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2020年10月例会『パパは奮闘中』

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解説

社会問題を背景に家族の在り方を探る

 ロマン・デュリスと言えば『猫が行方不明』『タイピスト!』などの明るい役柄が多く、豊かな表情が印象的な俳優。今作『パパは奮闘中!』ではいつもと雰囲気が違うが、彼の光輝く才能を感じられる作品だ。
ベルギーやフランスで注目されているギヨーム・セネズ監督の長編二作目であり、長編デビュー作の『Keeper(日本未公開)』とともに、多くの映画祭で高く評価されている。
突然の妻の家出によって慣れない二人の子供の世話と仕事で残業に追われる男性オリヴィエを中心に、家族の絆を静かなタッチで描き出している。主人公オリヴィエを演じたロマン・デュリスの演技は安定感があるし、『若い女』などで最近注目されているベルギーの女優レティシア・ドッシュがオリヴィエの妹役で良い味を出している。

 主人公は通販会社倉庫で現場リーダーを務める二児の父親オリヴィエ。たとえ低賃金でも子供を育てるため、ブラックな労働環境から同僚を守るため、仕事に労組活動にと没頭する責任感の強い彼だが、しかしそれゆえ家事や子供の面倒は共働きの妻ローラに任せっきり。彼女がストレスのため職場で倒れたことすら知らない。そして、妻がある日突然姿を消し、残されたオリヴィエは途方に暮れることとなる…。グローバルな格差社会の現実を映し出しつつ、男性の生き方や夫婦の在り方を問う作品となっている。

 安易な作り話にするのではなく、実際にこのような状況に陥ったときの父親の行動や心理、そして子どもたちの反応(母親が恋しいあまり母親のスカーフを肌身離さず巻いているとか、口が聞けなくなってしまうとか)がリアルに表現されている。子供たちに対してシリアルしか出さない(というかおそらく料理できないので出せないのだろう)という描写などは強く印象に残る。四苦八苦するオリヴィエを見て、息子のエリオットは妹の面倒を見始め、妹もまた身の回りのことを自分から行うように。オリヴィエの不在時には、エリオットは食事の支度もするようになっていく。
 セネズ監督は「俳優が言葉を探しているときが好きだ。だってふだんの生活は、そんなものだろう。映画ではふつう消されてしまうような、そういうディテールが好きだ」と言っている。だからこそ、セリフが被るとか相手の反応を見ながらの言動はとても生々しく、子役たちの表情も素晴らしいのだと思った。そして子供たちの醸し出す寂しそうな雰囲気がとてもリアルだったことや、主人公オリヴィエの親として葛藤する表情を見ているうちに、あの家族を応援せずにはいられなくなる。
 映画の余白を大切にしていることにも好感が持てる。例えば妻ローズの家出について原因をはっきりさせない。そのため彼女を好きになれない人もいるかもしれない。オリヴィエの無関心がその一部ではないかと推察されるが、うつ病にかかっているようなエピソードもさり気なく描かれている。監督は次のように語っている。「観客が能動的に、理由なり根拠を与える方が、力強いと思う。映画は最終的に観客に属するものだ」細かな描写を見て観客が想像していくことを大切にしているような手触りが感じられる。

 オリヴィエは会社で同僚から信頼が厚く親身になって対応をしている。しかし家のことは妻にまかせっきりで、自らを振り返ることすらしない夫だ。妻がいなくなると子どもの服や食事にも四苦八苦する。オリヴィエの母や妹との会話で、彼の性格も見えてくる。この状況を見かねたオリヴィエの母は、仕事人間なオリヴィエは父親譲りだと痛感し、家庭を顧みなかった父親と同じと息子をいさめる。彼は妹のベティに面と向かって「無職で子供もいないし、いいだろ」と口走ってしまう。決して悪い人ではないのに、無関心と無神経さが基になって大切な人たちを傷つけてしまう。しかしそんな家庭を後回しにし続けてきたオリヴィエが、「僕は親失格だ」と嘆くようになるなど、だんだんと親らしくなっていく過程が描かれている。その過程は“奮闘中”と言うよりも“成長中”という言葉の方がしっくりくる。

 この作品を見て一番驚いたのは、主人公オリヴィエの職場の過酷さである。某大手通販会社を思わせる倉庫で働く彼の同僚はいとも簡単に首になる。その会社人事担当者とのやり取りやオリヴィエの反応はまるでドキュメンタリーを見ているようだ。そしてその人事担当者すらあっさりと首になるし、妊娠の判明が理由で解雇される従業員もいる。オリヴィエは部門リーダーという地位にありながら、共働きの妻がいなくなるとベビーシッターすら雇えない低所得者なのだということ。労働組合の活動としてビラを配るシーンがあるが、誰も関心がなく組織率が非常に低いという状況が描かれる。フランスといえば黄色ベストのデモについてニュースがあったように、気軽にストライキやデモを行う労働者の権利が守られている国だと思い込んでいた。その実情は共働きでないと暮らせない層がかなりいると初めて知った。その状況のエピソードをしっかりと描いているのに好感が持てた。

 この作品の原題は「私たちの闘い」。邦題からはずいぶんかけ離れた題名だが映画を見終わったあとだと原題の「闘い」の方がぴったりだと感じられる。職場での闘い、家族との葛藤、ジェンダーにとらわれた言動への闘い。私たちの日常には様々な闘いがある。
終盤、家族三人が投票してこれからの将来を決めるシーン。意見が通らずがっかりする子どもにオリヴィエが声をかける。「民主主義はがっかりする人が少なくて済む制度。だから素晴らしいんだ」。その姿に彼の成長と個人への敬意を感じ取れる素敵なシーンだ。
厳しい状況や思うようにいかない現状を打破したい。そんな映画作家の思いを感じる作品である。
(陽)

ひとくち感想

◎大変よかった  ◯良かった  ◇普通  ◆あまり良くなかった  ☐その他

母親の力を今更の様に知りました。やっぱり夫婦で子供は育てなければ。(84歳 女)
ギヨーム・セネズがこの映画を通して人々に伝えたい家族のきずなとそれぞれの役わりは、どこの国でも同じこと、同じ事情、同じ問題があると伝えたいと思いました。(77歳 男)
言葉が仏語だったのかな。違うことばだからちがう世界に連れてもらったようにも思ったけれど、でもストーリーはとても身近な感じだった。パパもママも子供たちも妹もみんなそれぞれに懸命に生きてる。最後にパパが投票でみんなの意見を尊重して行く方を決めたことが、おもしろかったし、パパの大きな進化かな。きっとパパの中ではすでにどうするか決まっていたのだろうけど。次にママに会うことがあったら、パパとママの関係が、少しは前向きに変化していくと期待したい。(57歳 女)
ジェンダーの視点から興味があったが、それ以上に働く人の組合の問題、労働者の権利とか闘い方についてひどく考えさせられた。子どもに民主主義を教えるし実践する。子どもの問題も含まれていて、現代日本の労働問題とかについても考えさせられた。労働現場がアマゾンのようで(実際は知らないが)恐ろしかった。日本の若い人もそういう現場で働いているのでは。ウーバーイーツとか無権利の労働者がひどく増えていて、気になる。
組合活動を通じて働く仲間の幸せを願う主人公、でも家へ帰ればすべてを妻一人に背負わせて、そのことに気づきもしない。妻の家出前夜自殺した仲間の家族を慰めてほしいと言う。いっぱいいっぱいの妻には一言もなく。最後に子供と父、一人一票の投票をしたことに若干の彼の変化がみられる(?)(女)
仏映画にしては毒が少なかったように感じました。世界中「格差社会」…一体どうすれば「幸せ」になれるのか? 田舎に引っ込む? それもできなければ「どうぶつの森」? ヨガ?禅?「上」に対抗したい! 一人ではできない。仲間を見つけたい。「私の仲間」を。(女)

お父さんの立場が家庭の生活、子供の世話に協力しないというのなら、日本の家庭は全てホーカイだ。この物語の着地点がわからない。(81歳 女)
どこの国も働く人々は大変‼共働きで育児と仕事。女性の大変さをどこまでパパは理解したかしら?お兄ちゃんが健気に妹をかばったり世話して頼もしく感じた。新しい天地で親子が幸せになってほしい!(78歳 女)
若干人と話が過剰で老頭の私には分からないところも。もう一つは日本と仏のお国柄の違いも感じた。それはそれでいいのだが。(76歳 男)
見た後の感想としてはすっきりしない気分なんですけど、映画の作り方とは問題提示をしていると思うし、家族、仕事中心の男と耐える女がおこす問題?でもそのような環境になってる労働者の立場もあるしといろいろ考えます。でもラストは彼の仕事への姿勢がみとめられたということ?ですよね。最近芝居でも映画でもこれは何がいいたいんだかわからないという意見があって、私たち(見る側)はいつも受身の姿勢にならされて答えがあるものと思うところに考えない人間になってるのかもと思う今日この頃です。私たちが成長するためには、やはり考え話合う習慣をいつも持たなければといけないのだと?という提示をされたら即考える人になる。“わからへん”といって放置しないで考え続ければ答えが生まれてくると信じたい。(75歳 女)
ダスティン・ホフマンの『クレイマー・クレイマー』と無意識に比較するのね…。ぜんぜんちがうのに、子そだてが男性がすることに(今イクメン)社会の扱いがなかなか好意的(きれいに)描きがち、子どもの変化が…これ実感です。何でもわかっているというのはゴウマンですよね。さぐりながらも互いに努力していくこと。(73歳 女)
どこの国もどこの世の男性も(人にもよるが)同じだな、というのが第一印象。通販の梱包システムやフランスの労働事情、フランス人の筋道立てての議論好きやも垣間見えた。ジェンダー問題に気付く人は気付くし、わからない人はそのままか、という雑駁な印象、アンケートとなりました。(73歳 男)
民主主義を説く人は家の中がいつも、この映画と同じような気がする。「思いやり」というけれど、やってみないとわからない。やはり男の人の教育? 小学校から男の子には家庭科は? それに社会も利益追求で忙しすぎて人間らしい生活ではない。問題がいっぱいつまった映画だと思った。(72歳 女)
男女の意識の違いがよくわかった。それぞれ自分なりに努力していると思っているが、かみあわない。子どもは敏感に感じている。(72歳 女)
ぜひよい映画をこれからも見せて下さい。(70歳 女)
オリヴィエは職場のチームを大事に思ういい人なのに、家族関係について言うと「わかってなかった」らしい。助けを求め、泣き、突き放されて、「そして親になる」べく奮闘中。カウンセラーが母親の心のしんどさを子どもたちが理解するように話すところや、親子三人が投票で将来を決めるところに、フランスらしい民主主義(?)を感じた。ママへのメッセージを残すところも心に残る。(69歳 女)
んー。何か考えさせられました。自分を保てなくなったら、どうする? やはり一人で考えるしかないのかな。(67歳 女)
妻の行動が全く理解できませんでした。ただただ夫(お父さん)に同情するばかりです。(68歳 女)
良く判る映画でした。我が家にも大なり小なり同じ様な経験があり、大人の成長も子供たちの成長も、ちょっとした気持ちのあり様ひとつで前にも後にも進む…。(67歳 男)
見ていてつらくなる映画でした。オリヴィエは会社ではチームリーダーと労組活動家というりっぱな顔を持っているが、家では妻にも子どもにも信用されていない。最後まで妻の家出の心当りがないというのは情け無い。しかも映画がすすむにつれて会社でもあまり役に立っていないことが明らかになる。仲間の雇用を守ることも出来ないし、工場の室温を上げる要求も無視される。最後には人事課に引き上げてやるという人をなめた異動もいわれてしまう。妻の家出中に同僚と浮気をしてしまういいかげんな性格で、しかも妹に簡単に見抜かれるという単純な間抜けな面なのもさらす。客観的に見るとそういう男だが、本人はいたって真面目に困難に立ち向かっている思いだ。(64歳 男)
少ない配役で次々と場面が展開するので、ストーリーが分かりやすかったです。父親から引き継いだ家庭の構造も。(62歳 男)
二回目の鑑賞なので、家を黙って出た妻の気持ちや、母のいなくなった後の子どもたちの気持ちがていねいに描かれているのがよくわかりました。労働環境に関しては省略が多くて、国の違いがあるとはいえ、わかりにくかったです。でもどこの国でも、夫、父親は似たようなものだと、おもしろかったです。(60代 女)
それぞれの思いや考えや気持ちがすれちがって、うまく進んでいるのかいないのか、でも人生ってそうやって前へ進んでいくだろう。どこかで誰かにしっかり愛され、自分の存在価値を獲得できればいいのに。(59歳 女)
エンディングに余韻が残る作品で意外性がありました。(56歳 男)
本当にかわいい子どもたちで、その子たちをおいて一人家を出る気持ちは、理解しがたい(乳児がいても、キャリアが順調でも自ら命を絶った美しい女優さんもいたけれど)人の心のフクザツさを思いながら最初は見た。フランスの企業が簡単に人を切ることが出きると思い知った。ラスト、子どもたちも家族の一員として一票を入れて、南へと旅立っていった。お父さんが悩んだ分、みんな幸せになりますように。(女)
ロマン・デュリスは仏では国民的俳優、日本では中々逢えないが、久々に会えてよかった。家族のあり方をいろんな角度から考えさせられ、結論が出ないのがよかった。(匿名)

親子の生活、労働者の待遇、それぞれが希望を見出せるといいのに…との願いだけが残った。皆一生懸命「生きているのに!!」これが私達の人生か? パパのがんばり、子供たちのけなげさ、おばあちゃん、おばさんのサポートもすごく解る映画だった。(73歳 女)

ケン・ローチの映画のようなハナシなのに、ケン・ローチの映画のようには、登場人物に誠実さが見えなかったし、シンパシーも覚えられなかった。この弱さ、不様さをリアリティと言いたいのかも知れないが、それはやっぱりリアリティとは違うように思ってしまうのだが。(68歳 男)

いつも色々と変った作品、とてもよかったです。(83歳 女)
すみません。よくわかりませんでした。(71歳 男)

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