シニア、学生でない一般の方は例会前日まで、事前予約(電話、FAX又はメール)すれば当日料金1,700円が1,300円になります。
3-4月はチラシ持参で3人の方まで1300円です。

■マスク着用をお願いします。
■時節柄、体調の悪い方の参加はご遠慮願います。


市民映画劇場4月例会(第574回)『お名前はアドルフ?』(原題:Der Vorname)

そこまで本音をぶつけ合って大丈夫!?
刺激的なカタルシスの会話劇

■旋風を起こした舞台を映画化
 あなたも私もこの世界に生きる人全員が生涯をともにするもの、それが「名前」。人生を左右するほど重要なものであるにもかかわらず、基本的には自分では選べません。そんな「名づけ」をテーマにしたフランスの舞台が2010年にパリで初上演され大成功を収めました。子供にアドルフと名付けてよいのかどうか?その問いに対して考えうるあらゆる答えを、機知を巡らせ提示した作品で、映画化もされてヨーロッパで大ヒットを記録しました。アドルフとはもちろんアドルフ・ヒトラーのこと。元々ドイツでは人気のある伝統的な名前で、現在もその名をつけることが法律で禁止されているわけではないが、当然ながら戦後生まれの男の子にはほぼ皆無となりました。この作品の製作陣は舞台をパリから旧西ドイツの首都ボンへ移し、ナチズム(国家社会主義)に対するドイツの戦後75年の「本音と建前」にたっぷりユーモアとウィットを盛り込み、ドイツの今を描き切った作品に仕上げています。
■名前
 ドイツのボンに住むシュテファンとエリザベト夫妻が、ある日妻の弟トーマスとその恋人アンナ、幼なじみのレネをディナーに招待します。トーマスがもうすぐ生まれる子どもの名前はアドルフと発言したことをきっかけに、舌戦の火ぶたが切って落とされます。
 生まれてくる子どもにアドルフと名付けるという爆弾発言に対し、実にさまざまな意見が交わされます。「アドルフ・ヒトラー」にまつわる歴史に関することは、すべてのドイツ人の心の中にあるであろう、第二次世界大戦の苦い記憶。時が流れてもそこは変わらないのだということを思い知ります。
 そしてアドルフの代わりに挙げられる名前に対して、ことごとく反論するトーマスの言い分も興味深く、「そういう返しがあったか!」と驚く人も少なからずいるでしょう。
 アドルフなんてとんでもない!と止める3人との口論は、世界史・政治・宗教・芸術と、あらゆる角度からの壮大な「アドルフ是非論」へ発展。名前とは一体何なのか、人はどんな思いで名前をつけるのかということを、とことん話し合う5人。歴史や宗教、文化など、あらゆる角度から「名前」について語る会話に耳を傾けていると、知的好奇心がくすぐられます。
 次々とあがる独裁者や芸術家、そして皇帝の「名前」という斬新な視点から私たちは世界史を俯瞰することになります。さらに国によって異なる名づけの規制や制限に驚き、伝統的な名前に込められた深い意味に感銘を受け、一瞬も気の抜けない90分となること請け合いです。

■個性の強い登場人物
 会話劇を繰り広げる五人は個性豊かな面々ですが、中でも特に癖が強いのがシュテファンです。物語の冒頭、ピザ屋が間違えてシュテファン宅へ配達に来てしまうのですが、「うちは注文していないよ」と言えば済むものを、「ピザの値段が高い」などと難癖をつけてピザ屋に食ってかかります。あっけに取られているピザ屋を徹底的に論破するシュテファン。身近にこのような人がいたら、ちょっとゲンナリしてしまうかもしれません。
 そんなシュテファンと「アドルフ」という名前について激論を繰り広げるトーマスは、シュテファンを「エセインテリ」と言い放ちますが、どこか人を見下したように話すところに、トーマスは「エセ」っぽいと感じたのかもしれません。
 そんなトーマスもお調子者で、ちょっと自分勝手なところがある人物です。恋人のアンナとの間に子どもが生まれるものの、アンナは生まれる前から子育てに非協力的な発言をするトーマスに不満を持っています。そしてインテリぶりをひけらかすシュテファンを皮肉り、レネを意地悪なあだ名で呼んだりするところもあり、そうかと思えばレネの秘密を知った時に喚き散らす姿は、まるで駄々っ子です。
 こんな癖の強い二人とともにいるエリザベトとアンナは大変だろうな…と思うのですが、彼女たちも黙ってはいません。誤解はあったものの、生まれてくる息子の名前をけなされた時に「許せない!」とばかりに自分の想いを爆発させるアンナ。
 そしてなんといっても物語の終盤、言いたい放題やりたい放題のシュテファンとトーマスに向けて大爆発するエリザベトの「演説」は物語最大の見せ場といっていいでしょう。いまだ抑圧される女性たちの本音を代弁する彼女の発言に喝采を送らずにはいられません。そして、シュテファンとトーマスのやりたい放題にうんざりしているだろう私たち観客の留飲を下げてくれること間違いなしです。
 音楽家のレネは終始五人の中でも控えめで平和主義を貫いていたため、終盤の彼の発言は破壊力抜群でした。彼の秘密が明かされる時はそれまでの構図がガラッと変わる面白い場面です。
 そこまで本音をぶつけ合っちゃって大丈夫!?と思うほどのバトルを見届けた観客にも、刺激的なカタルシスが送られる痛快な一作。または、笑うに笑えない問題作?です。
(陽)
【参考文献】パンフレット