3月特別企画『ぼけますから、よろしくお願いします』

観る者に、希望と勇気を与えてくれる

 広島県呉市で生まれ育った信友監督は、現在はドキュメンタリー制作に携わるテレビディレクターとして活躍している。信友監督は両親との思い出づくりのため、父と母の記録を撮りはじめる。しかし、母の変化に少しずつ気づきはじめ……。
 信友直子監督の母・文子さんは85歳だった2014年、アルツハイマー型認知症と診断された。それまで家事は全部文子さんに丸投げしていた父・良則さんは、自宅で妻を介護すると決断、93歳にして料理や洗濯を始めた。
 認知症になっても明るく冗談を飛ばしたりする母・文子さんの姿があった。さりげなく、「ぼけますから、よろしくお願いします」と家族には言える文子さんの明るさ。そして介護する父が明るくてユーモアたっぷりだし、両親のかけあいが家族の絆を感じさせる。
 ちぐはぐな聞き違いや大きな声で歌う姿など、チャーミングな父・良則さんの姿が魅力的。老々介護する父の変化が見ていて感動的だった。
 誰にでも訪れる老い。自分の手足で、自分の力で、身の回りのことが出来なくなることほど辛いことはないかもしれない。だけど、誰かに頼り頼られ、助け合い支え合うことができているのだとしたら、それを辛いことだと捉えたくない。
 「人生いいことばかりではない」全くもってその通り。ただ、そのいいことばかりではない辛い現実を乗り越えるために、皆支え合って生きているのではなかろうか。
 喜劇についてのチャップリンの言葉を信条にしているという信友監督。辛いはずの現実なのに観客である私たちに希望と勇気を与えてくれる。この作品は、家族だからこそ記録できる、生と死と家族のカタチそのものだ。
(陽・機関誌3月号より抜粋)