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2015年11月例会『おやすみなさいを言いたくて』

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解説

この星のどこかで

 人がどの場所で生を受けるかは、その人の知るところではありません。この地球上、平和な場所で、有り余る食べ物と自由を謳歌している人がいるかと思えば、今も爆弾が落とされ、弾丸が行き交う町で、食料や安心して眠る場所がない人々が大勢暮らしています。
 同じ人間なのに、彼らの現状は、反対側にいる者は直接知る由もなく、想像するのも困難です。それを知らせてくれるのが戦場に赴く報道カメラマンです。
一枚の写真は時として社会にセンセーショナルに問題提起を与え、一国の立ち位置まで変えてしまう。 
最近では、シリア難民の男の子の小さな体が映った写真が起こした出来事が思い出されます。
 『おやすみなさいを言いたくて』は、時には生命の危険を冒しながら、使命感とプロ意識を持って活動する女性戦場カメラマンとその家族の物語です。
 
戦場のレベッカ、海辺の家のレベッカ
 アフガニスタンのカブール、静寂の中、女たちはある儀式を行っている。彼女たちの傍らには、一人の女性がカメラを構え、一瞬たりとも見逃さないという気迫でシャッターを押し続けている。
 やがて、彼女たちを乗せた車は、たくさんの人が行き交うバザールに到着した。
 九死に一生を得たレベッカは、アイルランドのホームタウンに戻ってきた。海洋学者である夫マーカスの仕事の関係もあるだろうが、まるで彼女の緊張した魂を癒すために用意されたような家は、美しいアイリシュ海を望む場所にある。
 しかし、待っていたのは、夫の厳しい言葉だった。「もう無理だ」仕事を続けるか、妻として母として家庭にとどまり暮らすかの選択を迫るのだった。
 レベッカは、報道カメラマンとして世界の紛争地に赴き、キャリアを築いてきた。有力なメディアも彼女を評価し、国内では「アイルランドの宝」とも評される。
 思春期をむかえて美しくしっかり者の長女とまだ幼く妖精のように可愛い次女、理解して送り出してくれる優しい夫。厳しい仕事をやり遂げる精神力を支えてきたのは、家族の存在だっただけにレベッカは大きなショックを受ける。
 娘たちが難しい年頃になり、常にそばにいてくれる母親を必要としていると告げる。特に長女のステフは聡明だからこそ、不満を口に出さず心を閉ざしている。社会情勢にも関心を持つようになったステフは卒業の課題である「アフリカ」に行きたいと願う。レベッカは、比較的安全なケニアの難民キャンプに共に行き、レポートしてみないかと提案する。それは、ギクシャクしていた母と娘の絆を確かめ合う旅のはずだった。
 
戦場カメラマンである女性
 エーリク・ポッペ監督は自身もロイター等のジャーナリストとして世界各国に趣いて取材をした経験を持つ。ここ六、七年再び、世界の紛争地へ行くことが多くなったという。
 彼は「この映画は、私と家族の物語だ」と語る。二十代だった八十年代とは異なり、現場に行って取材したいという強い思いがあったとしても、妻や娘たちにすまないという気持ちがつきまとう。夜、電話やスカイプで故郷にいる家族におやすみなさいを言うとき、自分はどうしてこんなところにいるのだろうと自問自答するという。
 映画のテーマがより鮮明になるように主人公を女性にしたと語る。
 女性の社会進出が当たり前のヨーロッパにおいても、妻であり母である女性の長い不在は、家族に大きな空間と不安をもたらす。危険地帯にいるのではなおのこと。特に子どもたちの負担は大きい。
 それでも、監督は女性には、報道活動を続けてほしいと言う。
「特にイスラム諸国において、我々男性は男性としか会えないし、取材できないのです。しかし、女性ジャーナリストならば庶民の中に入っていける。人々の暮らしを伝える事ができるのです」
 現在、彼の言葉通り、世界中で優秀な女性カメラマンが活躍している。その何人かは幼い子どもを持つ母親でもある。 
 レベッカは、仕事中毒のようにみえる。清潔で平和で心安らげる場所にいたとしても、危険を犯してまで、砂埃がたつ戦場へ行きたいと願ってしまう。帰ってきたらきたで、平穏な世界で生きる人々の「無知・無関心」に傷つき怒りさえ覚える。レベッカは、現実を知らせる使命感を強く持ちながら、紛争地にいる自分の方が「生きている」という実感を持っている。
 どうしてこの仕事をしているのと子どもに聞かれた時、彼女は一言「アンガー(怒り)」だと言う。
 社会の不条理に憤りを感じ、少しでも良い方向にいくように活動すること、声を上げること、人々に知ってもらいたいと強く願う。
 その言葉は、海洋学者の夫マーカスの活動にも共通している。二人は男女として惹かれあっただけではなく、社会的意識を共有しパートナーとして共に生きていくことを決めたのだと想像できる。
 そして、娘を同行したアフリカへの旅から帰ってから、ますます家族との距離を広げてしまったレベッカに新たな仕事のオファーがやってくる。

千回のおやすみなさいと言ったとしても
 世界の紛争地で「聖戦」という名のもとに残酷な自爆による攻撃は今なお続いている。それは、敵に直接痛手を与える作戦だけではない。世界中に自分たちの存在を知らしめるために無差別テロとして行われる。そのために、犠牲になるのは罪もない市民だ。
 テロという卑劣で残酷な行為は、平和を愛するイスラム教の教義に反するものである。
 しかし、国の情勢、他国からの抑圧や攻撃に、武器を手にするようになり組織化した者たちは、宗教を都合よく解釈して人々を先導する。悲劇の連鎖が始まり、より弱いものが犠牲となっている。
 若者の心の葛藤を描いた『パラダイス・ナウ』(市民映画劇場上映)では、実行者は青年だった。最近では、厳しい警備の目をくぐりやすい女性や子どもが殉教者として任務を執行するケースが多くなってきた。昨年には、少女が自爆テロを行ったと報道があった。

 本作の原題は「A Thousand times good Night(千回のおやすみなさい)」
 いまも、世界のどこかで一日の終わりに、母親が幼い子どもに「おやすみなさい」とささやいている。
 もう二度と会えない、今日の夜おやすみなさいと言えない場所に愛するか弱き人が行こうとしている。娘を持つ母として自分を重ねるレベッカはプロのジャーナリストとして何かを伝えられるのか。
 女性カメラマンの苦悩を産んだ現実を、遠いイスラムの国のことだと受け止めてよいのだろうか。  
 かつて、私たちの国では未来ある青年たちの命を引換にした作戦を行った。
 時代は、世界は繋がっている。
 砂が舞う地で生を受けた子どもたちを案じることの延長線上に、私たちは自分が出来ることを考える。一枚の写真から始まる問題意識、思考の広がりと深まり。
 それこそが、命をもいとわず紛争地を駆け抜けて、今を伝えようとするジャーナリストの心の底からの願いなのだろう。
(宮)

ひとくち感想

◎大変よかった  ◯良かった  ◇普通  ◆あまり良くなかった  ☐その他

感動と涙があふれ続けました。(79歳 男)
高齢になってあまり映画も見られませんが、例会は出席しています。最近一番感動しました。有難うございます。(78歳 女)
主人公の夫が何故(戦場へ取材)に行くのかと質問した。事前の学習会で志葉玲さんの話と映画を見るまでは私も同じだった。この人達は世の中にいかっている。平和と人権を守るために命がけで生きているととてもよく解った。(74歳 女)
又知らない事を教えてもらった。いかりが原点だと言っていたが、こだわり続け実現するパワーはすごいとしか言えない。(74歳 男)
パリで同時多発テロが起こっていただけに映画とは思えない。若いイスラムの女性を自爆テロの犠牲にすることを告発しているステフがレベッカを理解することでホッとした。ケニアのことも改めて映画とは思えないすごい実写みたいだ。(74歳 男)
2時間の中によくぞこれだけのことを! 共感と反感と無力感がないまぜ! 海辺の風景が印象的だった。(71歳 男)
あの家庭は再スタートを切れましたが、アフリカや中近東の各地などの戦闘地域はいつまで続くのだろう。殺し殺される世界の絶望的な連鎖は終わらないのだろう。自爆のためのチョッキを着せられる少女の姿を見ると、未来は絶望的とさえ思ってしまう。空しいですね。(71歳 男)
大きな衝撃を受けました。現に自爆テロが広がっている中で観たということで! 生命をかけたカメラマンのおかげで真実が知れる、しかしその家族のとまどいその家族との葛藤。深い課題で自分の生き方も問われる思いです。(71歳 女)
一言で言って、各自のとくに主人公のハートの面がよく描かれていた。秀作と見受けました。(70代 男)
死に方が悲しい。今の私の課題に取り組ませていただこうと思う。(68歳 男)
「今」をコンパクトにうまく描いた素晴しい映画でした。終わらせ方も実にいい。しかし問題の本当の解決には戦場をなくすしかない、というのも気が重いです。戦場カメラマンに頭が下がります。(68歳 男)
二度目の鑑賞ですが、「答」は見出せない。「家族とは?」「母親とは?」私も一度しかない自分の人生で仕事をやり通していて、レベッカの姿に「身につまされる思いが」しています。ずっと身体が「ふたつ」あればと思い続けて今日まで「かっとう」して生きてきました。でも努力しつづけるしかない。一度きりの人生だから。(68歳 女)
浮世でのかかわり方、家族とのかかわり方を考えさせられました。真実の報道、携わる方々に感謝!(67歳 男)
今年みた中で一番感動した映画です。生きることは、母親と重なれないなんて…。つらいけど、皆にみてほしい映画でした。(67歳 女)
現在進行形の内容なのでズッシリと心に感じました。人は誰でも行動せずにいられない事がありますね。感動しました。ただ前半部分で、前方中央にいた方がスマートフォンで撮影してたみたいで、失望しました。(67歳 女)
素晴しい映画、素晴らしいお母さん、素敵な家族でした。しかし、命があまりに軽い、軽すぎる。(66歳 男)
見逃していた映画でよかった。自爆テロにむかう女性の撮影から始まり、とても疑問に思った。そのままでは発表出来ない写真だし、これからの行為がわかっていて、容認できるのかと。車を降りてしばらくして爆弾と叫ぶ。そう言わずにいられないだろうが、被写体となった人との関係はと思わずにいられない。日々過酷な状況の中で伝えてくれる人がいるからこそ今の世界の様子がわかるのだと改めて知らされた。怒りを持ち続けて行動するのはむずかしいが、黙っているだけではダメなのだろう。(66歳 女)
最後のアフガニスタンに向かう主人公の姿はまるで自爆に向かうそれに見えました。しかし、同じカメラマンが自爆の準備をする場に再び行く、という設定は現実にはあり得ないのではないか、と思いますが。世界の現状を少しでも多くの人に知ってもらう、ということではこの映画は意義があると思いますが、なぜ自爆が絶えないのかということについてはこの映画はあまり何も表現してないように思いました。(63歳 女)
世界にも個人にも葛藤がある。しかし、気を取り直して前に進むしかない。奇しくも今見るに値する映画。(62歳 男)
映像だから伝えられる真実がある。ステフがわかってくれた「誰かがしないといけないこと、それを女がやっている」すばらしい映画でした。ありがとう。(62歳 男)
なんで危険なところにと思うけれど、テロで暴力で世の中はかわらないとつくづく思う。パリの事件もあんな人たちがと思うとやりきれない。ショッキングだ! 人はみな生きなければ。(61歳 女)
期待以上の映画で深い感銘を覚える。世界の不条理に対する怒りと、未来への希望を持ち続けよと教えてくれる。私はテロを肯定するものではないが、パリの死者がシリアの空爆被害者より大きく扱われる日本の新聞には怒りを覚える。(60歳 男)
感動しました…こんなにも厳しい映画に何よりも感動する自分がいいのかどうかわからない。(60歳 男)
あーっ、大変な映画で…大変いい映画でした。猫は九回死ぬ?「今度見つけたら家から出さないでおこう」「自由にしてあげないとだめ」という親子の会話に一つのメッセージもあり、色々な見方ができました。でも母子はいつかわかり合え夫婦になるとわかり合えなくなる…という見方も出来る…。(60歳 女)
ノルウェー、スウェーデン、アイルランドの合作ということで、どのようなストーリーか楽しみでしたが、鋭く問題を提示する良い終わり方エンディングに感嘆しました。ありがとうございました。(60歳 男)
報道写真がこんな大変な危険を背負いながら撮られていることを初めて知りました。社会の現実に目を見すえて、私も微力ながら何が出来るのかを考えていかなければいけないと感じました。(55歳 女)
過剰と思えるまでの自然描写と控えめながら素晴しい音楽、俳優の演技もよかったですね。地味?なストーリーなのに最後まで映画の空間に引き込まれっぱなしでした。(53歳 男)
考えさせること多いけど、写し方、内容すべておもしろかった。映画としてとても魅力的だった。(48歳 女)
「戦場写真家が職業として存在すること」の矛盾と業を「妻にして母」という主人公の設定とクロスさせることで見事にあぶりだしている。多感な娘ステファニーが母のカメラを連写(=連射)し、その後で「誰かがやらねばならなかった、その誰かが母だった」と言う流れは見る者にとってはますます沈痛なものでもある。世界の平和と家族の平和という危ういバランスを見事に描写した作品だ。(26歳 男)
始まりのシーンで少女の姿が映っていた。その時次は自分だと思いながら送ったのだろうか。2時間の中で娘たちとの交流のあとでのラストシーン、せつなさが心をつきさす。どうすることもできないのだろうか。今世界でおこっていることに対して無常感でいっぱいだ。
後藤ケンジさんの悲報を思い出した。戦場カメラマンが母親である点が、強烈な印象である。母を理解しようとする娘と、もう耐えられないという主人公の心境がとても興味深い。(男)

戦争、紛争はどちらの側にしても家族・友人を失い、心が荒廃するもので、人間が存在する限りなくならないもの。悲しいですね。その現状を訴える人たちも苦しいけれど、必要なことなのですね。(67歳 女)
2回目ですが、なかなか骨太な映画だとあらためて思いました。家族のこと、イスラムのこと、何度も見直したいよい映画です。ビノシュもよかったけどティーの女の子役もよかったです。(63歳 女)
パリで多発テロがあり、又この数年日本人報道カメラマンの現地での死亡も多いこの今に、とても意義のある上映だったと思います。民族間の争いは、本当にどうしようもないのでしょうか。夏に『セバスチャン・サルガド 地球へのラブレター』で戦う人間が人間を救うのは不可能なのかと問いかけていたのが心に残っています。けがをして帰宅し、夫や子供と過ごしながら苦しみレベッカはすっかり母の心をとり戻していたのでしょうか。怒りから写真を撮ると言っていた彼女が、ラストで我が子のような戦士を見て「やめて」と泣きながらついて行くこともできず、すわりこんでしまった―彼女の怒りの先の苦しみ悲しみを見た気がします。(62歳 女)
いい映画でした。感想としては複雑です。女だからと子育てが当たり前とされるのはおかしいと思い、働きながら子育てをする道を選びましたが種々の苦労を家族にかけ、今なおその尾を引いた生活です。自分自身もです。だからといって夫が担えばいいのかといえばそうでもない。まあ大きな、ひとりでは解決できない、いろんな問題も絡んでいて簡単にはどうと言えない。でもステフがリポート発表で母のことを彼女なりに理解できる場面があり、ホッとし救われました。ちょうどフランスのテロの後で「戦争が戦争を呼び、平和が平和を呼ぶ」とどなたかの言葉を読みました。幼い人が犠牲にならなくてもよい世の中にならなければとつくづく思います。(61歳 女)
色々な面を持った映画でした。夫が妻の生涯をかけた仕事を理解しないとは。自我を確立しようと悩む娘が母を理解しようとする姿と対照的で、なんて「男気がない奴だ」と思ってしまいます。ケニア難民キャンプの写真が国連軍の治安を向上させたという結果を生みました。しかし、自爆テロは、その悲惨さを訴えてもその根本的原因すら告発しきれないのはちょっと残念です。(59歳 男)
「これが現実」といわんばかりの証拠にもなる写真を撮りつづけていた彼女も、流石に最後の女の子の爆死するシーンは撮りづらかったようだった。こんな酷いことありか!(54歳 男)

タイムリーな題材なのにカメラがいつもユラユラでつかれた。(41歳 男)

「世界が見るべき真実を伝えたい」というレベッカの怒りと焦りはよく伝わってきた。しかし、自爆ベルトの装着儀式はあまりにもひどいのではと違和感を感じた。被写体となるべき人たちの生活の中に深く入っての取材こそが、女性カメラマンとしての強みなのに、共感しえない対象である。

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