい映像です。
 「命を、基本的人権を守る国でなければならない」ソン・ウソクの怒りの原点はここにあるように感じました。
映画では、実行した警官を裁判で糾弾しても「北の脅威」を口実に平然としています。大韓民国憲法は第12条「すべての国民は、拷問を受けず、刑事上、自己に不利な陳述を強要されない」となっています。それが踏みにじられます。
 韓国は、この時代を超えて、紆余曲折はあっても国民の闘いで民主主義の確立を目指しています。映画では実名を出しませんが、その先頭に立った弁護士ソン・ウソクは、のちに第16代大統領となった盧武鉉の若き姿でした。
 日本国憲法も第36条「公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁止する」と謳っています。しかし戦後も拷問はありました。そして今、起きてもいない犯罪を処罰する共謀罪法を成立させた、立憲主義と民主主義が形骸化しつつある日本にとっては、近い未来像かもしれないと、見るべきかもしれません。(Q)

ひとくち感想

◎大変よかった  ◯良かった  ◇普通  ◆あまり良くなかった  ☐その他

とても良かったです。最後迄あきらめずに弁護したノ・ムヒョン氏を尊敬し、応援します。ありがとうございました。(76歳 女)
本当の勇気、男、人間を強く強く感じました。(76歳 女)
映画は、1981年に軍事政権の下で韓国・釜山で起こった「プリム事件」を題材に、民主主義のためにたたかった弁護士の抵抗の物語である。後半からは緊張の連続であった。特に、大学生・クッパ屋のジヌに対する拷問と脅迫で、嘘の自白をでっち上げる場面は、目を覆いたくなる。軍事政権下の警察幹部は、「自分たちが国を守っている」と嘯き、国家保安法違反なら何をやっても構わないという横暴さを暴き出したこの映画は秀逸である。弁護士ソン・ウソクは、韓国憲法を盾に、公判における被告学生の身柄の拘束を止めさせ、拷問の実態を摘発していきます。公判の最終日に警察の暴行現場の決定的証言を行った軍から派遣された医療班中尉も憲兵に引き渡されたが、その彼はどうなったか。 今、日本や日本人の韓国や国民にたいしても感情や印象が悪化している中で、韓国の民主化のためのたたかいを紹介した映画の提供は貴重である。(76歳 男)
1980年代初頭の韓国社会、軍事政権下の状況をありのままに表わした映画として大いに評価出来る。戦前の日本を想い起こすと共に将来の日本の厳しい国家管理体制への警告にもなっている。(75歳 男)
感動しました! とてもいい映画を観させてもらいました(74歳 男)
今、『多喜二の母』が放映されているのとあわせて、この映画をみてますます政治のあり方を考えさせられた。社会の動きも関心がうすれると、どんなかしこい人も視点、みかたがかわるということも教えられました。(73歳 女)
冊子の予告を読まずにきましたが、本当に心ゆさぶられる映画でした! 人間の良心の証。韓国の話と日本の昔の時代が重なりました。こんな良心的な映画を作る韓国に拍手!(70歳 女)
権力によって不当な「あつかい」をうける人々を救う弁護に感動した。そして、どんな人をも守る、力になる「法律」や「憲法」を変えることは熟慮が必要である。今の日本、権力者が自分達の都合に合わせて「憲法」をかえたがっていると思える。「熟慮」しよう。(70歳 女)
実際の事件を基にしているので、その怖さも並大抵ではなかった。いい、悪いなどとはとても言えない。戦前の日本の治安維持法もこのようであっただろう。今「3000万署名」を集めて憲法を変えさせないようにしないと。それにしてもセレブ弁護士から一転「アカ」を弁護する弁護士へと、人間かくも変わるのかといい意味で感嘆した。(70代 女)
感動的でした。多くの人に観てほしい(69歳 男)
感動、感動です。もう何も書けません。ありがとう。(69歳 女)
素晴らしい映画! 最後は思わず拍手! ラストで弁護士名を読み上げるシーンでは涙が止まりませんでした。(68歳 男)
胸があつくなりました。こんな映画がもっと沢山の人々に受け入れられるといいなーと強く感じました。(68歳 女)
どこの国でも国家が権力を強く持つと弱者は苦しむばかりです。平和な国家は大切です。(66歳 男)
最近、予習をせずに見に来てしまっていますが、大きな見出しだけで、イメージしたのを覆されることばかりです。今回も「正義派弁護士?」と思っていたら最初は要領よく成り上がるのか?という感じの弁護士が変わっていくところから、ぐいぐい引き込まれました。法とは、法を守るとは、弁護士の役割とは、国家とは、(国家とはうんぬんのところで、そうだ!と思った!)考えさせられた。人間の生命を守るための法であり、それを守る国家であってほしい。(66歳
軍事政権時代の韓国を描写した作品の力強さが心を打ちます。物の善悪を国家に反抗するという一点で判断する怖さは今の日本でも起こっていますね。(65歳 男)
「法の番人が矢面に立つ」という一言が印象に残りました。こんな国家体制にならないために知恵を出さないと、と考えさせられました。(64歳 男)
やっぱり、こわかった。正しければとおるという、いまの日本だから(ちょっと?のところもあるが)考えられるわけで。歴史で斗っている人がいてこその民主主義が守られるということ。黙っていてはいけない。勇気を出して声を出すことが、みんなに求められている。(64歳 女)
よくこの映画を製作して下さったと思います。人の真実を愛する心は永遠と思いたいですが、権力を持つものはどこまでもその力で支配しようとする構図は変わらないことに恐怖を覚えます。ひとりでもこのような映画を見る人、若い人に伝えなければと思うのですが、現実は中々…。でもできることからですね。(63歳 女)
ソン・ガンホ、いい役者です。(57歳 男)
二回目ですが、やはり良かった。ガンちゃん、ええわ〜♡(56歳 女)
1980年代の韓国がこんなにひどい恐ろしい国だったのか。自分の想像以上だった。あの拷問は「拷問」というものではない。職権乱用も甚だしい。「職権」という名を使ったリンチ以外、何物でもない。(56歳 男)
ドキュメンタリーではなくこのような作品をもっととりあげて下さい。(54歳 男)
素晴らしい映画でした。涙が、いつまでも止まりませんでした。(匿名)
1月、2月とも2回目の映画でした。サークルが選んだ作品と一致したことが嬉しいし、又見ていない作品も楽しみにしています。(匿名)
朴大統領の時代に、楯ついた新聞社の編集長が死刑に処された。民主化は多々の生命を犠牲にして得たものだ。日本人はその重さを忘れていないか?(女)

「軍医はどうなったのか」と思う。彼は軍法会議にかけられて、「脱走」や「守秘義務」違反かなにかで処分されただろう。彼はそれを覚悟で、ソン・ウソクに連絡して証言に立った。人間の良心こそが社会を変えるという励ましだ。(61歳 男)
市民の権利を守りたたかう弁護士に育った過程や社会状況がよく描かれていた。法を無視する権力の姿勢は、日本の未来を見るようでもあった。不満を言えばAll Boysの映画だったことだ。最後のシーンの弁護士は男性ばかりだった。(60歳 女)

この映画の多くのことは、現在の日本でもあることだ。どこかの夫妻は長勾留だし、どこかの役人は偽証して昇進している。そして、どこかの次官は小さなカンケイないことを官邸にバクロされた。(73歳 男)
熱い韓国に栄光あれ! 久し振りにソン・ガンホ、ピッタリはまり役でした。(72歳 女)
7年前の食い逃げのおわびから発した人間のありよう。人は、おかれたところで、人間性をむきだしにして、醜くもあり、感動的でもあり…、本当に人間のスバラシサを味わう映画で、弁護士にも沢山の人にみてほしいナ。(60代 女)
『弁護人』は観のがしていたので、観られてよかったです。(男)