シニア、学生でない一般の方は事前予約(電話又はメール)で当日1,700円が1,300円になります。

■マスク着用をお願いします。
■時節柄、体調の悪い方の参加はご遠慮願います。</span”>


市民映画劇場1月例会(第571回) 『人生、ただいま修行中』

原題: DE CHAQUE INSTANT
監督:ニコラ・フィリベール
出演:クロワ・サンシモン校の看護学生と指導官の皆さん
2018年/フランス/105分

40人 150日間の成長を見つめた感動奮闘ドキュメンタリー

音のない世界で』『ぼくの好きな先生』などで知られるフランスのドキュメンタリーの名匠ニコラ・フィリベール監督の最新作。舞台はパリ郊外の看護学校。一年生から三年生まで、年齢や民族、国籍、宗教など様々な生徒たちが、いろんな実習の現場で奮闘する様子を次々ととらえていく。解説も音楽も加えられず、緊張や不安、ほっとした表情、息遣いまでが繊細に伝わる。本作は、詩的なタイトルがつけられた三部構成となっている。

第一部「逃げるからこそ捕らえられる」は、看護学生たちが受ける講義と実習風景。ほとんど解説やテロップでの説明はないまま、滅菌と消毒の違い、ダミーを使っての筋肉注射や人工呼吸、出産などロールプレイングでの授業風景が映し出される。看護の知識がない彼らが先生の話に熱心に耳を傾ける様子が、生徒と先生の関係がとてもフレンドリーだと感じた。ロールプレイングの様子は見ている私たち観客も引き込んでいく。

第二部「暗くなるからこそ見える」は、学生たち各自が希望した診療科病棟での実地訓練。手術前の患者に準備の説明や不安はないかなど聞き、患者との接し方を実践する。教室では出来た消毒ガーゼの交換や注射での採血、カテーテルの挿入など処置がスムーズにいかず戸惑う看護学生をフォローする先輩看護師や指導教師。その情況をある患者は不安気に、ある患者は悠然とリラックスしてみている。この実習で注目すべき点は、フランスでは血圧測定や採血、点滴方法といった臨床経験を早い段階から生徒に積ませるということ。フランスではそれだけ即戦力となる人材育成に力を注いでいることと言える。そのため、時には実際に入院している患者に対しての実習を行うのである。初めて注射を打つ生徒の「実験台」になったと知り、明らかに不安な表情になってしまう患者などは、気の毒に思いつつも笑わずにはいられない。

第三部「死ぬからこそ求める…」では、実地研修を終えた後の看護学生たちが、それぞれ指導官と面談するシークエンスが、観る者に 看護師を育てることの大切さを感じさせてくれる。実地訓練での感想・質問だけでなく進路やプライベートな問題までオープンに語り合い適切なアドバイスを送り、いっしょに問題に取り組む指導官とのコミュニケーションが素晴らしい。

最後の実習期間を終えた実習生とカウンセラーとの対話の「章」は非常に興味をそそられる。実習の感想(反省と後悔)が、実に生々しい。そのためか、感想が直に感動に伝わる。これが、「ドキュメンタリー」作品の醍醐味。
実習中に、自宅に泥棒に入られて窓の修理をしなければと言う人もいれば、自分がこの世界に合ってないのではという「生の声」が、結構考えさせられる所もあり、とても興味深かった。指導教官の心温かいアドバイスが、非常に心を和ませてくれる。経験値が高いレベルの人間でないと、この指導教官の職は絶対に無理だろう。フランスという国は一人ひとりが非常に自立している人が多いことにこの作品は気付かせてくれる。

「看護学校、そして病院はいろんな人々が否応なく集まってくる場所。社会的には一番多くの種類の人々が集う、まさに社会の縮図」とフィリベール監督が言うように、本作はさまざまな性別、人種が暮らすフランス社会を映してもいるのである。多様な人種と多彩な個性の若者たちが、看護師をめざす姿がなんとも清々しい。戸惑いながらも判断を迫られる「その瞬間」の連続。いろいろなストレスを抱える状況の中で、指導官が「そもそも、なぜ看護師をめざしたの」との問いかけに、「誰かの役に立つ存在になりたいから」と応答する若い看護学生。彼のその願望が、すべての困難を乗り越えさせる。看護師を目指す彼らの姿を見ていると、実習で様々な経験をする彼らと私たちの人生が重なってきて、監督の温かい視線とともに私たち観客も彼らを応援したくなる。
そして看護師を目指す学生たちを支える教師たち。その教師たちも学生の時誰かに支えられたはずで、彼らが若者たちをケアする姿に胸が熱くなるのである。

フィリベール監督は語る。「本作は、現代の若者、それも人生の中で誰かの役に立ちたいという若者たちを描いていると思っています。実は、フランスのフィクションで描かれる典型的な若者像というのは、無気力で、無関心で、ちょっと怠惰で、個人主義で…。といったネガティブな印象で描かれることが多い。ですが、私が出会った若者たちはそうではありません。この作品に映っている若者たちは、フランスの縮図という風に言えるかと思います。色んな出自の方がいて、肌の色や宗教も違います。ですが、残念なことに今、人種差別やナショナリズム、個人主義といった思想が台頭してきていますよね。人類にとって危険なものですし、私たちを脅かすものだと思います。そういった中で、私は、本作を通して、多様な出自の若者たちが『みんなのために役に立とう』という心構えで、みんなのことを守るためにスタンバイしている。そういう姿を描けたことをとても幸せに思っています。また、フィクション映画で描かれる『無気力な若者像』を少し変えることができたのではないかなと思っています」
本作には、人が成長すること、助け合うこと、多様性を大切にすることなど、どこでも変わらない大切なことが描かれている。そんな温かい眼差しのこの作品を多くの方に観ていただきたいと心から願わずにはいられない。
(陽)