2016年7月例会『追憶と、踊りながら』

HP用07月

解説

あふれる想い、とまらない涙。
そして最後に癒しと希望の音色を響かせる

 映画『追憶と、踊りながら』を知っている人は少ないと思う。公開時はそれほど話題にならず、昨年KAVC(神戸アートビレッジセンター)でひっそり(?)と上映された。その後は、映画館で再映されることもなかった。
 私はこの映画に関心を持ったのは日本のタイトルの「追憶」、「踊り」という言葉に魅かれたからである。英語の原題は『LILTING』。それは「軽快な(リズムのある)、浮き浮きした」を意味している。映画の演出は原題のように音楽、踊り、映像処理に〃深いリズム〃を感じさせる。その語り口の妙に、これまで味わったことのない映画だと思う人も多いと思う。

夜来香(イェライシャン)から
 物語は始まる
 オープニング。ロンドンの介護ホームの一室に中国人なら誰でも知っている山口淑子(李香蘭)のチャイナ・メロディー「夜来香(イェライシャン)」が流れる…。
  イェライシャンは 恋の歌
  イェライシャン 心切なく
  あなたを想い あなたを歌う
  長き夜も優し 夜鶯が歌う
 ロンドンの介護ホームでひとり暮らすカンボジア系中国人のジュン(チェン・ペイペイ)。英語ができない彼女の唯一の楽しみは、優しく美しく成長した息子のカイ(アンドリュー・レオン)が面会にくる時間。しかしカイは、自分がゲイで恋人リチャード(ベン・ウィショー)を深く愛していることを母に告白できず悩んでいたのだ。そして訪れる、突然の悲しみ。孤独なジュンを心配したリチャードは、カイの〃友人〃を装ったまま、ジュンの面倒をみようとするが…。
 違う文化、違う世代を生き、言葉も通じないジュンとリチャード。愛する人を失った痛みを共に感じているのに、愛ゆえに大きな亀裂が生まれてしまう…。

監督ホン・カウ
 ホン・カウはカンボジア生まれで、ロンドンで活躍する英国期待の若手監督である。彼の家族はカンボジアのポルポト政権を逃れてベトナムで育った難民。当時英国にあった「難民アクション」というサポートシステムで英国に移住している。監督の母もジュン同様に英語があまりできない。本作は、自身の母への想いを重ね合わせた長編第一作である。
 母ジュンを演じるのは、アジア映画の伝説のヒロインと知られるベテラン女優チェン・ペイペイ。リチャード役は『007スペクター』『白鯨との闘い』などで知られる英国俳優ベン・ウィショー。カイ役は新人アンドリュー・レオンが演じている。
 『追憶と、踊りながら』はサンダンス映画祭でのオープニング作品に選ばれ、撮影監督ウラ・ポンティコスはリズムを包み込むカメラが評価され、同映画祭撮影賞を見事受賞した。

異なる文化を繋ぐ「通訳」
 ジュンはホームでアラン(ピーター・ボウルズ)という英国男性と知り合う。しかし、英語と中国語では通じ合えない。二人がもっと深く知り合えばと思いリチャードは、ヴァン(ナオミ・クリスティ)という中国系の若い女性通訳者を雇う。それはジュンを知りたいと願うリチャードの思いでもあった。
 ヴァンはただ通訳者だけの役割であるが、女性であること、自分にもジュンと同じくらいの母がいることもあって時には二人の間に深くかかわろうとする。
 「通訳」についてホン・カウ監督は次のように述べている。
 「子どもの頃から、よく母のために通訳をしていた。だから、通訳というコミュニケーションにも興味があった。コミュニケーションは互いが理解するためのものであり、異なる文化にかける橋でもあるけれど、一方で、違いをより強く感じさせるものでもあり、時に争いを導くものでもあると思う」と。ヴァンが持つ感情は監督の体験によるものだろう。
 演技の経験もなく応募オーディションで声の魅力により抜擢されたナオミであるが、彼女の素朴な印象がこの映画の魅力にもなっている。

一つのシーン、二つの時間
通訳なしの会話
 この映画の特徴である少し変わった映像表現について語ろう。
 ファースト・シーン。母ジュンと彼女のベッドに寝転んでいるカイ。彼は「明日のディナー」に誘う。しばらくして、介護ホームの女性職員がドアをノックして電球を取り換えに部屋に入ってくる。そこにはそれまで居たカイの姿はない。普通ならば母の回想は職員のノックの音に現実に戻るという演出をするが、そうせずに一つのシーンで二つの時間を演出する。それは、リチャードとヴァンのカフェでの会話のシーンも同じである。カメラは二人から横に移動し、リチャードを待つカイの姿をとらえる。しばらくしてリチャードがドアから入ってくる。現在と過去と二つの時間をワンカットで処理している。映画ならではの表現方法である。
 ホン・カウ、カメラマンなどのスタッフは演出を楽しんでいるようで面白い。

 通訳なしでのジュンとリチャードの会話シーンには少し違和感を持つ人もいるだろう。このことについてホン・カウは「…確かにヴァンは通訳しない。その理由は通訳を入れることで感情が途切れてしまうのが嫌だったから…(略)彼らの抱えている悲しみは共通言語であり、二人の思いは通訳を通さなくても伝わるのだと考えた」と話している。

ジュンの心象風景
 ジュンはカイに中国人イー・ミンが歌うCDを頼んでいた。しかし、彼は亡くなり手元に届いたのはリチャードからだった。それは私たちには馴染みのメキシコの曲。映画では日本字幕はないが原曲の歌詞はこうだ。
「好きになってくれる人は誰なの? 誰なの? 誰なの?
 愛してくれる人は誰なの? 
誰なの? 誰なの?」。

 夫を亡くし、そして、頼りにしていたカイも…。しばしば映る冬枯れの木々はジュンの心象風景であろうか。一人になったジュンは残りの人生、今日、明日のことを考える…。
 母と息子、そしてその恋人との関係を美しく切なく描いた『追憶と、踊りながら』。じっくり味わいながら見たい作品である。
(滋)
【参考】プレスシート

ひとくち感想

◎大変よかった  ◯良かった  ◇普通  ◆あまり良くなかった  ☐その他

この世に生きている人、すべてにその人の人生がある。人間が人間らしく、お互いを尊重し、大切に出来る日はくるのだろうか。と思うと、お互いを殺しあう戦争なんてしている場合ではないと…。(71歳 女)
ことばが通じても「言えないことば」があり、ことばが通じなくてもわかることもある。ことばは両刃の剣ということ。(72歳 男)
全く別世界の舞台だけど、普遍的なテーマを扱った秀作でした。コミュニケーションがテーマの映画ともとりました。ゆったりとしたテンポもよかった。(69歳 男)
親子関係って難しい。でも母親は言葉が通じなくても(最後の場面では通訳なしで)理解したのだと思う。息子が愛した彼を。彼らが互いを思いやり、愛のある生活を営んでいたことを、部屋の雰囲気や、特に料理から。頑固な母の微妙な変化がじわーっと後味を引きましたね。(65歳 女)
2回目の鑑賞になりました。人を愛するのに決まった形はないのだと。素直な気持ちで通すことが、自分もまわりも幸せにできるとあらためて感じました。(63歳 男)
子供を頼りに、異国の施設で暮らすようになった老母。部屋の壁紙の落ち着かぬ模様と同じで、入所男性との交際を後押しされるのも“あてがい扶持”。彼との会話に通訳も呼ばれるが(好意的に?)訳を省かれ、大事な判断材料が伝わらない事も。
息子と同性の友人の関係は、二人に会った瞬間に気付いていたと思う。小言も言って甘えられる息子を突然失い、(あまり好きじゃない)友人に息子の匂いを感じ、友人の方も彼女にパートナーの面影を見て、気配りをする。
今はまだ、懐かしい曲を聴きながら踊ることが、唯一の慰めと思いますが、人との温かな交流を増やし、ささやかでも何か創造的なことをされて、明るく生きていって欲しいです。
年齢に拘らず、心身が弱っている人は、住居も生活も思い通りにはならず、人の手に委ねられたりします。騙されたり、虐待されたり、命を奪われることすらあります。外国などに隠されているお金、戦争に遣われるお金が、すべての世代の幸せのために遣われ、皆が人を思いやれる世の中になると良いと思います。(61歳 女)
ジュンのセリフ「いつも幸福でなくても満足する」が心に残りました。身近な関係になると、どうしても欲が出る。そうして縛り合うことになり結局、幸福でなくなるのに…。二回目でしたが、前回素通りしてしまったことに気がつきました。全体的にはとてもきれいな感じに撮ってあるなと感じました。(61歳 女)
私の母は92歳、ひどい認知症で週の半分は施設で過しています。私が訪ねても自分の弟と勘違いします。そう言う私は、介護のすべてを兄夫婦にゆだねているのですが。母の中で、時はどのように廻っているのでしょう。哀しくてさみしい映画でしたが、心にしみるものがありました。ありがとうございました。(60歳 男)
他国で暮らすことは、その文化にとけこむこと。自分も自立しないと、子にも迷惑をかけることは、今の私には理解できる。(60歳 女)
あまりにも自己中心の母親で観てて苦しかったが、少しずつ変化がみられたのが救い。人間いくつになっても学べるのですね。(55歳 女)
カイは母親のところに来るのに車よりバスを利用していたのは、あの男に車を貸していたと思っていたが、あの男の訴えを聞いていて全然ちがったのがビックリした。母親としては、まさかあの子がゲイだなんて、思いもよらなかったに違いない。(55歳 男)
静かで温かくていい映画だと感じました。冒頭の夜来香の歌が流れるシーンから、日本語のタイトル『追憶と、踊りながら』の意味を考えました。(54歳 女)
ゲイの友人もいるし、かなり受け入れることができるようになったと思うんだけど、実際に自分の子供が男性を紹介してくれたりすると、自分はどう思うのか、まだ想像がつきません。ジュンさんには、イギリスの文化になじみたくないような、何か過去の想い出があるのかも。カイもリチャードもヴァンもみんな心温かい人たちで、ジュンさんは恵まれた人のように思える。同性愛が問題なのではなく、人柄が大切ということでしょうか。もう少し歳を重ねてから、もう一度この映画を見たいと思いました。(53歳 女)
母親のさびしさ、恋人のさびしさが伝わりました。とてもよかったです。いつもありがとうございます。(40歳 女)
これを上映して下さってありがとうございました。映画館でみれてハッピーです。(29歳 女)
重い主題をテンポよくみせてくれる、味わいある作品でした。(28歳 女)
亡くなった恋人の母親のことをなぜそこまで考えられるのか、考えさせられる映画でした。同じ愛する者を亡くした者同士の悲しみの共有は、セクシャルマイノリティもマジョリティも同じなのだと感じました。(26歳 女)
人は言葉だけでなく、いろんな事で理解しあう。私も一人息子を育て、今、その息子と向き合う時、そんなに長く一緒にいられないと思いつつ…切ないです。(匿名)
静かな画面、映像で美しい。私は、息子達にとって、存在感のある母親だろうかと思ってしまった。(匿名)
ワガママな母親、この人はカンボジアに帰った方がいい、と思っていました。リチャードはカイにぞっこんで、とてもかわいそうになってしまった。(まるで嫁と姑みたいで)(女)

最近、感想を書くのにカフェに行かないと書けないようになりました。機関誌をよんで映画の予習をしなかったので、きれいな風景の印象でした。カフェで同性愛問題があるとの意見に、あ、そうかと思いました。親子のテーマにふりまわされていた感がありました。(71歳 女)
ことばが字幕以外にもわかるといいなあと、今回ばかりはつくづく思いました。(70歳 女)
このような、心理劇の表現は難しい。(カメラワーク、出演者の演技はよかった)(70代 男)
母親と息子の関係。息子が同性愛者でなくてもこのテーマは描けるのではと思った。異国の国でなくても…。伏線が多くて筋がたどりにくかった。(69歳 女)
なにか知らないけれど、私には難解でした。(68歳 女)
私の息子がゲイだとしたら理解できるだろうか。理解できそうもない事でも目をみて、わかって欲しいとねがえば気持ちは通じるのだろうか。息子がいなくなった現実の中で、だから…受け入れられたのかも知れない。うーん…。(67歳 女)
母親のそれでもあしたは来るのよ、人生は続くのよ、と言うところは、この歳になってくると、よくわかります。孤独をよくわかった上で、一人でくらすことを母親は選んだようですね。二回目で少しわかりました。(64歳 女)
息子を亡くした母の孤独、愛人を亡くした悲しみ、のりこえていく苦しみ。最後の告白が前へ進む力になったのでしょうか。(64歳 女)
よくわからないというのは、なかなかいいですね。ジュンとアランが互いの嫌なところをいいあって離れていくエピソードは意味深長です。よりわかり合う為には、そこまで話し合って乗り越えるという関係に進んで行くのでしょうが、ベースに愛とか信頼がないとああなるのでしょうね、リチャードは、ジュンとアランをくっつけようと思っていたようですが、ちょっとちがいましたね。この映画、リチャードとジュンがどんな関係をつくるのか、先がまったくわからなかったけれども、「関係をつくらない関係」で終わって、やはりそうか、と納得しました。息子が愛した男を母親は愛せなかったけれども、リチャードは恋人の母親には幸せになってほしいと願う。そう思うとちょっと切ない映画でした。(60歳 男)
人との別れをいやすのは、ただ時間のみと感じます。異国の地で、一人息子との思いを胸に今後も生きていくジュン。ひとり孤独と向き合う準備はできている。アランはいらないよね。わかる。(53歳 女)
移民先の英国社会になじもうとしなかったジュン。カイはそんなかたぶつな母親が同性愛を認めないと思っていたのだろう。勇気を出して告白しようとした時にカイは死んでしまった。カイの死がなければジュンは息子の同性愛とリチャードを認めなかったと私は思う。俳優がイケメンだったので、ベッドシーンは好印象で観られた。(39歳 女)
逆説的だが、実に「普通」の映画だった。息子であり恋人だった人間を失った母と恋人の対立と和解を言葉の通じないもどかしさも交えて丁寧に描いていた。特殊な環境で普遍的なテーマ「愛」を際立たせる良い映画。時系列をあえて乱すコマ回しも実験的で良かった。(27歳 男)
ロンドンの街の空気感がよい。六カ国も話せる母がなぜ英語だけ使おうとしなかったのか。不本意にも連れてこられた異国、夫への不満を、息子との密な関係を持つことで、心をおさめていたのか。静かな映画だが、ラストに向かうところでスリリングになっていく。ウマイなァ。(匿名)

はぁー、消化不良です。同性愛については何も思わないのですが、異国での生活も、母親と息子の関係も、私にも息子がいますが、気持ちがわからんというか、ついていけなかった。(71歳 女)
すみません。よくわかりませんでした。(67歳 男)
言葉がわからないとコミュニケーションがとれない、もどかしさ。母の、親のきもちが「子供をもつとわかる」と中でいっていたが、ひとり息子とのこいい関係、ゲイ、もりだくさんのことが理解できなかったか。アランがかわいそうだ。(62歳 女)

難解であった。良くわからなかった。(75歳 男)
母親は息子のことを知っていたのだろう。ならばなぜ?と思ってしまう。助けるよりも正しいことにもどってほしいのか?(60歳)
難しくて理解ができない。身近に同性愛者がうようよしていたら、共感できるのかも知れないが、遠い星の出来事のようでした。(51歳 男)
ちょっと期待はずれ。焦点がしぼりきれていない。冷房がきつすぎて身体に悪い。夏の例会は来たくないと思ってしまう。28度位だったいいのに(女)

映画のつくり方、言葉がわからず…。きれいな女優さん、母親役、通訳者とも。ゲイはやっぱりきれいな俳優さんなので、違和感は少ないけどむずかしい映画。子どものことで、泣いた。母かな?(68歳 女)
アートビレッジで見逃した作品。見れてよかった! 又、中国人が嫌いになったけど、いい作品でした。(女)