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5月例会

解説

少年の更生を見守り続ける物語

 この映画の邦題は「太陽のめざめ」だが、フランス語の原題は「LA TETE HAUTE」。ラテット・オート。訳せば、「前を向いて」または「胸を張って」という意味になるだろうか。このフランス語の原題の方がこの作品が描こうとするテーマをよく表している。
 この映画の中心はフランス映画界を代表する女優のカトリーヌ・ドヌーヴとフランス映画界期待の新星、ロッド・パラドの二人だ。時には厳しく、時には温かく、ロッド・パラド演じる心に傷を抱えた一人の少年マロニーを見守り、彼を一人の人間として更生させようとするドヌーヴ演じる少年裁判所判事フローランスと、更生しようともがく少年の物語だ。非常にセリフの多い映画でまるで一冊の本を読んでいる気になってくる。
 アルゼンチン生まれの脚本家マルシア・ロマーノと共に監督も脚本作りに参加し、フローランス判事、少年マロニーをはじめ、出演者たちのキャラクターを正確に描きこんでいる。少年マロニーを演じたロッド・パラドは木工関係の職業訓練校時代にこの映画のオーディションを受けた。映画の後半には、そんな場面も出てくる。
 一方のドヌーヴは少年裁判所の判事を演じるにあたり、実際の裁判所に何度も足を運び、現場の人たちの思いを自分の役に引き寄せる努力をしたらしい。
 彼女を見ていると、年を重ねることも楽しいことだと思わせてくれる。今も愛される名作『シェルブールの雨傘』から半世紀にわたり、第一線で活躍し、淑女から悪女までどんな難しい役も魅惑的に演じてきた。神戸映サでは1985年の例会作品『終電車』以来、二度目の例会作品登場となる。大スターとなってからも、多くの若手監督の映画に参加。その映画への深い思いに敬意を表して、2008年にはカンヌ国際映画祭からカンヌ記念特別賞が贈られた。マロニー役のロッド・パラドの他、教育係のヤンには『ピアニスト』のブノワ・マジメル。マロニーの母親役には『ゲンズブールと女たち』のサラ・フォレスティエ。マロニーの恋人テス役にはディアーヌ・ルーセルなど若手女優が顔をそろえた。

ストーリー
 家庭裁判所で子どもを救う少年担当判事フローランス(カトリーヌ・ドヌーヴ)はある日、若い母親フェランドに置き去りにされた6才の少年マロニーを保護する。それから10年後、マロニー(ロッド・パラド)は非行を繰り返し、裁判所に呼び出され、フローランス判事と再会する。マロニーは反抗的な態度を見せる一方で、母親の責任を問われると必死に母親をかばう。実父を四才で亡くし、継父に見捨てられた少年にとって自分勝手な母親でも大切な家族だった。フローランス判事は温情をみせるが、マロニーはすぐに車強奪事件を起こして審問が開かれる。検事は少年院送りを主張するが判事のフローランスは自由に過ごせる更生施設に少年マロニーをおくる。そして新しい教育係には、かつてフローランス判事の下で更生したヤン(ブノワ・マジメル)が付く。
 山のふもとの更生施設で多くの指導員たちの根気強い教育やはげましにより、少しずつ変わっていくマロニー。しかし、中学への再入学の面接官の否定的な言葉にキレてしまう。やけになり行ったクラブでマロニーは指導員クロディーヌの娘テス(ディアーヌ・ルーセル)と出会い、不器用な恋に落ちていく。
マロニーと母親、そしてテス
 この映画では少年マロニーの年齢が6才から一気に10年後に移り、いわゆる思春期を彼がどのように過ごしたのかは描かれてはいない。誰もがそれまで依存していた大人たちから、初めて自分の力で自立という道を歩み始める入り口に立つ。何かモヤモヤしたもの、孤独感、不安な世界の中で、新たに依存する場所、人を探し始める。しかし、彼にはそんな場所も友達も探せず、実母や継父を含めた家族に反抗しながらも、いつも母親の居場所に帰り着く。ただ母親に甘えたい、愛されたいという一心から。母親もまた、二人の子どもを持ちながら、子どもを育てるという仕事を放棄し、自立という道を歩めず、一方でマロニーに依存することで心の安らぎを得ている。そんな中、マロニーが唯一、心を許せたのは同年代のテスだった。
少年たちをとりまく人々
 少年マロニーと10年ぶりに再会した判事はマロニーに自分の犯したことの重大さを認識させる。ある家裁調査官の言葉によれば、非行に走った子どもたちには、面接時の最初に”You are not ok”だと思いっきり言ってやる必要があるという。「非行者としての自分」を認めさせることが、子どもたちを再生させるための第一歩だというのだ。
 映画の中で指導員がマロニーに手紙を書かせることも、今までの人生を文字にすることにより、自分がなぜ今、ここにいるのかを再確認させている。ペンの持ち方も映画の前後ではずいぶんと違っている。それはマロニーが更生への一歩を歩み始めた証ともいえる場面だ。更生施設での指導員は少年たちを一人の人間として扱う。非行少年という言葉の持つイメージが作り出した社会で生きてきた彼らにとって、自分を一人の人間と扱い、認めてくれる。どんな諍いもまずはお互いの意見を聞くところから始める指導員。自分の話を聞いてくれる存在が身近にいるということが彼らの心を開いていくのだと思うのだ。
 この映画で私が好きなシーンは何人も寄せつけなかったマロニーが嬉しそうに笑うシーン。映画を見ている人には当たり前の経験かもしれないが、マロニーが16才と17才の誕生日にケーキを前にみんなから祝福され、笑顔がこぼれるシーンには、彼がどんな寂しい人生を送ってきたのかが良く表れている。
大人と子どもの関係は今
 「子どもは大人が守り育てる」というこれまで自明の理と言われたことさえも、今は揺らいでいる。もの言わぬ大人、貧富や経済格差の拡大、貧困の連鎖、セーフティネットから落ちこぼれる子どもたち。それはとりも直さず、今を生きる大人社会を反映している。様々な理由から非行や犯罪に走る子どもを捉えたセンセーショナルなメディア報道もあり、その結果が一部では少年犯罪の厳罰化という流れを作り出している。「犯罪を犯した子どもの親、教育関係者はテレビの前に引きずりだし、市中引き回しのうえ打ち首にすべきだ」という極端な発言をする議員もいる。この映画の中のフランスの対応とのあまりの違いに驚かざるをえない。勿論、日本でも非行を犯した少年を更生させるため、多くの人々が日々、現場で頑張っているという現実もある。しかし、社会の中で子どもを育てていこうという従前の考え方が社会から減りつつあるのも事実だと思う。
 私たちはこの『太陽のめざめ』という映画を通じて何を想うのか。想いは人それぞれ違うかもしれない。しかし、私たちの周りにも沢山の理解されることのないまま、世間の誰からも顧みられない多くの少年マロニーが今も存在していることもまた事実だと言わざるを得ない。そして「人間の過ちは人間が真剣にかかわることでしか治せないという思い」がこの映画と共に強く残る。
(水)
参考文献
「「非行」は語る。」(藤川洋子 新潮選書)/「思春期の危機をどうみるか」(尾木直樹 岩波新書)
映画『太陽のめざめ』パンフレット

ひとくち感想

◎大変よかった ○よかった ◇普通 ◆あまりよくなかった □その他

強烈!自分を、自分の存在を要するものに自己が目覚める!(82歳)
一人のまよえる子供が生きる目的をキセキ的に見つけるという感動の映画でした。自分の子供達は、暗やみからぬけ出せるのか、辛抱強く見とどけるしか、しようがないのかな。(76歳 男)
大変よかったです。あまり期待していなかったのですが…。人間、大人も子供は尚さら、どうしようもないものがあるんだと思います。口先できれいなことを言ってもそれを見抜く、感性があの子にはあるんですね。教育が大事ですね。(75歳 女)
個人主義の国は、逆に、人と人とのつながりが深いと感じた。正直言って、ここまでのハネッ返りを包みこむ社会というものが、フランスにはあるのか!??(もちろん日本にはないと思うが)。(72歳 男)
ぎこちなく赤ちゃんを抱く彼の顔が輝いていました。人を信じる、愛することがすばらしいですね。きっとたちなおれると信じる大人たちのすばらしさ~。(70歳 女)
どんな母親でも子どもにとっては母親なのだなぁ。10年という更生の月日は長い。判事もよく辛抱したものだ。又、現場のスタッフの苦労は大変なものだ。カトリーヌ・ドヌーブがさすがの貫録でした。親になることにより愛に目覚める。愛する人を持った時、愛に目覚める。その年月の長さ。フランス映画はいいですね。犯罪の陰に貧困あり。人間の持つ善の部分を引き出す、自信をつけさせるというのは素晴らしい。そして、それによって基本的に相手を信じてと、いうことがある。(70代 男 女)
人の心の変化は他者によって「えいきょう」を受ける。そして忍耐強いつき合い、信頼する心、等を考えさせてくれる映画でした。(69歳 女)
途中で苦しい気分。なかなかわからんことばかりかも。子どもなのに子どもが出来てからが、変わってくることが、やっぱりと思えたが、気分はなかなかむずかしいですわ。(69歳 女)
一人の人間の更生に忍耐強く対応する社会システムを感じることができた。(67歳 男)
若い母親から気まぐれな愛やおざなりの世話しか受けられず、問題行動を起こしていく少年。彼の処遇を判断したり、更生へと導く大人達にも、高圧的な態度や、「あなたのために頑張っている」という感じがあったり、その時の本人の意欲とずれた作業をさせたり、施設の他の少年達のちょっかいに反応して暴れても主人公のマイナスに取る事があったりで、彼が気の毒に思えた。まず母親の生活や精神面を素敵にできたら、子供も幸せになると思うし、もし施設に入っても、穏やかに暮らせて本人が好きな事に取り組めたら、希望が持てると思う。女友達ができ、慰められたりもするが、少年をほんとうに救ったのは、二人の間にできた赤ちゃんだった。少年を全面的に頼りにし、抱かれてほほえむ坊やは、「あなたはとっても大事な人なんです」と、イエス様のように彼に生きる力を与えた。(62歳 女)
人を育てるのも人をいやすのも人。正面切ってぶつかり合うことが、人を動かすということかな。テンポがあり、妙に暗いばかりでなく前向きにという原題の意図が伝わってきました。(62歳 女)
久方ぶりの満足満足の映画でした。フランスのこの制度がリアルならば、すばらしい。力作、名作です。(60歳 男)
最初はとても気の毒な少年だったが、人の父親になったら変わっていくものだな、と思った。(55歳 男)
映画に出てきた判事のように、子供たちの心と辛抱強く向きあえる人になりたいけど、本当にむずかしい。勇気づけられる映画だった。(54歳 女)
主人公のマロニーと同様、私も感情をコントロールするのが下手で、すぐにどなり散らしたりするので、他人事とは思えなかった。自分に子どもができたと分かった時の戸惑いも一緒だった。(でも私も子どもが生まれて、本当に幸せになれたのでした)自分と重なる部分が多い映画だったので、未だに涙が止まりません。(54歳 女)
暴力にまみれ殺伐としたマロニーの行動もよく見れば、母や弟への「愛」が感じられるだけに辛い。判事や教育係のあえて甘やかさない態度には頭が下がる。(28歳 男)
一言で云うと「良い作品でした」、現実的で、冷静で、甘辛も丁度良く、脚本、出演者などプロデュースが良かった。日本の作品にあるような中途半端さがなかった。Very Goodでした。

始まった時は、どこの国の話と驚きましたが、人を信じる事、愛情、勇気に感動。人間の素晴らしさ。この年齢でも音響は大き過ぎました。(85歳 女)
大いに考えさせられました。子育て、孫育てを終え、自分も育てられた過程で考える事が多かったです。(75歳 女)
最後までしんどい映画でした!疲れたというか? 主人公の余りにも生活環境が悪いとああもなるのか? と思う。(72歳 女)
カトリーヌ・ドヌーブに会いたくてやってきた(若いころのファンだった)。いい演技をしてましたね。マロニーの心にひそむ怒り(?)のエネルギーに圧倒された。矯正施設などのかかわる人たちの大変さにうたれたが、マロニーは母の愛をとり戻したかったのですね。父親になったことで、これまでのまわりの人々の労苦もむくわれたのかと思った。(70歳 女)
ハッピーエンドでホッとしました。やはり人は信じ愛する人があればこそ前へ進めるものなのでしょう。(68歳 男)
感想をどう書けばいいのか? 映画を観たあとも不安が残る。ひさしぶりのフランス映画。(68歳 女)
人は、だれかに認めてもらえて、見つづけてもらって、育つのだと思う。人に愛され、愛し、守るべき人ができると生きる事ができる。すごい深い映画だと思った。判事の存在感が大きかった。マロニーが自分の足でずっと歩いていけますように。(68歳 女)
日本の懲罰主義に対して、フランスは基本的に違う更生主義。人権に対する考え方の違いを感じますネ。(67歳 男)
なかなかしんどい映画だったが、最後は、自分の赤ちゃんを抱いて、判事に出会いにいき、一人の人間として、希望をもって生きていけるひかりが見えたのが、救いだった。しかし、こどもにとって、親を選ぶことができず、親の愛をしっかりもらえるかどうか、とても重要なことを感じた。(65歳 女)
人間としてあんまり接していない少年が主人公。理解しがたいくらい、めちゃくちゃでしたね。ママに会いたいときの顔と無茶するときが一緒の一人の人間なんですね。よくぞ、あたたかく見守って更生できた。がまんづよかった。甘えたすぎて、びっくり。(63歳 女)
マロニーの母親をどうにか出来ないのか、と思ってしまう。何度も何度も失敗するマロニーだが、母親からの自立ということが気になった。判事やヤンの粘り強い愛情が強調されて、不幸な子どもたちを立ち直らせて、彼の人生を歩ませるには、これほど大変なことなのだという強い意志を映画から感じる。昨今、社会の「安全安心」のために子どもであっても厳罰に処するべきだという人が多い日本を憂いてしまう。(61歳 男)
制度の違いで、訳は難しいと思うが、更生施設以外に刑務所とあったが、少年用の収監施設のようでしたね。支援が充実している印象を受けました。根は優しい子なのにと思いながら観てました。(57歳 女)
大人たちの忍耐強さに感心。私には絶対マネできません。(55歳 女)
エンドロールの音楽が途中で変わったことが、とても残念。余韻ぶちこわし。(53歳 男)
フランス映画らしい結末。ラストに向かって、彼の顔がおちついてくのが、うれしかった。(女)

ジュテームが良かった。(54歳 女)

■機関誌への投稿原稿
私は40数年前、大学を卒業して最初の職場に児童養護施設をえらびました。映画に出てくるような矯正施設ではありませんが、非行や問題行動をもつこども達は、たくさん入所してきました。12年間働き、300以上のこどもたちと出合いました。その中には、今もつき合い、さまざまな援助をしているこども(今となっては40代のおじさんです)もいます。
家族をもつこと、こどもを育てることのむずかしさ、親のいない彼らが生きていくことのむずかしさをつくづくと感じています。判事の勇気や強さに、人のもつ本当のやさしさを感じました。少年が一人の人間として大人になることのむずかしさ、これからの道のりのさらにながいことを、思わずにはいられません。
赤ん坊をだきかかえる彼の姿は、前途の多難を越えていくことを予感させるには充分でした。終わって、しばらく立ち上がることができませんでした。ありがとうございました。

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