コロナ感染拡大防止のため、座席数は定員の半数の116人です。
「会員」及び「予約の一般、シニア、学生」の方は開場と同時に入場できますが、
「一般事前予約無しの方」は空席を確認のうえ、上映5分前に当日券を販売します。
(予約:電話078-371-8550又はメール) 

 ■マスク着用をお願いします。 ■時節柄、体調の悪い方の参加はご遠慮願います。


市民映画劇場9月例会(第567回)  『無垢なる証人』        
 監督: イ・ハン
 出演: チョン・ウソン キム・ヒャンギ
 2019年/韓国/129分

韓国のヒューマン・ミステリーは、素直に心に響く

 新型コロナウイルスが影響した「ステイ・ホーム」期間、韓国のエンターテインメントが改めて日本だけではなく、世界中の人々の心を捉えました。中でもネットフリックスで配信されたドラマ「愛の不時着」や「梨泰院クラス」の人気は高く、バラエティー番組の話題になったり雑誌で特集が組まれたり。
 「冬のソナタ」の大ヒットで第一次韓流ブームと言われた2004年に公開された映画『私の頭の中の消しゴム』は『パラサイト 半地下の家族』(19)の登場まで十数年の間、日本において興行成績が一位の韓国の映画でした。
 若年性アルツハイマー病の妻をひたむきに愛し支えるイケメン夫を演じたチョン・ウソンが時を経て本作品『無垢なる証人』で主演を務めています。
 40代となりキャリアも実力も兼ね備えた俳優となった彼と対峙するのは、子役出身で天才肌の若き女優キム・ヒャンギ。
 韓国映画らしく、他の登場人物も、その存在感がはっきりしているので、自然に物語に入り込んでいきます。
 「第5回ロッテシナリオ公募展」で大賞を受賞したシナリオを基に『戦場のメロディ』(15)『ワンドゥギ』(11)等、温かい視点で映画を作ってきたイ・ハン監督がメガホンをとり、本国では230万人の観客を動員しました。
 『無垢なる証人』は神戸初公開の法廷劇でありミステリー映画です。謎を追うのには、先入観は必要ないと思われる方は、この後の文章は鑑賞後にお読みください。

異なった世界で生きてきた二人の出会い
 若いころは人権派弁護士として世間から注目を集めていたヤン・スノは、最近大きな事務所に転職し、「現実的な仕事をする弁護士」として活動しようとしていました。上司から期待を寄せられる彼は、新たにひとつの事件を託されます。
 資産家が死亡した出来事は殺人事件として立件され、起訴された家政婦オ・ミランを弁護する仕事は儲ける仕事をする弁護士としての第一歩です。
 事件の唯一の目撃者は、自閉症の女子高生イム・ジウです。
 ジウには、証明する能力がないと考える事務所関係者は、彼女を証人として立たせれば、裁判に勝てると確信を得ています。
 あくまで容疑を否認し、近所の評判も良い被告人を弁護することになったスノは、真実を知ろうと奔走しますが、ジウとの会話は一筋縄ではいきません。
 ジウとうまくコミュニケーションをとれている担当検事に協力まで願い出るのですが、反対に「自閉症の人は外には出られません。相手が出られないのであれば、あなたが入ればよいのでは」と言われてしまいます。
 度々、ジウの学校に出向き、徐々に距離を縮める努力をしたスノは、彼女の中に利発さや優しさを発見します。
 しかし、スノは法廷では事務所の期待に応えます。
 第一公判に出廷したジウと母親は深く傷ついてしまいました。

映画の中で輝く個性
 自閉症スペクトラムの症状は、その人によって異なりますが、多くの自閉症の方々と同じように、音に敏感で、変化を嫌うジウ。知能が高く、数字に強くて記憶力も優れているのは彼女の特性です。
 色々な情報が頭の中に入っていきますが、それを整理して外に出す方法が個性的です。人は、そのやり方を見て、「あの子は変だ」と感じてしまうのです。
 これまでも、数々の映画で自閉症の登場人物が、その個性的な存在感で観る人を感動に導きました。
 ダスティン・ホフマンとトム・クルーズが兄弟を演じた『レインマン』(88)、若いカップルのキラキラした恋愛とふたりの生きづらさを描いた『モーツァルトとクジラ』(04/例会作品)、北欧の映画ではユーモアあふれる『シンプル・シモン』(10)、ダコタ・ファニング主演の『500ページの夢の束』(17)、韓国映画ではイ・ビョンホン主演『それだけが、僕の世界』(18)、中国映画『海洋天堂』(10/例会作品)等々。
 自閉症のヒーロー、ヒロインたちは、自分の好き嫌いははっきりしていて、それを表現する方法も自由です。その事で周囲の人々は時には驚き、軋轢を産んでしまう事も。そして、自分自身が深く傷ついてしまう場合もあります。
 どの映画でも彼らの独特でくっきりとした個性、想像を超えた行動や発言を理解するうちに、関わった人は変化していきます。
 健常者といわれる一人ひとりも異なった個性を持ち、生きているはずです。しかし、社会の中で、家族の一員として、地域の住人として、時には自分の思いを表現せず、意に沿わない同調をしてでも穏便に暮らしていくことを自然に受けいれていく。
 器用にやっているようで、時にはストレスを生む要因となっているのではないでしょうか?

立ち止まる勇気と修復への思い
 『無垢なる証人』の主人公スノは、真面目な性格です。若い頃は、正義感に燃えて人権派弁護士として活動しましたが、唯一の家族の父が老い、借金まで作ると事務所を変えて信念を曲げてまで「金を稼げる弁護士」になろうとします。
 生真面目さゆえ、父の面倒をみなければいけないと思い、結婚を考える事もなく仕事に邁進する人生を送ってきました。
 (しかし、父親は案外のんびりとおおらかな人柄です。)
 今も弱者を助けるために弁護士活動をしている大学時代からの女友達スインには、良かれと思って言った言葉で気分を害されてしまいます。
 誠実でも、相手の気持ちを想像する心遣いが欠けていました。
 ジウの気持ちを知ろうと自ら働きかけるうちに、人の心は複雑で、見えるものだけを単純に思い込んで判断するのは傲慢だと理解するようになります。
 又、家族や友人に守られている存在だと思っていたジウの芯の強さに感心し、敬愛します。
 自閉症の女子高生との友情とも思える関係は、スノに視野の広さを与え、本来もっている気持ちを甦らせるきっかけを作りました。
 『無垢なる証人』は、殺人事件を扱ったミステリーでありながら、ヒューマンドラマの佳作です。観る人の心に小さな灯りをともします。
(宮)