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2017年4月例会『歌声にのった少年』

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解説

歌声が世界の壁を越えていく

 アラブでは知らない人がいないスーパースター、ムハンマド・アッサーフ。優勝を目指し中東のアマチュア歌手が競い合う人気テレビ番組「アラブ・アイドル」で、2013年見事優勝したガザ地区出身の歌手です。この番組では投票制で優勝が決まる為、暮らす場所や宗教、政党が異なるたくさんのパレスチナ人が「ムハンマド・アッサーフを支援しよう!」と呼びかけるキャンペーンを行ったそうです。彼がそんなに多くの人々を動かしている理由は彼の歌唱力のみならず、パレスチナの人々の心に響く、純粋な祖国への想いを綴った歌詞でした。
  「愛するパレスチナ…アラブの人々よ、祖国の何と尊いことか
  クーフィーヤを掲げよう、高く空中に振りかざそう
  最初の号砲が旅路の物語を告げる
  時がくれば、僕らは全てをひっくり返すだろう
  祖国よ、あなたのために僕らは立ち上がる
  闘いの日、僕らは勝利への道を照らし出すだろう」
  (※意訳・抜粋)
 「クーフィーヤ」とは、頭にかぶったり首に巻いたりする布のこと。故アラファト氏が頭に被っていたことから、白黒模様のクーフィーヤはパレスチナの象徴とされています。パレスチナの人々の長い闘いを讃えて、希望を朗々と歌い上げる彼の歌声に、聴衆は大歓声。勝手にステージに上がって踊り出し警備員に退場させられる(!)おじさんもいた程の盛り上がりを見せました。
 情勢や政党、主義主張が異なり、時に温度差もある西岸とガザ。その間を音楽と詩で繋いでみせた彼に国内外から注目が集まり、スーパースターとなった現在も歌手を続けながら国連パレスチナ難民救済事業機関青年大使を務めるなど平和への活動を続けています。
 彼をモデルに製作されたのが、本作『歌声にのった少年』です。この物語に感銘を受けたイスラエル出身で『パラダイス・ナウ』『オマールの壁』のハニ・アブ・アサド監督が映画化。ムハンマドと姉ヌールを始めとする子どもたちを生き生きと演じるのは、オーディションで選ばれたガザに暮らす少年少女たちです。アサド監督は、カメラに映る部分にも映らない部分にも、常に信憑性を求めることが、この映画の重要なポイントだと考えました。だからこそ本作では、スタッフが安全に行き来することが困難であるにもかかわらず、ガザでロケを行った初めての国際映画となりました。

(物語)
 紛争の耐えないパレスチナ・ガザ地区で暮らすムハンマド少年。彼の夢は「スター歌手になって世界を変える」こと。仲良しの姉ヌールと二人の友だちとバンドを組み、拾ったガラクタで楽器を作り、街中で歌っていた。だが、ムハンマドの声が「最高」だと信じるヌールは「カイロのオペラハウスに出る」というとんでもない目標を立てる。
 賞金稼ぎと練習を兼ねて結婚パーティで歌い、聴く者に言葉を失わせる美しい声で人々を魅了していくムハンマド。だが計画は予想もしない形で終わりを告げる。ヌールが重い病に倒れ、両親が治療費を用意できないまま亡くなってしまったのだ。姉との約束を守るため、ムハンマドはガザの壁を越えて、オーディション番組「アラブ・アイドル」に出場することを決意する―。

 ムハンマド・アッサーフの半生を映画化することで、抑圧下のガザ地区で人生を送るパレスチナ人への応援歌となっており、実際のガザ地区で現地ロケを行った前半は子どもたちの夢と活力に溢れています。本作は、歌が上手な少年が有名歌手になったという単なる成功物語ではなくて、紛争地に暮らす少年が絶望的な状況でも希望を見失わずに、明るくたくましく生きる姿を描いています。
 海辺を走り回る子どもたち、色鮮やかな市場を闊歩する人々、テレビを囲む普通の家族団欒の日々が描かれており、ガザ地区の住民の生活が生き生きと映し出されています。
 この映画の前半、主人公の子ども時代は、秘密トンネルを通ってエジプト側から「ワクドナルド」を配達するバイトがあったりしたのですが、後半、彼が20歳を過ぎた頃にはビザも容易にはとれないようになっていて、情勢の厳しい変化がうかがえます。そのため余計に、ガザ地区からの出入りを制限され、満足な医療も受けられない、夢なんて見ても仕方ないと諦める姿がつらくて、なんとかならないのかと怒りと焦りを感じるのは私だけではないでしょう。
 ガザ地区の荒廃しながらも活気ある様相や、大人が子供から魚や小銭を盗むなどの世知辛い状況も仮借無く映し出されていて、それだからこそクライマックスに人情を発揮する幼馴染の宗教家、国境警備員、闇屋たちの心意気に胸を打たれます。

 悲しいのは、映画みたいなセンセーショナルな事が起こっても、パレスチナ情勢が何も変らない事です。巨大な「分離壁」に囲まれ、「天井のない監獄」と呼ばれるガザ地区で、瓦礫の山の中で死と隣合わせに生きなければならないパレスチナの人たちの、残酷で過酷な運命には胸が締め付けられます。ガザ地区では2014年もイスラエル軍とハマスによる戦闘で、2200人以上が犠牲となり現在もイスラエル軍による空爆が繰り返されています。物語の背景に映るガザの無残に広がる瓦礫の山の風景に衝撃を受けました。

 ハニ・アブ・アサド監督は次のように言っています。
 「ムハンマドの物語には二つの段階があります。希望と不屈の物語、そして成功の物語です。パレスチナではこの60年間、敗北の物語しかありません。勝利の物語もなければ、サッカーで勝てるチームもなく、1960年代の革命も失敗に終わりました。しかし今、我々パレスチナ人が待ちに待った、成功の物語を手にしたのです。興味深いのは、ムハンマド・アッサーフの物語は、勝利の物語ということなのです」。
 パレスチナが困難な状況にあるなか、民族の想いを歌いあげる彼が希望の象徴になったのは想像にかたくありません。それだけにパレスチナ民族の想い、期待を一身に背負い潰れそうになりながらも、ガザ地区住民の顔を思い浮かべ美しい故郷の海を想ってプレッシャーに打ち勝ち、遂に夢を叶えるシーンは、歌声があらゆるものを越えていく感動に包まれます。
 実際のムハンマド・アッサーフの歌声は美しく彼の歌を聴いていると、歌詞の内容はわからないけれど心がうきうきしてきます。実に楽しそうに歌う彼の姿をみているだけで、彼が大スターなのだと納得してしまいます。ラストは実際の歌番組の場面と本人の歌声で余韻を残しています。ぜひ彼の歌声もお楽しみ下さい。
(陽)

【参考文献】
日本国際ボランティアセンターHP
『歌声にのった少年』パンフレット

ひとくち感想

◎大変よかった ○よかった ◇普通 ◆あまりよくなかった □その他

とても感動しました。ありがとう。(友人と二人)(75歳 女)
紛争のことはよく理解出来てませんが、映画と唄の素晴らしさを堪能しました。(75歳 女)
すばらしい映画でしたね。2012年当時のガザ地区の状況が映し出されており、爆撃の音は聞こえなくても、アッサーフの歌声にガザ地区の歓喜する人々が苦しみに負けず、勇気を持って立ち上がっていることがよく示されていた。(75歳 男)
すばらしい歌に感激。ガザのいのりを感じました。人々の彼の歌を聞いた時の熱狂にガザのくるしみを思い心が痛みます。彼のCDは手に入るのかしら。(72歳 女)
久しぶりにお国柄が出ている映画を見た。そして、心から共感できる人々にも。厳しい現実を生きる人々。それに引きかえて…とつい我が身を含めて周りの国や人々のことも。(72歳 男)
現実は何も変わってはいない。しかし、この映画の青年のよう歌声が地上にある。平安を!!(71歳 男)
明るくて、楽しくて、だけど最後は泣けてくる。とてもいい映画でした。パレスチナの人達に早く平和をと願うばかりです。朝日ホールの音響も抜群によかった。(70歳 男)
今も変わらない状況の中で生きている人々に歌声で「希望」がつたわったと感動した。(69歳 女)
きなくさい法案が通りそうで、まわりがどんどん戦争色になりつつある今、ただ平和と自由を! と叫びたい。どんな人も、生きる権利がある。(68歳 女)
生き方や考え方のちがいを超えて、全てのパレスチナの人々(プラス、アラブの人々)が応援しているのがすごい! 厳しい現実を共有する人々の情熱が、彼を優勝へと押し上げた。(67歳 男)
どんな環境にあっても子どもたちはたくましく夢をみる。そしてそれをかなえたムハマンドはパレスチナ・ガザ地区の人々の希望である。もっと多くの人々の夢が(ささやかな夢も!)かないますように!(66歳 女)
久しぶりに泣けて涙が止まりませんでした。あらためて映画の力を感じました。歌は国境を超えています。(64歳 男)
素晴らしい映画をありがとうございます。感動しました。(64歳 女)
夢を持ちつづけることで叶えたムハンマド・アッサーフ。知らなかった。音楽はすべての人の心をうごかすのだと思いました。平和な世の中がくるように願わずにはおれませんでした。いろいろな世界のことがわかる映画サークルの例会は本当に貴重です。(63歳 女)
いっぱい泣きました。パレスチナの平和を願わずにいられません。(63歳 女)
いろいろ問題は山積みの日本ではあっても、とりあえず自分の国はある。この違いは何て大きいんだろう。涙が止まらなくなってしまった。(62歳 女)
黄褐色の浜辺と紺碧の海、群生するヤシの樹。本来美しい土地なのだ。故郷を追われ、限られた地域に閉じ込められ、多くの人が密集して暮らすガザ地区。そこここを破壊された街でも、自分たちで稼ぎ、危ない大人たちと渡り合い、優しい大人の熱心な指導を受け、音楽への夢を抱いて生き生きと過ごす子供たち。自爆攻撃に向かわせられる子供や若者の悲惨の傍らに、「希望も」あったのだ。今の日本では、生活が成り立たず、生きがいもない親が、子供を虐待、殺害する事件が多発し、公園で楽しく遊ぶ母子の姿もめっきり減った。学校では人権や平和の大切さを教える事が禁じられ、子供同士仲良くすることも難しくなっている。何割くらいの子供が、ほんとうの笑顔で暮らしているのだろう。長い間放浪し迫害されたユダヤ人も気の毒だが、パレスチナ人の身にもなり、共に生活し、信頼を得つつ、ユダヤの文化的なものも少しずつ増やしていってもらう方が良かったのかもしれない。無理な建国は真の平安をもたらしていないと思う。(62歳 女)
パレスチナの実話に感動しました。中東での戦争、今だにおさまらず、街は壊され、人々も殺されている地域。そんな中、歌で、パレスチナや中東の人々を元気づけている。本当に早く平和が訪れてほしいと切に願う気持ちがより強くなった。(60代 女)
歌の魅力とムハンマドの勇気、やさしさにあふれた家族にひきつけられた。(54歳 女)
歌声の持つ力、凄いですね。涙が止まりませんでした。私もコーラスグループで歌っています。頑張ります!(54歳 女)
暴力ではなく、歌で世界を変えることができたかも知れない事実に心動かされました。映画の中の曲にもっと日本語訳がついていると、製作者の意図が受けとれたと思います。(51歳 女)
お姉さんが亡くなったシーンはとても衝撃的だった。それであの少年は「何が何でも」と言わんばかりに発奮して頂点に立てたのはスカッとした。彼の収入で、彼の彼女の腎臓病が治っていくんだな、と。(55歳 男)
この実話、知りませんでした。生きる力や勇気がこの地球上ですごいエネルギーになったでしょうね。(49歳 女)
次回の機関誌に字幕の歌詞日本語訳の文を載せてください。(匿名)
厳しいガザで、青年の奮闘に感激です。(男)
ムハンマドの歌声が素晴らしかった。今でもしいたげられているパレスチナの人々に思いをはせました。(匿名)

映画の終わりの歌声は、本人?との事、優しく、心安らぐ歌。それにしても一青年の歌に全国民的に喜んでいる様子に、逆にガザの人々がいかに追いつめられて生きているか感じて、イスラエル側のごうまんさ、人間の冷こくさが悲しくなる。(76歳 女)
パレスチナ・ガザ地区の生活が少しかいまみられました。最後の歌の歌詞がすてきでしたね。実際の本人の歌っている映像が出てくれば、もっとよかったと思いました。へいに囲まれる生活は、あってはならないですね。(68歳 女)
2回目ですが、やはり少しもの足りなさを感じました。難民の問題を描いているの?と思うからです。主人公の毎日の暮らしぶりはわかりますが、ふつうに見えてしまうからです。(65歳 女)
歌声は壁を乗り越えたけれども、現実のパレスチナの人々の生活を知ると、彼らの思いは壁の中に閉じ込められたままだと思う。(64歳 男)
2012年のガザの街角の惨状を見ると、イスラエルからの爆撃が人々にひどいものであるのがわかるが、映画の中では戦鬪シーンを描かない。そして歌が、彼らの心を支えているとムハンマドの活躍を力強く描いた。だからパレスチナだけではなく、世界中の困難な状況にある人達を応援している。決勝戦でムハンマドが歌った歌を聞いて、福島を連想した。故郷にとどまる人、故郷をはなれる人をみんな頑張れ、みんな手をつなごう、そんな風に思った。(61歳 男)
すばらしい歌声、元気をもらえるいい映画でした。パレスチナの現状を垣間見ることもできました。(53歳 女)
観れて良かったです。歌の部分も訳があればうれしかった。でも和歌山から来た甲斐がありました。(41歳 女)
私はクリスチャンだ。あんまり信心深くないけど。だから彼女らの敵。でも彼のめんどうを見てくれる女の人もクリスチャンだった。髪もスカーフをしていない人もいたし。いろいろだということがわかった。アラブ音楽も最初は「?」という感じだったが、コブシが入ったり、演歌に似た耳なじみのあるものと思えた。彼も政治的な話はしていない。こんな人が大多数なのか? もう少し勉強してみたいと思った。(女)
少年少女たちが街を駈けまわる。この世界に持て余す生命力をみせつける如く。少女は宣言する「好きなことが自由にできないなら、一生女の子には成らない」と。彼らの宣言と実行から始まったこのドリーム・カム・トゥルー・ストーリーは、世界を変えることができるのは、決して戦いではなく、希望とか歌とかで、その素晴らしさこそが、あらゆる高い壁でさえ超えることができる跳躍力を持っていることを。でもラストのクレジットの彼の身分、パスポートを持ってもの状況を知るとやはり、まだ世界には戦争があることを知らしめている。4月15日(土)近隣、同盟国がコゲくさい日本で、今日の作品。上映リクエスト、東陽一監督作品『誰かの木琴』です。(匿名)
『オマールの壁』のカントクさんが、この様な作品を作ったことにおどろいた。希望を見たい人々に贈ったのか。日本からは遠い国だが、同じ人間だと映画が教えてくれる。(女)

理念がうすい。感動が少ない。(62歳 女)

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