市民映画劇場4月例会(第564回)『芳華Youth』
 原題:芳华
 監督:フォン・シャオガン
 出演:ホアン・シュエン ミャオ・ミャオ
 2017年/中国/135分

大きな時代のうねりの中で 翻弄される若者たちの姿。

 2020年に元町映画館が開館した時、オープニング上映作品の一本としてかかっていた作品、『狙った恋の落とし方。』を覚えていらっしゃいますか? 軽快なテンポで進むストーリー展開、海南島の、杭州の、そして北海道の息を呑むほど美しい情景描写。4月例会作品『芳華-Youth-』は、『狙った恋の落とし方。』を撮った馮小剛(フォン・シャオガン)監督の作品です。
 映画館で予告編をご覧になり、ひと時代前の青春時代を彷彿とさせる情感たっぷりの美しい映像に心を鷲掴みにされて、本編をご覧になった方も多いかもしれません。私もそのひとりです。

 フォン・シャオガン監督は、チャン・ツィイー主演の『女帝エンペラー』(06)や『戦場のレクイエム』(07)、『唐山大地震』(10)など数多くの話題作を手がけた、中国を代表するヒットメーカーと言われる映画作家です。これまで中国国内最大の映画賞である金鶏百花奨を5回も受賞しています。また、ヴェネチアやトロントでも受賞歴があります。
 原作は『シュウシュウの季節』(98)『妻への家路』(14)で知られるゲリン・ヤンです。
 中国公開時に2週連続1位を獲得。1ヶ月で興行収入230億円という爆発的な大ヒットを記録し、年間興収ベストテン入りを果たしました。中国国内の映画賞のみならずアジアのアカデミー賞と呼ばれるアジア・フィルム・アワード最高の最優秀作品賞に輝きました。
 作品の舞台となっているのは人民解放軍の文芸工作団。後に作家となった団員、スイツを語り手に、人民解放軍の若者の青春を描いた群像劇という形で物語は進行します。文化大革命で揺れた1970年代から中越戦争を経て現代までという大きな時代のうねりの中で翻弄される若者たちの姿を描いています。

 フォン・シャオガン監督は1978年、20歳の時に北京軍区の京劇団に入り美術部員として7年間活動していました。また原作者で、脚本も担当したゲリン・ヤンは、12歳で四川省の文工団に合格し、八年間、団員として活動していたそうです。制作者自身の青春時代への懐古が色濃く前面に出ている作品に仕上がっています。思い出は美しく昇華され、登場人物たちの悩みや苦しみでさえも、まるで夢のような時間を過ごしているように見えます。

ストーリー
 1976年の中国。兵士を慰労・鼓舞する歌劇団、「文工団」に農村出身で十七歳のシャオピンがダンスの才能を認められ入団する。周囲となじめずにいる中、模範兵のリウ・フォンだけが彼女の唯一の支えだった。しかし、時代が大きく変化する中で起きたある事件をきっかけに、二人の運命は非情な岐路を迎える・・・。

 日本に紹介された文革期を描いた中国作品といえば、弾圧された人々の悲劇を描いたものが多い印象がありますが、『芳華-Youth-』では人民解放軍内の若者たちを、私たちと何ら変わらない等身大の若者として描いています。喜びや苦しみ、時に恋をし、傷つき、傷つけ、悩み、という青春の日々が、普遍性を伴って胸に迫ります。この普遍性を感じさせることが重要だと感じました。彼らが在籍する文工団は、いわば前線へ兵士を送るための広報活動の一端を担う組織。戦場へと、死線へといざなう活動と言い換えても良いかもしれません。青春時代へのノスタルジーを共有することにより、スクリーンの中の彼らは容易に国や時代を超えて私たちと置き換わります。
 どんな時代も、どんな社会も、特別な何かによって生み出されるのではなく、社会を構成する私たちひとりひとりが作り出して行くのだという事実が突きつけられます。

 続いて描かれる1979年の中越戦争の場面は衝撃的でした。文工団での青春模様を描いた情景から一転して、戦闘の様子や野戦病院の描写へと移ります。戦争の怖さや汚さ、死の恐怖がリアルに伝わってきます。隣の国で、自分とほぼ同世代の登場人物たちが「戦争」を経験していることにハッとさせられました。時に目を背けたくなるようなシーンが繰り広げられます。六分間に渡り、ワンショットで撮られた戦闘シーンの臨場感は、本物の戦場に迷い込んだかのような迫力です。『戦場のレクイエム』で朝鮮戦争を描いたフォン・シャオガン監督は『芳華-Youth-』ではその戦場描写を一歩深め、ヒロイズムでなく、悲劇でもなく、より現実を直視させる描写へと舵を切っているように思えました。
 そして時代は移り、戦闘や野戦病院での働きで英雄となった彼らの報われないながらも誠実に生き抜いていく姿、親が幹部の子どもたちがその後の中国の経済発展の波にうまく乗り、金銭的に成功を収めている姿までを描いています。時代の、社会の不条理にやるせない思いを抱きながらも、深い余韻とともに何かがしっかりと心に刻み込まれていきます。

 シャオピンを演じるのは、純粋でまっすぐな眼差しが印象的な新星ミャオ・ミャオ。シャオピンが一途な想いを寄せるリウ・フォンを演じるのは染谷将太主演の『空海―KU-KAI― 美しき王妃の謎』で白楽天を演じたホアン・シュエン。文工団のダンサーたちが踊る、京劇と現代的なバレエを融合させた華麗で躍動的なダンスと、楽団員たちが様々なシーンで奏でる心に沁みる美しい音楽の数々も、作品の大きな魅力です。
(mei)
参考:公式ホームページ

【例会場はKAVCホール】