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2016年9月例会『イロイロ ぬくもりの記憶』

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解説

人生にはあなたを救ってくれる出会いがある

 シンガポールという国にどんなイメージがありますか? 私はあまりなじみがなく、観光の国という印象しかありませんでした。9月例会作品『イロイロ ぬくもりの記憶』は一気にシンガポールを私にとって身近な国にしてくれました。
 アンソニー・チェン監督の幼少時代を題材に、小さな家族を描きながら、家族の問題・少年の成長・資本主義社会への疑問・移民や階級の問題といった、文化や国境を越えた普遍的な価値観を散りばめ、世界中の映画祭で絶賛された作品です。
 タイトルのイロイロとはフィリピンの地名で、テレサの故郷であるとともに実際にチェン監督が子供のころに住み込みで働いていたフィリピン人メイドの出身地でもあります。
 ジャールーが「たまごっち」に夢中だったり、学校でむち打ちの体罰を受けたりと、舞台となっている1990年代のシンガポールの情景、風俗がふんだんに登場しますが、チェン監督によると、この時代の空気を出すのが非常に大変だったそうです。
 「シンガポールは急速に開発が進んでいて、90年代のものはどんどん姿を消している。自分が子供のころに住んでいたのと同じような間取りのアパートを探し出すのに二カ月もかかったし、映画に出てくるたまごっちはビンテージのコレクションから手に入れた。服も探すのに一苦労したが、90年代のことはよく覚えているので、できるだけ忠実に描きたかったんです」

〈物語〉
 1997年のシンガポール。共働きで多忙な両親をもつ一人っ子のジャールーは、わがままな振る舞いが多く、小学校でも問題ばかり起こして周囲の人々を困らせていた。手を焼いた母親の決断で、フィリピン人メイドのテレサが住み込みで家にやって来る。突然の部外者に、なかなか心を開かないジャールーだったが、仕送り先にいる息子への想いを抑えつつ必死で働くテレサに、いつしか自分の抱える孤独と同じものを感じて心を開いていく。だが、そんな折、父親がアジア通貨危機による不況で会社をリストラされてしまう。また、メイドに打ち解けた息子に安心していたはずの母親の心にも、嫉妬に似た感情が芽生えはじめる…。

 『イロイロ』が面白いのは、「叙情的」と「客観的」という二つの描写の境界が常に意識され作られているところです。特徴的なのは、少年や家族・テレサによる心の繋がりというテーマがある一方で、テレサのある個人的な他者としての描写が常におかれているという点。あの時彼女は何を思い、過去にどんなことがあったのか? 常に気遣いができるやさしい彼女ですが、決して触れることのできないある一人の外国人として存在していることもまた確か。テレサによる客観的な視点が、この物語を感傷的なものにせず、90年代という時代を生きた家族の姿をしっかりと描き出しています。説明しすぎずほんのり懐かしさもあり、監督の優しい視線を感じます。

 公共住宅、共働きの夫婦、住み込み外国人メイド、中華・マレー・インドなどの異人種共存、複数の言語を随時使い分け、独自に進化した(シングリッシュ)を話すといったシンガポールの象徴的日常に加え、鞭打ちのシーンまで描かれます。(1993年に車を破損させたアメリカ人学生に鞭打ちの刑が下った件は国際問題に発展した)
 『イロイロ』は自国を離れ、客観的な目線でこそ書けた題材と言えます。時間をかけて丁寧に仕上げた脚本は自伝ではなくとも、90年代の空気が伝わってきます。シンガポールでは半数近くの家庭が外国人メイドを雇用しています。映画でも見られるようにメイドはパスポートを雇用主に預け、妊娠をした場合は国外退去という管理下にあります。
 この作品の中国語タイトルは「父も母も不在」。かつては金銭的ニーズから共働きをする夫婦に代わりメイドが子どもを育てましたが、結果シンガポール女性の社会参画は日本より格段に進み、男女の平等意識も高くなっています。国民の八割はリム一家のような公共住宅に住んでいますが、今では富裕層向けの瀟洒なものなど多様化が進んでいるようです。住まいによってはメイドが一部屋与えられることもあれば、子どもとの相部屋も珍しくありません。
 1997年は、香港が中国に返還された年(中国側から言うと、香港が中国に回帰した年)として記憶されていますが、その直後に起こったアジア経済危機、正確に言うとアジア通貨危機の年として、東南アジア諸国には忘れられない年でした。タイを震源地とした通貨下落は、タイ、韓国、インドネシアの経済に大きな打撃を与え、さらにマレーシア、シンガポール、フィリピンなどにも影響を与えました。そういった厳しい経済状況の中、母親の職場では解雇される人が続出、一方で強化ガラス会社の営業マンだった父はクビになり、再就職もままなりません。母も父も神経をすり減らし、追いつめられた気分で毎日を過ごしており、とても息子のことにまで思いを巡らせることができない状況なのです。映画には当初、登場人物たちの不機嫌さが充満し、特に父と母には笑顔のシーンがまったくありません。そこへテレサという異物が混入されることで、少しずつ登場人物たちの気持ちに変化が起きてくるのが、この作品の見どころとなっています。とは言っても、テレサが天使のような存在として描かれるのではなく、彼女自身も「はい、奥様」と作り笑いを浮かべながら裏では勝手に女主人の化粧品を使ったり、こっそりアルバイトをしたりと、二面性を持つ普通の人間として描写されています。それでもテレサは、「こういうのって、おかしい」というフェアなモラル感覚を持っており、それが登場人物たちを徐々に変えていくのです。一番の変化を見せるのがジャールーで、最初、こんなどうしようもない子が主人公なの?と思わせられたその顔が、だんだん可愛く見えてくるから不思議です。
 10ヶ月かけて2000人の候補者の中から選ばれたというコー・ジャールー君はまさに適役。テレサ役のフィリピン女優アンジェリ・バヤニもベテラン女優だけあって、安定したテレサ像を作り上げています。さらに素晴らしいのが母親役のヤオ・ヤンヤンで、不機嫌な妊婦を好演。それもそのはず、実は彼女は実際に妊娠している時にこの映画に出演、ラストの出産シーンはリアルな彼女の出産を撮ったものだそうです。
 シンガポールが舞台となっていますが、世界中の家族に通じる普遍的な物語『イロイロ ぬくもりの記憶』。「人生には、あなたを救ってくれる出会いがある」というキャッチコピーそのままに、私たちの心にじんわり余韻を残す作品です。
(陽)
【参考】パンフレット

ひとくち感想

◎大変よかった  ◯良かった  ◇普通  ◆あまり良くなかった  ☐その他

愛は、お金では買えない。でも彼は償いを買ってはいけない宝くじでしたいと決意する。善意で愛は手に入らない。(80歳 男)
身につまされる。夫婦の関係、子供との関係、最後は互いにわかり合えるのだろうか?(75歳 男)
以前、劇場で観て映画サークルで2回目を見ました。2回目を見るって面白いですね。感情移入をする人物が今回、お母さんになってしまいました。そして、テリーという女性の抱えている重い過去や現在の困難も感じることが、できました。(74歳 女)
旅行パンフレットの中ぐらいしか知らない国だったが、この映画と機関誌で、かなりの理解が進んだ。日本と異なり、むしろ米国などとの共通性が多いように感じた。(72歳 男)
いかんともしがたい経済。心が無心のこどもに対して現実はあまりにもむごい。でもこれが現実で。(70歳 男)
なかなかに出来の良い作品でした。このアンソニー・チェン監督は若い方なのに腕がいいと思った。ドラマの構成メンバー、少年、父、母、メイドさんなどのそれぞれの立場の人達の表現が秀逸の一語につきる。評点90/100点こんな高得点の作品はめったにない(たとえば2、3年に1本位)といえる。(70代 男)
シンガポールの社会情勢の中での家庭の様子が、いいテンポでうまく描かれていました。皆適役で好演。自分の反抗期の幼かった頃をなつかしく思い出しながら見ていました。(69歳 男)
それぞれ、とても役にぴったりで、上手い。最後に男の子がメイドさんの髪を切ったのをにぎりしめたのが、涙…でした。(68歳 女)
ほとんど壊れかけていた家族が、メイドによって、子供が立ち直ることをきっかけにリカバリーしていくのは、ここち良い。あのお母さんがだまされたサギ師は一点だけ正しい。「可能性は私の中にある」。(67歳 男)
以前、アジアの通貨危機が家庭に及ぼす韓国の童話(小説)を読んだことがあります。この映画もテリーやジャールー、両親の生活実態が切なさの中にも明るく、希望に向かって描かれました。世界情勢の変化に対応するすべが生きるあり方が…。教えてもらいました。(67歳 女)
「行かないで」と言えなくて、思わず切り取った髪の毛をじっと見るジャールー。可愛かった。でも、さまざまな大人の事情を少しずつ理解して大人になっていくのですね。生活に追われ、お金にふりまわされる生活からちょっと立ち止まって、最後に家族を見つめなおすことができて、みんなが愛しく思えた。(65歳 女)
家族って何なのだろう。働くことにおわれて、子供の世話ができないなんて、やっぱりおかしい。失業するわ、株に失敗するわ、マインドコントロールで詐欺にあうわと、本当に次から次へと、今の時代がおしよせてくる。主人公のメイドと子供の心のかよわせるのはよかった。やっぱり、心が通じるものですね。(62歳 女)
いい映画でした。最後に命の誕生があり、そのために妊娠中という設定だったのか…と。このタイミングでこの映画をみたこと、個人的には少々複雑でした。命の始まりと命の終わりは誰にも選べないということが。(61歳 女)
必死に働いて、マンションや車、ちょっと素敵な家財を揃え、きつい言葉や溜息ばかりになってしまった共働きの家庭。質素にして、仕事と家庭生活のバランスが取れると良いのですが、父親もクビになったりして、大変そう。私が子供の頃は、家の用事(洗張り、布団の仕立て、内職なども)をしながら、母はいつも傍にいてくれ、働きに出た時も、私が学校から帰るまでには戻って迎えてくれました。たいした暮らしではなかったけれど、心豊かな生活だったのですね。生活費や子供の学費のために共働きが必要な人もいるし、転勤や出稼ぎで家族が離れ離れになったり、同居でも、長時間労働で家族と顔もろくに合わせられない人もいます。戦争も愛し合う人々を引き裂き、永遠に会えぬ悲しみを与えたりします。家計を支えるためや家族の介護、低収入などのため、よく、結婚したくてもできない人もたくさんいます。「家族が朗らかに暮らせ、又、一人暮らしの人にも楽しく集える場があるといい」と思います。映画の少年は、卵型のゲーム機に替えて、生きているヒヨコをもらいました。次には、両親の愛情もしっかり受け取れそうな予感がします。母親は、あげた服がメイドさんに似合っているのを見て、「ちょっと惜しかったかな」と思ったりします。人に良いものを分け与えるのは難しいことかもしれませんが、お金も、時間も、幸せも、最低必要な分はどの人にも当たるよう、皆で分け与えたいものです。子供の愛し方を教えてくれたメイドさんに母親が贈ったピカピカの口紅は、幼児と分かれて働くメイドさんの心にも、パッと赤い灯を点したことでしょう。(61歳 女)
自分自身も生まれた時から小学校に上がるまでは、お手伝いさんと一緒だっただけに近い感じがした。最後のほうで、あの空港で別れるシーンを見て、お手伝いさんがいつの間にかいなくなったときのことを思い出した。でも、あの男の子はお兄ちゃんになるので「さあ、これからだ」という感じがした。(55歳 男)
主役の子がとても上手かったです。初恋かな?(54歳 女)
本当にイロイロです。生きるのはイロイロです。(49歳 女)
良い意味で中華圏らしさを感じる映画だった(特に家族や親戚との関係、学校、職場での人間関係など)。最初はテリーの立場で観ていたが知らず知らず母親役に感情移入していた。日本版の題名は中国語の「爸媽不在家」を入れ込んだほうが良かったと思う。日本語の「色々」を思い起こしてしまうので・・・。(39歳 女)
現代社会のストレスフルな家族が丁寧に描かれていて、とても痛ましい。あえて、状況を好転させず、全ての希望を新しく生まれる命に託すエンドが潔くて好感が持てた。(27歳 男)
以前、観てから時間がたっているので、新鮮な気持ちで見ることが出来ました。男の子がだんだんかわいくなっていくところが良かった。美容師やし車も運転できるし聡明なテリー、フィリピンに良い仕事はなかったのか。全校生徒の前でムチうちの教育は、ひどすぎると思った。(女)
テリーの髪の毛を切ったところで、私も泣いてしまった。
テリーのアルバイト、バレたのかな? バレなかったのか、それともバレてて(某旅行会社のHさんにそっくりのパパさんがピンチだからかえって助かった?)だから、ジャールーをたたいたのかなぁ?(女)

久しぶりに映画サークルに参りました。題名どおり「イロイロ」こんな世界がある。今の世界の断面を観る人に問題を提起し、そして観る人に解答を求める。ユニークな映画でした。映画サークルでなければ見られない作品でした。(75歳 男)
色々と起こってくる問題に各々が苦しんでいるが、最後の子供のやさしい顔と赤子が希望を感じさせるいい映画でした。(74歳 女)
昔の左幸子さんの『女中ッ子』(お手伝いさんとそこの息子の話でしたが、あまり仲良くなりすぎて、その子が女中っ子とはやしたてられた話)を思い出しました。映画は思春期にかかった男の子の微妙な部分が描かれていたように思う。世のお母さんは男の子の微妙な心理を理解しなければ男の子がわからない?(71歳 女)
わかっていても、別れはせつないですね。メイド役と少年の心の動きが、心にのこりました。好演ですね。(70歳 女)
絶妙の距離感をもって誠意尽くして人と接すること――人間関係づくりの妙を教えて頂きました。(68歳 男)
3ヶ月ぶりの映サ、楽しくみることができました。シンガポールの映画を初めてみましたが、国によって教育や家庭状況等々、異なることがわかった感がします。メイドと子どもの交流(最初はどうなることか…と思いましたが)がヒトとヒトのつながりは、大切なことが伝わってきました。わかれる時に彼女の髪を切ってもっている子ども→どこにどんなふうに保管したのでしょうね?(65歳 女)
○10歳の男の子のおかれた状況や学校事情は世界共通だなぁ、と思いました。大人の方も大変で、そのために男の子も、ほっておかれる、思いやってもらえないあたりが、わかりやすく描かれていて、よかったです。(64歳 女)
子供が小さかった頃のことを思い出しながら見ました。やんちゃで、まっすぐな男の子が、両親やメイドの女性と育っていく様子が、ほほえましかったし、親の苦労はどこの国も同じだと思った。(53歳 女)
機関誌に書いてあった、子どもがかわいくみえてくるということが身をもって分かりました。皆、一生懸命で、見て良かったです。(32歳 女)
シンガポールの様子がとてもよく伝わってくる映画でした。しかも、父母、ジャールー、そしてテレサの気持ちがうまく表現されています。それぞれのもっている不安や不満がぶつかり合いながらも、何とかくらしていける国、今の日本によく似た雰囲気です。例会学習会で話を聞いた「豊かだけれど不幸な国」のシンガポール、「貧しいけれど幸せな国」フィリピンがそのままの感じです。
人生はイロイロあって、幸福になりそうにして逃がして。でも何かを求めてあがいて…、うまくいきそうで、だめで…のくり返し。それを生きていくのが人生なのですね。イロイロと勉強になりました。別れのとき口紅を前に二人がほほえむ空港と、貧しさの中で赤ん坊が生まれてくるシーンが救いでした。(63歳 女)

子育てはむつかしいものと思いますが、自分のことを理解してくれている人にいつか出合えば子供は横道にそれない、と思っております。人との出合い、大人になっても大切なことだ…と思っています。(女)

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