🔳トップページ 例会は金曜日、3回目の上映は19時(午後7時)からです
8月21日(金)①11:30 ②14:30 ③19:00 神戸朝日ホール
事前予約(電話、メール)受付中 1700円 → 1300円 078-371-8550

監督:バーセル・アドラー、ユヴァル・アブラハーム、ハムダーン・バラール
ラヘル・ショール
(2024年/ルウェー、パレスチナ/95分)

ヨルダン川西岸の現状を映し出す心を打つドキュメンタリー
破壊される故郷を撮影するパレスチナ人青年と、彼の活動を支えるイスラエル人青年の友情を、2023年10月までの4年間にわたり記録したドキュメンタリー。2024年・第七四回ベルリン国際映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞と観客賞を受賞し、第97回アカデミー賞でも長編ドキュメンタリー賞を受賞しました。
物語
ヨルダン川西岸のパレスチナ人居住地区マサーフェル・ヤッタで生まれ育ったバーセル・アドラーは、イスラエル軍による占領が進む故郷の様子を幼い頃からカメラに収め、世界へ向けて発信してきた。そんな彼のもとに、自国政府の非人道的な行為に心を痛めるイスラエル人ジャーナリストのユヴァル・アブラハームが訪ねてくる。同じ思いで行動をともにし、パレスチナ人とイスラエル人という立場を越えて対話を重ねるなかで、二人の間には友情が芽生えはじめる。しかしその間にも軍の破壊行為は過激さを増し、彼らが撮影する映像にも痛ましい犠牲者の姿が増えていく…。
バーセルとユヴァルを含む二人のパレスチナ人と二人のイスラエル人による映像作家兼活動家が共同で監督を務め、不条理な占領行為とそれに立ち向かう人々の姿を、当事者だからこそ撮影できる至近距離からの映像で描きだす。
そして、今回『ノー・アザー・ランド』で描かれる「ヨルダン川西岸」で起こっている事案は、ガザとはまた趣が異なっている。ヨルダン川西岸地区では、もっと小規模ながら、執拗で容赦ない、そして継続的な破壊と弾圧が行われている。
住民たちパレスチナ人の家が破壊され、井戸がセメントで埋められ、学校や公園も重機で潰されていく映像は、見る者の胸を締めつけてやまない。
それは、この映像がそこで起きていることを、ありのままに伝えているからだろう。普通にこの映画を見ていると、非道な行いをしているのは、イスラエルの人々(軍や入植者たち)で、被害にあっているのはパレスチナ人のもともと住んでいる居住者であることは明らかだ。
カメラの前の兵士や入植者といった、このドキュメンタリーの加害者側は、言葉や仕草で威嚇する場面が多くとらえられている。しかし兵士は撮られてない、つまり自分たちの暴力が「残らない」時、より酷いことができてしまうのではないか。
暴力を他人が知ることになる可能性があることで抑止になるのであれば、映像に残らない、この画面の外ではもっと、考えうる以上に酷い状況なのではないか。
ここに射撃訓練場を建設するという目的で、イスラエルはこの地に暮らす住民を強制的に退去させ、むりやり家を破壊していく。武器を持った軍もこれを支援している様子がカメラに収められており、パレスチナ人に対する理不尽が明白にされているのだ。
ただ普通に生活したいだけなのに、それすら許されない。住むところが破壊されるという恐怖は想像するのも恐ろしい。彼らの苦悩と絶望が、この映画を通して痛いほど伝わってくる。
この映画の監督が、パレスチナ人とイスラエル人という、被害者側と加害者側両方からの人員で構成されている点は特筆すべきだろう。これは非常に重たい、かつ尊敬に値する事実だ。
パレスチナ人クルーは、カメラを回すことにより、イスラエル兵や、時には入植者から銃を向けられるという事態に頻繁に遭遇する。
一方のイスラエル人クルーにしても、「お前は裏切り者か」「任務の邪魔をするな」という罵声を同胞から食らうのだ。
しかし彼らは「そこで起きていることを、ありのままに伝える」というミッションにいささかの躊躇もない。
そして、この映画で印象深いのは、そのような過酷な映像の合間に映し出される二人の青年の会話と交流のシーンだ。共に撮影を続ける二人が語り合うパレスチナとイスラエルの未来についての対話や、二人の若者の間に生まれる友情が静かに胸を打つ。パレスチナとかイスラエルとかではなく同年代の若者の、人間同士の関係こそが未来を形作っていくのではないかという希望を感じさせる。
彼らを突き動かすものは、自分たちのコミュニティを守り、イスラエルの強制追放をやめさせるための切実な使命感なのだろう。そして、この映画の製作者四人の、パレスチナ人とイスラエル人が平等に生きられる社会システムの構築を呼びかける声明を見て、その強さと勇気に、ただ敬意を抱くばかりだ。
撮影は2023年10月で終わったことが示されるが、エピローグとしてガザとイスラエルの紛争が再び勃発したことと、ヨルダン川西岸でも事態はますますひどくなっていることが触れられる。この映画のパレスチナ人監督の一人がイスラエル軍に拘束された後解放されたというニュースが2025年に流れたことも記憶に新しい。映画の中でパレスチナ人ジャーナリストの青年がイスラエル人ジャーナリストの青年に「焦りすぎだ。数十年の問題が一日で解決はしない」と言うシーンがあるが、解決にはまだ多くの歳月が必要なのだろう。
現在のイスラエル人口は980万人ほどと言われているが、イスラエル国籍を持つ200万人のパレスチナ人が住んでいる。しかし、学校は別々で彼らのみで固まった集落に住んでおり、パレスチナ人と結婚するイスラエル人も極めて珍しい。このようにパレスチナ人とイスラエル人には深い断絶がある。
ヨルダン川西岸でパレスチナ人が奪われた土地には、イスラエル人がどんどん入植をしている。イスラエルが行っていることは現代のアパルトヘイトそのもの。
イスラエルの暴挙を止めるためには、まだまだ時間は必要だし、国際社会の関心も必須だ。
そして、この作品を見た私たちが無関心にならないことも、小さいけれど私たちにできることなのではないか。 (陽)
【参考文献】
ダニー・ネフセタイ著「イスラエル軍元兵士が語る非戦論」集英社新書 2023年
映画パンフレット
