2015年9月例会『インサイド・ルーウィン・デイヴィス』

HP用09月

解説

ひたむきに生きて、歌い続けた名もなきシンガーと猫との一週間

 1960年代フォークソングが煌めき輝いた時代をご存じだろうか。ボブ・ディラン、ピーター・ポール&マリー(PPM)、ジョーン・バエズ。彼らのLP(懐かしい響きですね…)を買ってもっていらっしゃる方も多いはず。
大スターのボブ・ディランが彗星のごとく登場した1961年のニューヨーク・グリニッジ・ビレッジを舞台に物語が紡がれます。主人公ルーウィン・デ イヴィスのように名もなき男たちが街で歌い続けていました。この主人公はデイヴ・ヴァン・ロンクというフォーク歌手をモデルにしており、彼の回想録にはこの映画のエピソードが数多く含まれています。ヴァン・ロンクは民衆の歌(フォークソング)を探して歌うという活動をしており、ボブ・ディランが憧れた伝説のシンガー。もちろんヴァン・ロンク=ルーウィン・デイヴィスではなく、この時代に歌っていた多くの男たちのすべてがルーウィン・デイヴィスという存在に象徴されています。実際のヴァン・ロンクはもっと吠えるように歌う、個性の強い歌手であったし、これはオスカー・アイザックの個性とあいまって、もっと繊細な持ち味のシンガーとなっています。
 この物語の主人公はルーウィン・デイヴィス。観客である私から見ると歌の才能以外はない音楽バカで、いい加減で、でも憎めない男。音楽への情熱以外はいい加減だが、その彼がひたむきに歌う姿や歌声が実に魅力的。この彼の魅力がこの作品の不思議な魅力となっている。この役を演じるオスカー・アイザックが見事にこのルーウィン自身となっていて存在感があります。
 この物語の背景となっているのが1961年。監督のコーエン兄弟はこの時代を描きたかったとインタビューで答えています。この物語のラストに流れる歌声はボブ・ディラン。1961年にボブ・ディランはデビューしその数年後にはスターダムにのし上がっていく。その彼を生んだのは当時の時代であり、ルーウィンのような名もなき歌い手が無数にいたからこそ、彼が現れたのだといえます。当時、反体制的で政治意識も強かったNYの先鋭的な若者たちはヒットチャートをにぎわせるポップ・ソングではなく、地方に伝わる民謡やブルースなど民衆の歌(フォークソング)を発掘して歌うことで、自分たちのルーツを見直して新しい音楽シーンを作ろうとしていました。当時のエピソードをちりばめたこの物語は、音楽好きを唸らせる細かい設定などが満載なのも大きな魅力です。

物語
 1960年代のニューヨーク、冬。若い世代のアートやカルチャーが花開いていたエリア、グリニッジビレッジのライブハウスでフォークソングを歌い続けるシンガー・ソングライターのルーウィン・デイヴィス(オスカー・アイザック)。熱心に音楽に取り組む彼だったが、なかなかレコードは売れない。それゆえに音楽で食べていくのを諦めようとする彼だが、何かと友人たちに手を差し伸べられ……。
 
 この企画は役者を見つけるのが大変だったといいます。まず主人公ルーウィン・デイヴィス。歌手では演じられず、かといって俳優では歌パートに難があって、主人公を見つけるのに苦労していたそうです。その中で出会ったのがオスカー・アイザック。彼は俳優ですが自ら作曲なども行いギター十二歳から弾いていたとのこと。彼はまさにルーウィン・デイヴィスとして存在し、彼の歌を私たちに届けます。
 そもそも映画の音楽シーンはリップシンク(口パク)で撮られ、あとで音楽を入れる作業を行うのが一般的。しかしこの作品はすべてライブで撮られているため、そのテイクごとで安定した演奏が可能な30分ほどのレパートリーをどのテイクも同じクオリティで演奏して歌わなければなりません。映画を観ている人はすべてライブ演奏を聴いていることになるという、その難しさは想像を超えています。これには本当に圧倒されます。彼オスカー・アイザックの才能が煌めく素晴らしいシーンです。
 そして元歌手のジャスティン・ティンバーレイク、女優のキャリー・マリガンも見事な歌声を聴かせます。第一級の音楽スタッフが集まり作成された、聞きごたえある音楽シーンの連続です。

 この物語のもう一つの魅力、それは猫。ルーウィンを応援してくれる大学教授のお宅に泊めてもらった翌朝、その家の猫がふとした隙に外へでてしまいます。鍵をもってない彼はその猫を連れてあちこちに行くはめになり…。地下鉄の中を動き回るトラ猫を捕まえてまわるルーウィンの姿は実にユーモラスで笑いを誘います。この猫が実にかわいい。この作品の猫とシンガーの関係がユーモアを醸し出します。もし動物演技賞があったら、この猫に決まりですね。
 ドジをして文無しで行き当たりばったりで。それでも人懐っこくて音楽的な才能があるためか、全くの孤立無援というわけでもない。このいい加減さと漂流感がなんともいえない味を醸し出しています。そんな男のメランコリーとおかしみを詩情豊かに描いて味わい深い作品となっています。
この作品の良さは映画館で見ないとわからない。神戸初公開作品、是非例会にご参加ください。ゆっくりと味わいいただける映画です。そして映画の最後に流れるボブ・ディランの歌声もお楽しみください。 
(陽)

『インサイド・ルーウィン・デイヴィス』の中で流れる曲(オリジナル・サウンドトラックより)
 1. ハング・ミー、オー・ハング・ミー
 2. フェア・ジー・ウェル
  (マーカス・マムフォード&オスカー・アイザック)
 3. ザ・ラスト・シング・オン・マイ・マインド
 4. ファイヴ・ハンドレッド・マイルズ
 5. プリーズ・ミスター・ケネディ
 6. グリーン、グリーン・ロッキー・ロード
  (オスカー・アイザック)
 7. クイーン・ジェーンの死
 8. ザ・ロヴィンク・ギャンブラー
 9. ザ・ショールズ・オブ・ヘリング
 10.ジ・オールド・トライアングル
 11.ザ・ストームズ・アー・オン・ジ・オーシャン
 12.フェア・ジー・ウェル (オスカー・アイザック)
 13.フェアウェル(ボブ・ディラン)
 14.グリーン、グリーン・ロッキー・

ひとくち感想

◎大変よかった  ◯良かった  ◇普通  ◆あまり良くなかった  ☐その他

ギターの音色、フォークの歌声、猫の動きが主人公の心情ととけあって、とても心にしみた映画でした。こういう作品がふえれば映サ会員ももっとふえるのではないでしょうか。(69歳 女)
ラストで彼の次に唄ったのは、ひょっとしてボブ・ディラン? 60年代の時代背景も興味深く、500マイルの歌もなつかしく。でも渡り歩く彼の行き当たりバッタリの人生もすごい。猫の人生に似てすごい。目線や目でものを言う映画でしたネ。(66歳 男)
猫と音楽がよかったです。すさんだ主人公の生活なのに、なぜか心があたたまる映画でした。主人公をなぐった男が、彼がヤジった女性の夫だったというところも。来月の映画のタイトルがなぜ『馬たちと人々』ではないのか納得できません。「馬々」はないでしょう!『沖縄 うりずんの雨』『わたしの終わらない旅』を上映してほしいです。(63歳 女)
見たのは二回目だったが、やはり面白かった。Dylan,PPMを売り出したGrossmanの目には叶わなかった男がAmericaそして日本にも影響があったフォークシーンの舞台裏を見せてくれる。(62歳 男)
・デイヴ・ヴァン・ロンクはアイルランド系だという。彼をモデルにしたこの映画の主人公が、たしか「母親はウェールズ…」とか言いかけていた。この時代のいわゆる「フォークソング」の源流の一人である彼のルーツはケルトだったのだ。アメリカには様々な背景を持つ人がいて本当に面白い。
・「才能はあるが、それ以外はてんでダメな芸術家」というタイプの人々がいる。中原中也しかり、石川啄木、宮澤賢治…先日ケーブルTVでみたジェーン・カンピオン監督『ブライト・スター いちばん美しい恋の詩』の主人公ジョン・キーツしかり。彼らはむき出しの魂をさらけ出し、傷口から血を流しながら生きる。だからたいてい病気で早死にする。デイヴ・ヴァン・ロンクも長生きしそうにない。回想録を読んでみたくなった。
・猫が可愛すぎなくて、ホッとする感じでとてもよかった。クスッと笑える。
・ラスト、タイトルロールで流れたボブ・ディランの声が心にしみた。(54歳 女)
最後にディランがステージを入れ替わって唄うのがなんとも言えない演出ですね。音楽で成功するのは大変なことです。(53歳 男)
人生も猫も歌も哀愁。(53歳 女)
歌がどれも良かった。(53歳 女)
『インサイド・ルーウィン・デイヴィス』とても良かったです。次回は『ディア・ハンター』をお願いします。(51歳 男)
とーっても頭も体も疲れていました。映画みたい!と思って来ました。元気出た。明日から又私も頑張ろうと思えた。ありがとう。(48歳 女)
夢を追うことの大変さ、可笑しさ、空しさ、そして(たぶん)素晴らしさを淡々と描いている。音楽も実に良かった。(26歳 男)
コーエン兄弟作品で私が鑑賞した中で、一番地味で在りながら一番滋味強精の作品。ダメ男で地球をまわしてみようとする。ダメ男じゃ、どうも地球はまわせないが、時代を動かし、次に継ぐ何かを生み出す瞬間を感じ、みせてくれた。コーエン兄弟がロードムービーする。くもり空と夜と雪道が人生の符号のごとく配列され出発と帰還がループフィルムで決着する。冒頭のパンチ男の後姿と猫の後姿のディゾルブの心地よさ。猫の自由気ままさとルーウィンの艱難辛苦の人生道がらせん階段のように私の目の前に表出している。人生いろいろがお千代さんなら、ルーウィンも同じく人生いろいろだと言ってるだろうし、そのラストの台詞が決まる!猫の名前が“ユリシーズ”も決まった。『猫と庄造…』『ハリーとトント』『Cats & Dogs』猫映画にまた傑作が現れた。(男)
最近愉快なことがない私には、肩の力が抜けるような映画でした。(四五歳 女)

フォークといえば皆んなの気持ちを盛り上げるものだと思っていたが、六〇年代のアメリカの一面を見たような気がする。なかなか感想が書きにくかった。(74歳 男)
名もなき男の歌。名もなき男も苦労の連続。先は開けるのか?(74歳 男)
疲れていて時々うとうとしながらの鑑賞でした。ギターはふだんなじみの少ない楽器ですが、とても心地よく主役の声も心安らぐ声で良かったです。(74歳 女)
もっと真面目にやってれば、あの声と腕があればもっといい人生を送れただろうに…。(71歳 男)
渋い映画? 商業ベースにのらない歌い手というのはこういうのかな? 自分の声とギターをハモらせるよさを知ってるのでしょうか。(70歳 女)
一言で言うと、地に足がついていた。(70代 男)
何となく不思議な魅力を持った映画です。ボブ・ディランの曲の様に。朝日ホールの御利益大でいい音でした。(68歳 男)
二回目なので、今回は歌のシーンはしっかりと楽しめました。主人公は生き方は風まかせでいいかげんだけど、父親の人生も自分の人生もみつめて歌にできてて、良い人なんだと思いました。(63歳 女)
朝日ホールの音響設備で音を楽しめ、猫がいい画になっていました。ミュージシャンの生活は理解するのは一回では難しいので、ついていけませんでした。(62歳 男)
音楽系の映画が好きなので楽しかった。フォークの歴史ってこうなのですか! 60年代は遠くにPPMやジョーン・バエズを聞きながら、実際には70年代のチェリッシュやタクロー、ガロが青春でしたね。音楽の世界も一人前になる苦労は大変ですね。何の世界でもそうですが…。ラストのシーンと表情が良いですね。客に受けられながら、又スタートラインにもどってしまうような。でもアデューのセリフで以前にはもどらない。自分はこうなんだ!という…。決心がついたみたい。音楽に生きるのだという…。(62歳 女)
なつかしい曲ばかりで、いみはわからなくてもほっとする。荒れた生活で貧しさが目立ってたが。フォークソングとはそんなところからうまれるのだろうか。マイクとの曲がとてもよかった。せつない歌詞だった。(61歳 女)
話はよくわからないままに終わった。性格破綻的なルーウィン・デイヴィスが他に生きるすべもなく歌手を続けていく姿は感動的ではなかった。でもそれが人生というものさ、という呟きが聞えてきそうだ。主人公は特別に才能があるわけでもない。それでもフォークにしがみついて生きていく、それはある意味で私を励ます。凡庸な者たちが歩むことで非凡な才能が生まれ出る。時代がつくられる。(59歳 男)
同じようにフォークソングを歌い続けているのに、こんなに金回りが悪いのはなぜなのか? こんな不幸なことはない。(54歳 男)
社会とうまくやっていけないダメ男(私に重なってツライ)の物語。アクロンへ行ってほしかったけど…。最後に何とか折合いをつけたのがよかったし、猫もかわいかったので「よかった」にしました。(51歳 女)
自分の中の?が未解決のまま話が進んでいったけど、ひきこまれてみました。音楽と歌声がよかった。後で思い返して頭の整理が必要です。(48歳 女)
ねこがもっといっぱい出てきたらよかった。ルーウィンに幸あれ。(40歳 女)
ネコがとても印象に残った。しぐさが場面の雰囲気と俳優さんの演技と絶妙だった。(女)
60年代のニューヨークに行ってみたような映画、あの時代、あの街にタイムスリップしてみたい気になりました。すばらしい音楽とシュールな映像、すみずみまでカッコよい作品。(女)

筋というほどのものもなく、その時代に思いが至らなかった。(71歳 男)
映画の中の500マイルの曲(メロディー)が良かったです。映画全体のテーマはあまり解りませんでした。ネコの登場は楽しかったが、どんな意味(効果)があったのか?(66歳 男)

内容を知らずに観た。主人公の周りの人間に対する言動に納得できず違和感を覚えた。行きあたりばったりの行動で事態がどんどん悪くなる。最後に歌ったけど(よかった)その前日の出来事でもう出演できなくなったと思ってた。(66歳 女)
何を言いたいのか難しい映画で猫がどんな役まわりをしていたのか? 始めて参加したのがこれだと次も参加しようと思うかなと。(62歳 女)
わからない。生き方のヘタな人の人生だろうけど…。ボブ・ディランがあこがれるだろうか?(男)
淡々としてて何を伝えたいのかよくわかりませんでした。(匿名)
フォークソングは良かった。特に最後の曲は気持ちがこもっていた。しかし…全体的にこの映画を通して伝えたかったものが もったいない。(匿名)

感想…何とも言えない。何と書いたら良いのか…。この映画を楽しむ余裕は私にはなかったというのか、共感する感性がないというのか…。理解の範ちゅうを超えるというのか…?!主人公の歌声は、ギターも素敵だし(500マイルはとてもよかった)、猫は可愛いし…。だけどそれで…という想い以上はなくて、ちょっと疲労感が残ってしまいました。(60歳 女)
60代の私には、なつかしいフォークソングが流れていました。500マイルの曲を歌った三人組はPPMがモデルですかね。最後のシンガーは、ボブ・ディランがモデルですかね。(60歳 男)
ありがとうございました。楽しめました(48歳 女)