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市民映画劇場5月例会(第565回)『i-新聞記者ドキュメント』
 監督:森達也
 出演:望月衣塑子
 2019年/日本/113分

わたし達が新聞と新聞記者に望むものは
  事実ではなく、真実の報道。

 19世紀にドイツで活版印刷術が発明され、社会活動を支えるコミュニケーション手段は格段の進歩を遂げ、社会的ニーズとしての書籍と新聞を生み出す事になった。また20世紀に入ってからは電話、ラジオという音による通信技術、映像メディアとしての映画の発明・発展、さらにテレビの家庭への進出、90年代からはインターネットの普及により人々のコミュニケーション環境はめまぐるしく変化することとなる。
 そんな社会的変化の中で今、新聞の存在意義も大きく変わろうとしている、そんな気がしている。

日本の新聞の現状
 日本における新聞の発行部数は年々、減少し、2019年の新聞協会によると大手五紙では読売790万部、朝日528万部、毎日230万部、日経224万部、産経135万部、計1907万部となっており、2000年から今日まで1057万部の減少、2017年から2018年の2年間でも約400万部も減ったという。
 そんな中、新聞を読む世代も変化し、若い世代の多くは読まない世代となりつつある。
 50代以上では毎日、新聞を読む人が70%以上だが10代から30代では30%前後。
 この世代で新聞を購読しているひとは少ないのではと思う。
 そこには雇用情勢の変化も大きいと思う。かつては就職すれば安定した暮らしが保証され、新聞をはじめ文化的な事にお金を使う余裕が若い世代にもあった時代と、非正規で収入も不安定な状態で仕事をせざるを得ない人たちが労働者の40%を占める今の現実の中では新聞も必然的に生きる上での必需品ではなくなりつつあるのではと思えるのだ。
  
 映画『i-新聞記者ドキュメント-』は2019年度キネマ旬報文化映画部門においてベストテン1位を受賞した作品であり、監督はフリーのドキュメンタリー映画監督、森達也。

ドキュメンタリー映画と私見
 最近はドキュメンタリー映画も劇場ではよく公開されており、珍しくもないが、今から30年以上前に大阪でみたルイス・ブニュエル監督のスペイン映画『糧なき土地』は衝撃的だった。スペインのコルデスという片田舎で貧しさに苦しみながら生きる人々の映像はファシスト政権を敵に回す事になり、以後、ルイス・ブニュエルはフランコ政権下のスペインで映画を撮る事ができなくなってしまう。
 ドキュメンタリーではないが、1959年制作の映画『黒いオルフェ』では映画舞台の一部にブラジルの貧民街ファヴーラがなっていたことからブラジルでは公開されなかったし、最近では2013年、中国のジャ・ジャンクー監督作品『罪の手ざわり』があまり見せたくない中国の一部を描いたとして中国では公開されていない。

想定内の作品?
 それらに較べれば映画『i-新聞記者ドキュメント-』はまだ劇場公開されており、政府の想定内の作品なのであろう。それは日本映画の限界をも?示しているのだろうか?
 また韓国女優シム・ウンギョンが2019年度キネマ旬報最優秀女優賞を受賞した劇映画『新聞記者』は韓国でも公開されたが観客の不評をかい、一週間で打ち切りとなった。民主化以降の映画を見続けている韓国国民には物足りなさが残る作品だったのであろう。
 ブリタニカ国際大百科事典によればドキュメンタリー映画の特徴は事実をその現場で撮影するのが基本と記されており、事物の表面の記録にとどまらず、その内に潜む真実をも露呈させるものだと…。
 果たしてこの映画はこの定義に当てはまるような作品になっているのであろうか? また監督・森達也の思いが映像の中で充分に表現されているのだろうか?

望月記者は直球派
 映画『i-新聞記者…』の主人公、東京新聞の望月記者は官房長官との記者会見でのやり取りで有名になった人だが映画の中でも分かるように自分の意見がそのまま記事になるような事はない、新聞社に属する大勢の記者の中の一人だ。
 彼女が回りの空気を忖度せずに、いつもその行動と発言が直球的なのは何故なんだろうか? 国民が疑問に感じている事柄を当たり前に質問しているだけなのに何故か映画の中では目立ってしまっている。様々な社会の出来事にいつも何故?を問う姿勢が望月記者を突き動かし行動させる。記者としての原点なのではと思う。
 3月28日の首相のコロナウイルスに関する会見の時、フリーランスの記者が二人指名されて質問をした。一人は江川紹子さん、もう一人はニュースメディア社の神保さん。彼は7年間も質問出来なかった人だ。その事自体が話題になるという事自体が日本の新聞というメディアの危機を物語っている。

ドキュメンタリー映画は真実?
 ドキュメンタリー映画は使う映像により、悪意に満ちたものとなる。2009年度アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞受賞作品『ザ・コーヴ』では和歌山県太地町で古くから続くクジラの伝統漁法と捕鯨で生きる人たちをまるで「高度な知能を持つクジラを虐待、虐殺する漁師たち」という表現で真実を覆い隠し、世界に広めた。

この作品と私たち
 映画『i-新聞記者…』で扱われている事柄はどれも国民の注目を集め広く報道されたものから一地方の問題として扱われたものまで多種多様だ。
 しかし、映画の中で私たちが身近に感じられないと思う問題でも根本的には私たちの生き方と深いところでつながっている。そうおもう事ばかりだ。
 映画が描いた現実は今も解決を見ることなく、私たちの前に存在している。けっして映画の中だけの物語にしてはならない。それがこの映画を撮った森達也監督の思いを受け継ぎ、望月記者の思いを受け取ることに繋がると思えるのだ。
(水)