機関誌6月号 通巻785号より

 原題:TSCHICK
 監督:ファティ・アキン
 出演:トリスタン・ゲーベル
 2016年/ドイツ/93分

さぁ、14歳の少年になって、二人と一緒に旅に出よう

 14歳。この年齢は「社会」の入り口に立つ頃で、どう生きていくのかなど、人生の選択を迫られる時期でもあります。自分自身への視線はもちろんですが、自分を取り巻くいろんなことに、目が向きます。家族のことや大人たちの振る舞い、異性のことが気になります。ときには、周りからのさまざまな忠告も干渉と感じて、あるいはもやもやとした気分を振り払うために、ときには家を出たくなることもあるかも知れません。
 今月例会『50年後のボクたちは』は、主人公の14歳の少年が、夏休みに家をとびだして友達と二人でドイツの南へ車で出かけるロードムービーです。旅で出会う様々な出来事を通して大人への一歩を踏み出します。その経験は少年にとってはとても貴重なもので今までの自分から大きく成長する旅でもあります。観終わったあと、きっと一四歳の頃の自分がどうだったかを考えてしまう、テンポもよくて爽快感あふれる、そんな映画です。
 監督はファティ・アキン。いま上映中で話題となっている突然愛する夫と息子を失った主人公の苦悩を描いた『女は二度決断する』、『ソウル・キッチン』、例会でも上映した『そして、私たちは愛に帰る』などの監督で、ベルリン、カンヌ、ヴェネチアの三大映画祭で主要な賞を獲得した才能あふれる監督です。原作はドイツのヴォルフガング・ヘルンドルフで、「14歳、ぼくらの疾走」(小峰書店)です。ドイツで220万部を超えるベストセラーとなり、二六か国で翻訳され数々の賞を受賞した小説です。
主人公マイクは引っ込み思案でクラスのマドンナであるタチアナになかなか声をかけることができない。彼女の誕生パーティに招待されるかどうか、気になっています。でもアル中の母親についての作文をクラスで読むと同級生から「サイコ(変態)」と笑われるし、先生からもこのようなことを作文にすべきでない、とお説教をくらってしまう。どうにもやり切れないところにチチャチョフという聞きなれない名前でアジア系の顔をした、外見も一風変わった人物が転入してきます。「どこの出身か自己紹介を」と問われて「面倒くせえ」の回答。臆病ものであるマイクはおっかなびっくりで転校生チックに接します。二人にはタチアナからの招待状がこない。そんな二人が夏休みにチック(チチャチョフ)の祖父が住んでいるという「ワラキア」を目指してロードに出ます…。

旅のはじまり
 ファーストーシーンでワンクッションを置いた後で、物語が始まります。住居などからすると裕福な家庭環境ですが、母親はアルコール依存症で、テニスのあと息子や対戦相手の前で酔っぱらってしまいます。その酔いっぷりの描写がユーモアたっぷりで、のっけから引き込まれます。そして母親は夏休みにアルコール依存症の治療のために施設に入ることになります。そして、父親は若い恋人と一緒に旅行となり、お金はもらうけれども、ひとりで過ごすことになります。そこにチックがやってきて、「冒険」の旅にでることになります。
 ひと夏の体験やロードムービーは、おなじみのテーマですが、この作品ではこの旅が主人公の成長物語、教養小説(ビルドゥンクス・ロマン)のようになっていて、臆病でなかなか自分で決断して行動することに躊躇してしまっていたけれども、この冒険ともいえる旅を「アウトサイダー」ともいえる友達のチックとともに過ごすことで、旅から帰ったあとでは、父親の行いに声をあげることもなかったマイクですが、父親の方針を受け入れずに、不利益になることも踏まえながら自分の考えを貫きます。と紹介すると固い感じがしますが、そうではなく、ドイツ南部の田園風景、畑のなかの一本の道路、青い空、そして、人々との出会いなど、ユーモラスで軽快なテンポで二人の行動を描いていきます。

爽快でゆかいな道中
 ユーモアでいえば、マイクとチックは凸凹コンビとなっています。チックは背が高く大人と子どものようなコンビで、そのうえチックはアジア系で日本人のような顔をしています。頭髪も『子連れ狼』の大五郎のようで一度みると忘れられない特徴があります。乗ってきた車もロシアのSUVですが、小型でボロボロ、その姿には微笑みたくなります。旅の始まりで、チックはマイクが持っていたスマートフォンを捨ててしまいます。マイクはびっくりしますが、チックは悠然としたもの。出たとこ勝負の旅が続けられます。そして車のカセットでかける音楽は日本でも大ヒットした「渚のアデリーヌ」。食事をしようと食べ物を取り出したのはいいが、火を通さなければ食べられない。缶詰はあっても缶切りがない。車でトウモロコシ畑に突っ込んで自分の名前を書く。他の車からガソリンを抜き取る。無免許運転で警察に追っかけられる。子どもがたくさんいる家でごちそうになりますが、この家ではデザートを食べるにはクイズに正解する必要があるなど、ちょっと愉快な家庭にも出会います。そして、二人旅から三人旅となるイザと名乗る若い女性の登場。廃墟から突然二人をののしる声。服はボロボロ、身体から強烈な匂いを発する姿で現れます。マイクはイザと「恋」のような経験をします。ときにはやりすぎとも思える行動をするなど、アウトサイダーぶりを発揮するチックに引きずられながらも三人の間に固い友情が生まれていきます。

もとの世界へ
 こうして主人公のマイクは一つの旅を終えます。二人の関係は対等ですが、「住む世界」が違います。チックはまるで西部劇の『シェーン』のように他の世界からやってきたアウトサイダーのようです。突然に現れてインサイダーであるマイクをアウトサイダーの世界に連れ出します。そんなこともあってチックと途中で加わるイザの今までの過ごし方や家庭などの背景情報が切り捨てられています。チックはマイクに今までの世界で味わったことのない、冒険ともいえる出来事を経験させてくれます。チックが足を怪我して運転できなくなったので、これまでのマイクでは考えることもできなかった危険も顧みずに運転します。このことが旅の終わりを告げることになりますが。
 通過儀礼とも思える旅を終えたマイクは裁判所で父親の口止めにも関わらず、真実を語ります。そして、父親が荷物をまとめて家を出て行ったあとで、マイクは、酒瓶とタバコをくわえた母親と一緒に家のプールに椅子などの家具と次々と投げ込みます。さらに二人はプールに飛び込みます。ちょっとした日常の冒険です。マイクはもう感傷に浸ることもない。教室にもどるとマドンナのタチアナからのメモ「夏休みはどこに?」が回ってきますが、もういままでのようにうろたえることなく、さらっと受け流しているように見えます。そして、空席となっているチックの席を見ます。50年後のボクたちは?
さぁ、14歳の少年になって、二人と一緒に旅に出よう。型破りの旅に笑い、ときにはハラハラしながら、ときには切なく。そして、ちょっと過激な旅に。
(研)