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7月例会

解説

「レ・ミゼラブル」映画の世界

 7月例会フランス映画『レ・ミゼラブル』は、オープニングから圧倒され、これからはじまる物語の展開にゾクゾクさせられる。海。座礁した船。凍るように高波が砕け散る。波に抗うように船を引く囚人たち。ダイナミックな映像『レ・ミゼラブル』のはじまりである。
 この物語は、1759年、ファブロールの枝切り職人ジャン・バルジャンが協会前の広場にあるモーベル・イサボンのパン屋の窓ガラスを割り、パンを盗み5年の懲役刑になる。脱獄をしてマドレーヌと名を変え市長になった歴史上の人物の話である。

歴史大河小説
 ヴィクトル・ユーゴーはこの話を歴史大河小説「レ・ミゼラブル」と名付けて1862年に発表した。
 「レ・ミゼラブル」は「悲惨な人々」とか「哀れな人々」を意味する言葉。
 主人公ジャン・バルジャンは仮釈放中の身で再び犯した罪を、ミニエル司教に救われ、それをきっかけに、罪を償う人生を全うしようとする。この人物を中心に、多くの登場人物が交錯する。厳格な法の番人である鬼警部ジャベール。娘愛しさのあまり売春婦に身を落として死んでいくファンテーヌ。卑劣極まりない小悪党のテナルディエ夫婦。死を賭して革命の理想を追求するアンジョルラス。孤児の身の上だが革命のバリケードをいきいきと飛びまわる悪戯なガブロージュ。善良で純真な恋人たち、マリウスとコゼット。あばずれの外見の下に純愛を包んで天に召されるエポニーヌ。など、類型的な人物像とできすぎと思える物語展開である。しかしそんなことより、有無を言わさぬ小説の面白さ、描写の迫力、歴史考証の緻密さ、悠揚としてしかも絶え間なく流れるストーリー、ここには、物語の力が満ちあふれている。ヴィクトル・ユーゴーのこの世から「悲惨な人々」をなくしたいという人道的な理想主義がこの小説のバックボーンとして貫かれている。
 ユーゴーが人間的思想のすべてをつぎ込んだこの小説「レ・ミゼラブル」は発表と同時に爆発的な売れ行きをしめした。

ミュージカル
 小説「レ・ミゼラブル」の豊かで深い世界を、ミュージカル「レ・ミゼラブル」として脚本家アラン・ブーブリルは成功させた。脚本にするのがどれほど困難な作業であったかは容易に想像がつく。波乱万丈の一大ドラマの精髄をコンパクトに凝視し、しかも物語の力点をジャン・バルジャンの個人メロドラマから、もっとスケールの大きな群集劇へと移し、ユーゴーのヒューマニズムをさらに普遍的なドラマへと仕上げている。作曲者のクロード=ミッセル・シェーンベルクは、オペラにおけるライトモチーフの手法を活用して、同じ旋律をさまざまな場面にちりばめることで、登場人物それぞれの個性とドラマの統一性という、相反する要素をたくみに調和させている。演出のジョン・ケアードとトレバー・ナンのダイナミックな演出も注目の的である。ロイヤル・シェイクスピア劇団の出身であり、今世紀最高の演出家のひとり。スターやヒーロー、ヒロインではなく、民衆こそが主人公なのだという視点を一貫させている。ミュージカル「レ・ミゼラブル」は世界に広く受け入れられ、世界43カ国で上演され、今なおロングランを続けている。

そして映画へ
 映画『レ・ミゼラブル』は世界中を魅了してきたこの傑作ミュージカルの映画化である。監督のトム・フーパーは鮮やかな手際でスクリーンに映しスケールアップして見せる。まずは、オープニングから全開の、ズームを駆使したダイナミックな映像。バルジャン(ヒュー・ジャックマン)、が「独白」の歌とともに仮釈放証を破り捨てるくだりもそのひとつ。紙切れが宙を舞い、浄化されるように光に吸い込まれていく場面は鮮やかである。またバルジャンを追い詰めたジャベール(ラッセル・クロウ)が決意を歌う「星よ」。パリの街並みを睥睍する彼の歌は、上空に広がり最後は夜空を突き抜け天に上がっていく。そうした魅力的なシーンを挙げればきりがないが、学生たちが革命に向けて蜂起する場面と映画ラストの、共に「民衆の歌」が響く二つのシーンの壮大なスケール感には特に圧倒される。
 映画版ならではの描写がドラマを深めてもいる。仮釈放後のバルジャンの彷徨は、舞台と異なって歌はない代わり、寒々しい山越えを映しだすことで、彼の凍える心も映し出す。工場をクビになったファンテーヌ(アン・ハサウェイ)が堕ちていくさまも、原作に立ち戻って、髪から歯までを売るくだりが一気に綴られる。やはり原作に基づき、マリウス(エディ・レッドメイン)が貴属の実家とは絶縁している背景にも、映画は触れる。
ミュージカル・ナンバーも洗い直された。舞台版とはナンバーの順番や入るシーンが少し変わった。最も大きなポイントは、新曲「サンドリー」が加わったことである。オリジナルの作曲・作詞コンビが映画に書き下ろした、幼いコゼットを見守り、心の奥から湧きあがってきた愛しさをうたうこの歌は、その後のバルジャンの生き方を支えるモチベーションを明瞭に提示して効果的である。
 一方で、舞台版になじんだファンにとっては、生身の人間が目の前で歌い演技する重厚な舞台の奥深さと比べて物足りなさを感じるかもしれない。また気にかかる変更もある。革命を目指す学生たちが集う「ABCカフェ」のシークエンスが短くなっているし、エポニーヌ(サマンサ・バークス)のキャラクターが小さくなったことがそうである。エピニーヌは大半の舞台ファンのお気に入りのキャラなので少し不満かもしれない。
代わりにガヴロージュ(ダニエル・ハコルストーン)が大活躍するが、映画での彼の登場は、原作に基づいた躍動的なシーンになっている。革命で命を散らし道端に横たえられた彼の死体にジャベールが自分の勲章を外してそっと置くシーンには、涙を誘われる。他に落涙必死と言えば、ファンテーヌの「夢やぶれて」。演じるアンの情熱あふれる歌に胸震えるが、実際に髪を切って挑んだ壮絶な演技がまた感動的である。
ヒューの歌と演技の絶妙な表現力も、ラッセルの味わい深い歌唱も印象的である。ベストキャストが揃う俳優陣の中には、ロンドンとブロードウェイの舞台版バルジャンのオリジナル・キャストだったコルム・ウィルキンソンや、やはり両方のオリジナル・エポーニーヌのフランシス・ラファエルなども演じる。舞台からのファンには、宝探しのような嬉しいキャスティングでもある。
 充実のキャスト、鮮烈なカメラワーク、緻密な脚本を得て、トム・フーパー監督がスクリーンに再生した『レ・ミゼラブル』は愛を語り明日への希望を高らかに歌う。愛と希望によって築かれるべき未来を象徴するかのように、「民衆の歌」が輝き渡る圧巻のラストシーンは、強く胸を打つ。未来への希望を重ねる壮大な感動ドラマである。
 神戸朝日ホールの大画面と迫力の音響で映画『レ・ミゼラブル』を堪能してください。
(飯川)

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