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2017年12月例会『ヨーヨー・マと旅するシルクロード』

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解説

音楽と異文化そして人との交わり

 『ヨーヨー・マと旅するシルクロード』は、日本でもよく知られている世界的なチェロ奏者であるヨーヨー・マが立ち上げた「シルクロード・プロジェクト」を取り上げた作品です。彼を中心としながらも多くの音楽家で構成されている中のおもに4人のメンバーに焦点をあてた、彼らの音楽と「旅」のドキュメンタリー作品です。
 このプロジェクトを追ったのはモーガン・ネヴィル監督。これまでもさまざまなミュージシャンのドキュメンタリーを製作しており、マイケル・ジャクソンなどのトップスターたちの陰に隠れてきたバックシンガーにスポットを当てた『バックコーラスの歌姫たち』(20)でアカデミー長編ドキュメンタリー映画賞を受賞しています。
 音楽を楽しむだけでなく、彼らが追求してきた音楽とともに彼らの生きてきた道を振り返りながら、音楽をとおしての人との交流、結びつき、音楽の可能性までも射程に含んだ作品です。ヨーヨー・マの多彩な演奏が紹介されるのはもちろんのことですが、ケマンチェ(バイオリンのルーツとなる楽器)の奏者であるイランのケイハン・カルホールや中国の琵琶(ピパ)奏者のウー・マンなどの民族楽器の演奏を聴くことができるのも大きな楽しみのひとつです。
 幼少から天才といわれチェロ奏者として成功したあとのヨーヨー・マにとって、いかにして「音楽へのモチベーションを保つこと」ができるか、が大きなテーマだったという。アフリカのカラハリ砂漠にあるブッシュマンの村で、彼らが演奏する音楽に深い感銘を覚えたこと、そして、音楽を追求するうえで、「音楽に国境などない」という考えに至ったという。

シルクロード・プロジェクト
 そんなヨーヨー・マが設立したのが「シルクロード・プロジェクト」。一九九八年に、シルクロードにゆかりのある多数の音楽家の参加を得てヨーヨー・マが立ち上げたものでヨーロッパとアジアの人々を結び付けた貿易ルートであるシルクロードの芸術・文化・歴史などに触発されたことから始まった。今では、さまざまな文化的なコラボレーションを行いながら音楽家へのトレーニングワークショプも開催するなど、新しい希望に満ちた音楽を作り出す活動をしています。こうした活動のなかから固定されたメンバーではなくて、ゆるやかな音楽集団として「ザ・シルクロード・アンサンブル」が結成されワールドツアーにも出ていて、日本にもツアーで訪れています。01年に「Silk Road Journeys-When strangers Meet」というアルバムをはじめとして何点か発表されています。メンバーの国籍も約24カ国となり、人数も約60名にも及ぶ民族楽器奏者などで構成されています。映画の原題となっているのが「The Music of Strangers」で、まさに、さまざまな歴史的、文化的、政治的背景を背負ったメンバーからなる集団であることをこのタイトルは象徴しています。

シルクロード・アンサンブル
 作品の冒頭では、様々な国の民族楽器を交えた路上でのボーカルを入れた音楽演奏で幕をあけます。それは、音楽だけでなく絵のパフォーマンスも行うなど、シルクロード・アンサンブルの新しい試みの紹介でもあります。そして幼い頃から天才的チェロ奏者として名をなして、世界中で演奏活動をしてきた彼の過去の映像。彼をめぐる人々のコメントの紹介のなかに、ヨーヨー・マのさまざまな場所で行ってきた演奏場面が描かれていきます。同時に「シルクロード・アンサンブル」のメンバーである四人、中国の琵琶(ピパ)奏者であるウー・マン、イランのケマンチェの奏者のケイハン・カルホール、シリアのクラリネット奏者のキナン・アズメ、スペインのバグパイプ奏者のクリスティーナ・パトたちの音楽とこれまでの歩んできた道が描かれます。
 現在と過去、世界各地の風景、演奏、人との出会いなど、時間と場所を自由自在に移動しながら各自が辿ってきた道を振り返ります。その中に政治、伝統、社会、歴史なども点描されていきます。そのため少しとまどう所もあるかも知れません。でも、音楽自体が時間や空間を飛び越えて人の心に迫ることのできる存在です。個々の理解ができなくても直接的にコミュニケイトすることができます。その素晴らしさは十分に伝わってきます。ここでの登場人物は、音楽活動と人生が渾然一体となっています。そして、「根無し草」のような人生をたどっている人もいて、絶えず、自分のアイデンティティを確認せざるを得ない立場にいます。その自分のルーツを振り返りながら、一方では他の文化と触れ合いながら音楽活動を続けています。

伝統の継承と異文化
 たとえば、中国のウー・マンは、1960年代の中国で九歳のときから中国琵琶(ピパ)を学び始めて、伝統音楽と現代音楽とを中国琵琶で結びつけて新しい役割を作り出したあと活動の場をアメリカに移します。そしてクロノス・クァルテット(アメリカの弦楽四重奏団)などでの演奏を経てオーケストラでのソリストとして活動するようになったという。そして、自分のルーツと向き合い中国の影絵人形劇「チャン・ファミリー・バンド」をニューヨークとロサンゼルスに招聘します。
 イランのケイハン・カルホールも少年時代からケマンチェの奏者として活躍しますが、17歳で国を出て、さまざまな地域での音楽を研究したあと国際的に活躍をするようになりますが、ペルシア音楽を教えるために02年に帰国します。でも、政府からの圧力を受けて妻を残して再びイランを出ることになります。
 スペインのクリスティーナ・パトは、スペインの中では異邦と呼ばれるスペイン北西にあるガリシア出身です。異邦と呼ばれるのはケルトの伝統を受け継いでいる人々が住んでいるためです。そこで「ガイタ」と呼ばれるバグパイプ奏者として、ポピュラーミュージックとクラシックの両方で活躍しています。けれども、伝統的な音楽の世界から批判的な声もあります。そのような声を聴きながらも、さまざまなジャンルの音楽家と国際的な活動をしています。でも、自分のルーツはこの地にあるという。ガリシアの文化・伝統を次世代にも伝えていきたいと彼女は思っています。
 シリアのクラリネット奏者であるキナン・アズメは、国内の政治情勢が悪化したために活動の場を異国であるアメリカに移さざるを得ません。母国の現状に心が痛むという。そして、レバノンのシリア難民キャンプの子どもたちにクラリネット演奏の楽しさを教えるためにキャンプを訪れます。この映画にかかわって、彼のインタビューがあり、そのことについてこう述べています。「自分のクラリネットが、銃弾を止めることはできないことはわかっています。…しかし、音楽は誰かを笑顔にすることができます」(HP:「よろず編集後記」井内千穂のブログ)。
 いろいろな民族楽器のアンサンブルが奏でる音楽を楽しみながらも、ヨーヨー・マを中心とした登場者たちが、「音楽とは」、「音楽の役割とは」、「伝統の継承と異文化の交わり」などについて語る言葉は重く、そのテーマは音楽の世界だけでなくもっと普遍性をもったものとして描かれています。映像、音楽、楽器、伝統だけでなく人々の輪も交じり合ったまさに「アンサンブル」的作品になっています。
 なお、映画では場面は多くはありませんが、日本人メンバーの尺八奏者の梅崎康二郎さんなども登場します。
(研)

ひとくち感想

◎大変よかった ○よかった ◇普通 ◆あまりよくなかった ▢その他

日本国が文化から遠ざかってる危機からの脱出を祈りました。(81歳 男)
最高に良かったです。もう一度見たいです。再上映をお願いします。(78歳 女)
ヨーヨー・マがやりたかったこと、考えた事が音楽を通してだが広がったことが、いろいろな分野でもあるのではないか。(76歳 男)
想像していたより迫力有り、酔いしれました。(76歳 女)
大変良かった。涙が出る。いろいろな所で人類平和、特に芸術家達の脳のやわらかさで地球を変えていけたら。(74歳 女)
音楽に国境はないというのはすばらしい。物語ではなくリズムや音色などを主体にした音楽というものが共感を呼ぶように思う。世界のいろんな断面を組み合わせているのもよかった。(73歳 男)
今、武満徹さんの自叙伝を読んでいますが、彼が自分の音や音楽をつくる苦労をヨーヨー・マさんと同じだったのだと想像しました。世界は一つのことばを音で表現していた。ことばに言霊がのるのと同じように音にその人の心がのるのを実感しました。日本も伝統をつなげていくためにやり続けなければと思う。(72歳 女)
音楽の持つ多様性が感じられた。それぞれの音色がハーモニーになって、とても不思議だけど希望が感じられた。ヨーヨー・マ、素晴らしい方です。(71歳 女)
芸術家はすばらしい!!「心の脳」を発達させつづける存在だ。ヨーヨー・マのチェロ演奏、他の奏者みんなすばらしい。生演奏をききたいと思った。(70歳 女)
ヨーヨー・マは聞いたことがあったが、演奏を聞くのは初めてだった。世界中の演奏家たちとのコラボ、いろんな国の政治や社会の矛盾や波乱の中で、音楽で人々に訴えかけることの素晴らしさを実感できた。(70歳 女)
今年最後の例会にこの作品がみられてよかった。演奏は、内なるたましいのほとばしりだから、こんなに感動するのだと思う。「地球人」と云える日が来ればいい。演奏をきいて涙が出るなんて、はじめてかも知れない。(69歳 女)
チェロだけでなく多種類の楽器の素晴らしさ、楽しさを味わいました。シリアなどのつらさもありますが、地球は一つ、大変良かったです。(69歳 女)
大感激でした。You Tubeでシルクロード・アンサンブルやクリスティーナ・パトが大好きでよく聴いていました。(特にクリスティーナ・パトは引き込まれます)。しかし、こんなに大きな深い裏があるとは知らなかった。ヨーヨー・マの力の抜けた偉大さに脱帽です。勿論、イランやシリアのメンバーにも。いい作品選定に感謝です。固有の文化を大事にしたいと思います。(70歳 男)
寝不足を解消しようと来たのに、彼らミュージシャンの言葉と音楽が心に染み入り、頭が冴え渡る。文化の命はつなぎ、発展させ歴史的に残る。それにしても「ロックの起源が中国だ~」とはいい。(68歳 男)
食わず嫌いで飛ばしていました。また、一つ素敵な映画と出会えました。ヨーヨー・マさんの力で地球がまるくなったように感じられました。(68歳 男)
のんびりラクダで旅するシルクロードを勝手に想像していたが、最初の場面からまるで違って、いい意味でぐいぐい引き込まれた。困難な政治状況の中で、あるいはその故国を離れて自分の音楽とは何か、自分が生きることの意味を問い、また自分を育んだ文化の存在意義を問い、たたかう姿のぶつかりあいだった。探求のはてが出発点だったというようなことばを言っていたのが心に残っている。多様な文化を大切にし、しかも結びあえる音楽はすばらしいと思った。(66歳 女)
音楽を楽しみしてきたが、音楽だけでなく文化や社会状況など考えさせられる映画だった。「自分の役割」とヨーヨー・マが言っていたが、私も考えたいと思った。(66歳 女)
ヨーヨー・マ作品は一度観賞し感銘を受けた作品でしたので、今回の上映大変喜んでいます。音楽、芸術、文化は人間の財産です。(65歳 男)
希望作品『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』(65歳 女)
音楽については別格であっても人間としては、何もかわらないんだなぁ…と感じました。日本にいては経験のしようもない苦労を重ねた生活で希望を求めて生きている、うまく言えないけど、普遍的なものを感じて観て良かったです。(63歳 女)
ある演奏家が「難民キャンプで日に何人も凍え死ぬが、他の国の人達は(知ったこちゃない)…字幕」と嘆いていたのはこたえた。知っていて知らんぷりは勿論悪いが、(知っちゃいない)私や、テレビでいろいろ大変な情況を見ながら(忘れちまっていた)私もひどかった。ヨーヨー・マさんがシルクロードを辿りながら、それぞれの地で音楽家と交流し、民族楽器とチェロのさまざまな組み合わせを楽しませてくれる映画だと思っていたが…。そこここに紛争があり、住民にも旅人にも危険がいっぱいで、シルクロードを通して旅する事は不可能なのだ。楽器を抱いて命からがら外国へ逃げた人、国内で自分たちの言葉や文化が消されそうな人、弾圧されぬよう言動に細心の注意を払って暮らす人もいる。世界中で活躍するヨーヨー・マさんにも、「ノーベル平和賞作家が投獄された死ぬ国へは帰れない」もどかしさや悲しみがあっただろうが、皆で協力して笑顔と熱い勇気に満ちた、中近東のバザールのような活気ある演奏を聴かせてくれた。音楽、スポーツ、その他、傑出した才能を持つ人も持たぬ人も、どこの国のどの民族の人も、ささやかでも温かい生活が送れる事を願う。(62歳 女)
音楽のはてしない、すばらしさが伝わってきた。世界はラウンド「円」。(61歳 女)
文化は大切!(60歳 女)
あとでツタヤかCDショプに行ってヨーヨー・マのCDをさがそう、と思った。(60歳 男)
いろいろなキーワードが融合してひとつの作品が完成する。音楽の力を再認識していきたい。(58歳 男)
ドキュメンタリーなのに、いやだからこそ、登場する音楽家たちの喜びや悲しみが胸に迫ってくる素晴らしい作品でした。久しぶりに観に来られて良かったです。(57歳 男)
それぞれの演奏家や歌い手が、自分たちの苦しみや怒りを音楽にぶつけている姿がとてもよかった。言葉では表せないよさが、しみじみ伝わってきた。(56歳 男)
ぜひ生で聴いてみたいと思いました。ところで、途中入場はマナー的にいかがなものでしょうか。認めるのであれば、後方に席を設けてほしい。目の前にうろうろされるのは迷惑でした。(54歳 男)
見応えのある素敵な映画でした。周りの人にもぜひおすすめしたい映画だと思いました。

原題は「異人たちの音楽」であり、異文化の融合の象徴としてプロジェクト名を「シルクロード」と名付けたのでしょう。だから別段、シルクロードを「旅する」訳ではなく、その意味で誤解と混乱を招きかねない日本語題には、かなり当惑するところがありました。ともあれ、自らの出自とアイデンティティーをしっかりと認識し、そこにこだわることによって、初めて本質的な融合に至ることができると言う姿勢はとても納得できるものですし、そうしたことで到達する「融合」の中で「故郷」を離れ、また、離れることによって、再び「故郷」に回帰してくるのだ、というヨーヨー・マの息子さんの物言いは、とても刺激的で、響いてくるものがありました。(66歳 男)
二回目です。芸術家の背景が更によくわかりました。特にシリアについても、最近児童文学「片手いっぱいの星」を読書会で読みましたが、複雑な子どもたちの事情は、現在も1960年代と変わらないなんて、でも芸術の力も感じました。よかったです。(65歳 女)
ヨーヨー・マの力を感じます。チェロを武器に「世界を変える」という意思は確実にひろがっているし、この映画を通じて私にも伝わってきました。厳しい映像が多くあったわけではありませんが、シルクロードの過去の栄光と現在の惨状が描かれています。東西は分離しているのではなく、つながっている。文化は孤立するのでなく交流することで発展する。伝統は成長することで守られる、と文化芸術は銃弾を防ぐこともをふくらせることも出来ないが、その持つ役割はよくわかりました。(61歳 男)
ビートルズもそうでしたが、少しは音に乗りたい、じっとしていられない方のゆれは、かんべんしてほしい。相反しますが椅子がつながっている事が原因です。なんとかならないものでしょうか。(59歳 男)

ウー・マンさんがブラック・サバスの「アイアン・マン」を演じたのには、おどろいた。ロックはすそのが広いと思います。(63歳 男)
ヨーヨー・マ、すばらしかったです。もう一度みたいものです。

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