市民映画劇場9月例会(第557回)
 原題:Last Flag Flying
 監督:リチャード・リンクレイター
 出演:スティーヴ・カレル
 (2017年/アメリカ/125分)

取り返せない過去、そのせつなさ、でも、笑いもある

 『さらば冬のかもめ』(73)、原題は「Last Detail」をご存知ですか。アメリカンニューシネマの佳作で、監督はハル・アシュビー、主演はジャック・ニコルソン。わずかな金額を盗んだことから刑務所に入ることになった新兵さんを海軍刑務所に護送する役割になったのがジャック・ニコルソンと同僚。懲役8年となった若者に同情したニコルソンは刑務所への道中でいろいろと人生経験をさせることになるが…。という作品でしたね。
 この作品の原作者がダリル・ポニックサン。そう、今月の例会作品『30年後の同窓会』(原題は「Last Flag Flying」)の原作者です。本作では監督との共同脚本もしています。で、ある面では、『さらば冬のかもめ』を思い起こさせるものがあります。ですから、『さらば冬のかもめ』に思い出のある方にとっては必見ともいえる作品です。ダリル・ポニックサンは、他にも『シンデレラ・リバティ/かぎりなき愛』(73)の原作・脚本などもあり、米海兵隊での経験を活かした作品を発表しています。
 さて、『30年後の同窓会』ですが、監督はリチャード・リンクレイター。『6才のボクが、大人になるまで。』(14)など。家族の移り変わりを描いていますが、これを同じ俳優で12年間にわたって描くという、普通では考えられない作品で国際映画祭にて監督賞など数々の賞を受賞しています。
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 ベトナム戦争に従軍して同じ釜の飯を食った3人の仲間が、30年の歳月を経て再会を果たし、イラク戦争で死亡した親友の息子の遺体を連れ帰る旅にでます。といっても戦場での事件のわだかまりや音信不通であった3人の旅では、当然のことながらはじめはギクシャしたものがあります。でも、道中で語り合う中でお互いに次第に打ち解けていきます。
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 この作品は『さらば冬のかもめ』と同じようにロードムービーになっています。バージニア州のノーフォークでバーを経営しているサル(ブライアン・クランストン)のもとに30年ぶりに訪れたドク(スティーヴ・カレル)。そこから牧師をしているミューラー(ローレンス・フィシュバーン)へと、そして、3人はアーリントン墓地、ドーバー空軍基地へ、さらにドクの家まで車や汽車での旅となります。
 当然のことながら、こうした作品では3人での会話によるやりとりをとおして、30年間の空白が自然に展開される必要があります。監督は撮影前に出演者たちを集めてリハーサルして、出演者たちの関係もつながりが密になるようにしたといいます。脚本も何度も書き直しながら自然でリアルなものを追求したと語っています。30年前の出来事なので、普通だと回想場面を入れることが多いけれども流れを大切にする監督は他の作品と同じくあえて回想形式を用いていません。作為をできるだけ避けてリアルなものを作りたいという監督の思いがあるのでしょう。心の奥には死に直面した戦場での「闇」が存在します。でも、封印してあくまで今を生きるなかで描いています。そのため戦場でのそれぞれの姿があいまいになったこともあるかも知れません。でも、その空白部分を埋めるのは観客にまかせるということでしょう。
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 1年前に妻が亡くなり、2日前には一人息子がイラクで戦死して、息子の遺体を引き取りに行くのに同行して欲しいというドクが、旧友を訪ねたことが、3人の旅の契機となります。独身でアル中気味のサルは気軽な身上もあって、すぐに同行を決意します。サルの奔放で世の中のいろいろなきまりも気にかけない、建前や権威にはひとこと言いたくなるという性格は『さらば冬のかもめ』のジャック・ニコルソンを思わせるものがあります。おとなしくて静かに話をするドクには、護送される新兵さんが投影されています。新たに登場しているのが牧師のミューラーです。彼を入れることによって作品に一層広がりをもたせています。戦場ではまじめであった年下のドクと違ってサルと一緒に過酷な戦場での憂さをはらすかのように酒、女、ドラッグに溺れた日々を送っていた彼は、すっかり変わっています。牧師として生きる彼には30年前のベトナム戦争の体験は永遠にしまい込んでしまいたいものでしょう。だから、同行は願い下げしたいものでしたが、妻の勧めもあってしぶしぶ同行します。もう一人途中で亡くなったドクの息子の戦友のワシントン(J・クィントン・ジョンソン)も加わります。彼の存在はいまの兵士として生きるひとりの姿を伝えています。宿泊したホテルでのテレビ映像でイラクのフセイン大統領が捕縛されるニュース映像も使っています。過去の戦争だけでなく現在とのつながりもさりげなくあらわしています。
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 3人で交わされる会話や演技をじっくりと味わいながら見る作品です。この手の作品だとつい声高に描いてしまいがちですが、ここでは、音楽的にも映像的にも、強調することなく静かに丁寧に描いています。ラストではボブ・ディランの「Not Dark Yet」が流れますが。
 戦争によって起こった3人のやりきれない出来事、運命の手によって死を免れたワシントン。ひとりぼっちになってしまったドクの悲しみ、忘れてしまいたい記憶にもかかわらず、過去の戦場での体験によって、あらたな結びつきを見出していく。そして、笑い。
 遠慮会釈のないサルの下ネタ、牧師のミューラーに対する神の存在についての突っ込み、そして、携帯電話でのオヤジぶりなど。途中でサルのあまりにもちゃらんぽらんな態度に不信を抱いた店員からの通報でテロの疑いで逮捕されるなど、笑いとともに今の姿をとらえています。
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 いろんな出来事について、一つの割り切りをつけたい、つけてほしい。でも、現実では、なかなかそうはいきません。さまざまな選択肢のなかからその場で「出せない結論」を迫られます。それは、本心でなくても、そうでいい場合もあります。いままでとは矛盾したものになるかもわかりません。ゼロ%から百%まで、その振れ幅には広いものがあります。その揺れをそのまま表現していく。苦味、取り返しの出来ない過去、そのせつなさ、でも、笑いもある。そうした中で生きていくのが人生。そんな声が聞こえてくる作品です。
 3人の会話が多くて、字幕を読むのが大変ですが、じっくりと味わってほしいと思います。回想がないので、見たときはちょっとわかりにくいところもあるかもしれませんが、あとで、思い返してみるときっと後に残る作品だと思います。
(研)

参考資料:本作のHPほか