機関誌9月号 通巻789号より

市民映画劇場9月例会(第545回)『Viva!公務員』
原題:quo vado?
監督:ジェンナーロ・ヌンツィアンテ
主演:ケッコ・ザローネ
2015年/イタリア/86分

僕はどこへ行く?
イタリア式リストラ撃退法

 『Viva!公務員』は本国でイタリア映画史上最大のヒット作となったコメディ映画です。神戸映サでは元町映画館とのコラボ企画「イタリア映画傑作選」の一本としてこの作品を取り上げます。7月以来、大雨、猛暑に続いて東から西に台風がやってくる異常な夏。ラテン気分でたまった疲れを笑い流しましょう。

 子供の頃からの夢を実現して公務員になったケッコが主人公。親と同居で生活費はかからず、食事は母親の手作り料理。恋人との結婚は先延ばしで悠々自適の毎日でしたが、政府の方針で人員削減の対象に。地方への転勤か退職金の増額かの選択で次々と自主退職していく同僚をよそに、僻地に飛ばされ閑職に追いやられ、人の嫌がる仕事を押し付けられても、あくまで「安定して優遇されている」公務員の立場を手放しません。
 このマザコン男ケッコをあの手この手で辞職させようとするのはリストラ担当、やりての女性部長シローニ。彼女とケッコとの攻防戦を縦糸に、ノルウェーにある観測所の研究員ヴァレリアと出会いを横糸にお話は進みます。
 北極圏に飛ばされ、観測所で研究員を白熊から護衛するのが仕事だと聞かされたケッコは、さすがにめげそうになりますが、守る相手がヴァレリアと知って、あっという間に前言撤回。極地での生活を始めるのです。
 公務員を辞めさせるというと大変な事態のようですが、イタリアでは2014年地方自治改革(デルリオ法)により、従来の州県市の三重構造を廃止、県議会の直接選挙が廃止されるなど、県の権限が大幅に縮小されたとのこと。このあたりの事情が反映されていると思われます。このほか映画では、ケッコと住民の賄賂をめぐるやりとりやお世話になった政治家との関係(ケッコがピンチに陥ると的確すぎる助言で窮地を救ってくれます)、イタリア人と北欧人の国民性の違い、イタリア各地の事情、バックで流れるイタリアン・ポップスなどイタリアとイタリア人の事情が織り込まれています。

 黙って見ても十分楽しめる映画なのですが、左遷される土地や使われている音楽が、ちょっとピンとこない部分もあるので、以下簡単にご紹介します。
 ケッコが15年間務めた職場のある町はバーリ県コンヴェルサーノ。人口2万6千人。長靴と言われるイタリアの南部、かかとのあたりにあります。
 最初に飛ばされたのはピエモンテ州スーザ。人口6400人。2006年冬季オリンピック開催地トリノのある県です。アルプスの景勝地で古代ローマの遺跡がたくさんある観光地ですが、高速鉄道(TAV)の建設に反対する村人たちが20数年にわたって村ぐるみで抵抗の運動(NOTAV)を展開している地域でもあります。
 次に向かうのは、サルディーニャ島のヌーオロ(長靴のスネの先の島)、ついでイタリア最南端の島、ランペドゥーサ島へ行かされます。人口5千人で「死ぬまでに行きたい! 世界の絶景」という本で紹介され日本でも知られるようになりました。難民が押し寄せる様子は映画『海は燃えている』でご覧になった方もいらっしゃるかも。
ついで北極の観測所ニーオーレスンへ飛ばされます。ここはノルウェー領の北極の島、人が定住する地としては世界最北に位置する町です。1980年代からは、世界中の研究者に開放され極地科学や極地生態研究の世界的拠点として活用されるようになり、日本も研究所を設置しています。
 北極圏でも折れなかったケッコが向かうのは長靴のつまさき。ジョイア・タウロ、カラブリア州、人口1万8千人。このカラブリア州を拠点にしているのがマフィアのンドランゲタ。マクドナルドとドイツ銀行を合わせた以上に稼いでいると報じられ、先ごろ公開されたリドリー・スコット監督『ゲティの身代金』の題材となった石油王ゲティの孫を誘拐したのがこの組織だと言われています。

 映画では、ケッコ自身が音楽も担当しており、自作の歌だけでなく、ドラマの展開にあわせたイタリアン・ポップスが使われています。
 列車でローマに出向くケッコのバックに流れるのが1974年のヒット曲サント・カリフォルニアの唄う「トルネロ」(僕は帰ってくる)。この曲は北極からイタリアへ帰還するケッコの送別会でも歌われます。
 ノルウェーでヴァレリアとその子供たちと仲良くなったとき、ケッコはテレビでサンレモ音楽祭2015の中継をみて里心がついてしまいます。流れていたのは1982年のヒット曲、アル・バーノとロミナ・パワーが歌う「フェリシタ」(幸せ)。ロミナ・パワーはかのタイロン・パワーの娘でアル・バーノとおしどりカップルとして知られていましたが娘が行方不明になるという不幸な事件があり離別。16年ぶりに再結成したコンビに「よりが戻ったんだ、一緒に唄っている。」とケッコは感激するのです。
 後半ケッコがサングラスをかけて歌い出すのが映画の主題歌でもある「ラ・プリマ・レパブリカ」(以前のイタリア共和国」)。イタリアの大歌手アドリアーノ・チェレンターノの歌の替え歌を彼のモノマネで歌っています。チェレンターノはフェリーニの映画『甘い生活』には本人役で出演し、ロックを熱唱しています。

 原題は『quo vado?』(オレはどこへ行く?)左遷される地理的な行き先と彼の今後の人生の行き先を想像させるタイトルです。もう一つローマのネロの迫害を逃れてきたペトロの言葉「主よ何処に行かれるのですか?」(Quo vadis, Domine?)をも連想されます。ロバート・テイラーがでた映画『クオ・ヴァディス』を思い出す方もいらっしゃるかもしれません。
 ペトロはローマに引き返し命を落としますが、果たしてケッコの運命やいかに。決着の舞台はアフリカです。

参考ウェブサイト
□exciteism 二井康雄/Viva公務員【今週末見るべき映画】
□【映画の音楽ネタ】Piccola RADIO-ITALIA~イタリアン・ポップスを簡単に聴ける環境を日本に作りたい~
□『Viva!公務員』を楽しむためのセミナー「イタリア映画で笑うために」のご報告(日伊協会)