2016年4月例会『ストックホルムでワルツを』

HP用04月

解説

夢を追いかけて「木の天辺まで登った」モニカ

 昨年の9月例会『インサイド・ルーウィン・デイヴィス』では、フォーク歌手が主役でしたが、今月例会『ストックホルムでワルツを』では、ジャズ歌手のお話です。といっても、舞台はアメリカではなくて、ストックホルムです。それもスウェーデン語で歌うジャズです。ジャズファンには必見の作品です。もちろんジャズ音楽だけでなくドラマもあります。
 日本での英語タイトルが『MONICA Z』となっているように、スウェーデンが生んだ世界的ジャズシンガーであるモニカ・ゼタールンド(1937~2005年)の伝記映画です。でも、彼女の生涯を描くのではなくて、離婚して5歳の幼い子どもをかかえて電話交換手をしながら、ジャズシンガーとしての 地位を確立する1964年頃までをかなり自由な脚色によって、メリハリのついた作品としています。
 スウェーデンのアカデミー賞といわれる「ゴールデン・ビードル賞」で最多11部門にノミネートされ、最優秀監督賞、最優秀主演女優賞など4部門で受賞しています。それだけでなく、スウェーデン人口950万人中の50万人以上もの人々が観賞したといわれています。亡くなってはいましたが、実在のモニカ・ゼタールンドの人気によるところもあると思いますが、映画の魅力もそれに劣ることがなかったからでしょう。
 モニカ・ゼタールンドは、この時代後も歌手としてだけでなく女優としても活躍を続けて05年に67歳で亡くなっています。映画でも舞台で歌に合わせて彼女のコメディ的な演技を披露しますが、こうした才能は女優としても発揮されて、IMDb(Internet Movie Database)によるとテレビドラマ(62年)出演をはじめとして映画など三一本に出演したことが紹介されています。
 映画では、彼女のヒットとなった「テイク・ファイブ」、「歩いて帰ろう」そしてビル・エヴァンスと共演した「ワルツ・フォー・デビー」など、背景が60年頃なので、懐かしのジャズ・ソングを交えながら彼女の軌跡をたどります。また、電話機、家具など、当時のインテリアやファッションも見所となっています。「歩いて帰ろう」などオールドファンには江利チエミ(1937~82年)のカバーを思い出すかも知れませんね。
 監督はペール・フライで日本での公開作品はないようですが、自国である「Danish Film Academy」で監督賞を3度(00、03、05年)受賞しています。モニカ役には実際にシンガーソングライターとして活躍しているエッダ・マグナソン。この作品がデビューとなりましたが、主演女優賞を受賞したことでもわかるように、歌はもちろんのこと演技においても強烈な個性をもつモニカの存在感を示しています。

物語   
 ストックホルムから離れた田舎町で、モニカは離婚後、5歳の娘と両親とともに暮らしている。電話交換手として収入を得ながら、ジャズ歌手としての成功をめざしてストックホルムのクラブで歌う。しかし、歌手としての頂点をめざす活動と娘の世話との両立は難しい。父親からは実現性のない夢を追い求めて子どもの世話も満足にできない母親失格者としてみられている。そうしたなか彼女の歌を聞いた音楽評論家レナード・フェザーからニューヨークで歌わないかと誘われる。父親の反対を押し切ってステージに立ったが、結果を残すことができずに失意のなか帰国する。それでも夢をあきらめることができずに夏の国内ツアーに出る。そこで、スウェーデン語でジャズを歌うことを考えているときにベーシストのストゥーレにある詩集を紹介される…。

 ふつう伝記映画では生涯を描いていますが、この映画では先に紹介したように彼女のごく短期間を事実にこだわることなく映画化しています。そのことによって、かなりはっきりとした物語構成となっていて失意から一躍スターダムに上がり、そこから転げ落ちそうになりながらも踏ん張ることで、さらなる高みへと飛躍する姿がくっきりと描かれています。
 時代が60年代はじめなので、当時の状況も浮かびあがります。ニューヨークでの舞台でピアニストのトミー・フラナガンのトリオと出演した場面では、彼女の容姿が黒人ミュージシャンとの共演にふさわしくない、といって中止されるなど、まだ公民権運動中であった米国の様子が、かいまみえるように描かれています。たまたま出会ったトップ・ジャズ・ボーカリストであるエラ・フィッツジェラルドに歌を聞いてもらいますが、返ってきた答えは「誰かのマネより自分の気持ちを歌え」。これに悩んで出した回答がスウェーデン語でジャズを歌うこと。といっても曲にあう歌詞が必要ですが、バンドのベース奏者が読んでいた詩集がぴたりと会うことがわかります。作詩者の紹介もうけて次々と曲に歌詞をのせていきます。そしてジャズ歌手としての位置を確保していきます。でも、それは彼女にとってまだ階段の途中です。もっと上をめざして貪欲に進んでいきます。そして、そこに落とし穴がまっています。
 当然のことながら、彼女は一般の人とは異なる強い個性をもっています。成功することのためには強い意志が必要です。父親との確執においても父を愛する気持ちをもっていても父の意見を受け入れません。そんな手段を選ばない気迫ともいえる存在は見るものに傲慢とも自分勝手とも見えます。二度と父親のいる町に入らないと宣言したモニカは「アッシー君」としてベース奏者のストゥーレに町の入口まで運転させたうえ、自分は降りて娘を父親の手から連れてこさせます。
 また、愛情というよりも娘にも自分にもインテリ男性が必要と思うと積極的にアプローチします。ここに登場するのが『私は好奇心の強い女』(71)のヴィルゴット・シェーマン監督(24~06年)。アメリカで上映をめぐって裁判沙汰になったこともあって日本公開時にも修正が話題になったことを憶えている方もいるのではと思います。このときに監督はワーグナーの曲をかけますが、これはいかにもインテリ好みとなっていて、すこしニヤリとしてしまいます。一方、彼女に好意を寄せるベース奏者のストゥーレは「好みではない」として男性対象に入らないような素っ気無さを見せます。
 63年、そんな彼女に音楽コンテスト「ユーロビジョン・ソング・コンテスト」にスウェーデン代表として出場する話が持ち込まれます。ポップスを歌うことに躊躇しますが、参加することを決意します。でも、結果は最下位となり、国を代表して参加したこともあってマスコミからも叩かれます。そこからすべての歯車が狂ってきます。酒浸り薬づけとなり生活が乱れてしまいます。でも、再び立ち上がりモダン・ジャズを代表するピアニストであるビル・エヴァンスと「ワルツ・フォー・デビー」で共演して国際的な名声を築きます。
 母親としての責任を放棄していると非難されながらも、父親とは違ってあくまで自分の夢をもとめて「木の天辺まで登った」モニカ。ラストはこうした彼女の姿を象徴するかのような場面で終わります。彼女の一途な行動に反発するか感動するか、どちらにしても、ここにはジャズの楽しみと確かに生きたひとりの女性がいます。
(研)

ひとくち感想

◎大変よかった  ◯良かった  ◇普通  ◆あまり良くなかった  ☐その他

全編に流れるJAZZがカッコウよかった。(76歳 男)
気の強い娘を持つ父親として共感できる部分がある。娘が最終的に幸せをつかんでほしい。映画のように。(75歳 男)
音楽がすごく良かった。(75歳 女)
モニカは天才的な歌手だったのでしょうね。モニカ役はエッダ・マグナソンですか。なかなかいいですね。2005年没なので、最近の歌手ですね。どちらかといえばお父さんの気持ちがよくわかります。スウェーデンのジャズ界に貢献が大きいと思った。(74歳 男)
あの歌がもっと聞きたい。(74歳 女)
何回見ても、すばらしく感動する作品です。元気ですか? Mor? と気安くたずねる時と、ご気分(様態)はいかが? Hur mor du? と医者がたずねることばの使い方で時代が感じられる作品です。(73歳 男)
彼女は彼女の(自分の)人生を生きたのだ。他のだれとも違う。やはり「収まらない人」だったのだろう。共感するところは少なかったが。(71歳 女)
この作品は映画つくりがうまい。余分なところは全て切りすて、必要なところをすくい取って完成した。素人監督ではとてもこうはいかない。(70歳代 男)
すごい生きざまですね。(68歳 男)
見終えて本当に心地よかった!結果や過去にとらわれず、いつも前だけを見て生きる勇気をもらった。そしてモニカを支える人々(両親や音楽仲間、娘等)がステキでした!(68歳 女)
去年は体調が良くなく、なかなか来れませんでしたが、大きい画面で映画は本当に良いです。私は父が早く亡くなりましたので、今回はうらやましく、本当に良かったです。(66歳 女)
今ジャズボーカルを習っており、参考になりました。(66歳 男)
何となくもっとサラッとした感じを想像していましたが、夢を追い続けるというのは、我々並の人間の想像を超えるエネルギーのいるものだし、傷つくものだし、それでも自分の思うままに生きるモニカに拍手。(64歳 女)
人生いろいろあるけれど、最後は真実の愛を得たモニカの笑顔が最高に美しかった。私も幸せをもらいました。(62歳 女)
観る前は、スターは華やかにスポットライトを浴びているが実人生は不幸、というよくある話だと思っていたが、センスの良いサイコーにゴキゲンなジャズ映画。日本でも美空ひばりや中森明菜の人生を、このレベルで描けたらなあ。(61歳 男)
モニカ、がんばったね、つらかったね、よかったね。人は人に響くね。あしたもがんばろうっと。(60歳 男)
◎感動しました。ありがとう。木のてっぺんしか望めない女ではなく、人並みの幸せを望んでいたとは。まるで美空ヒバリ。(60歳 女)
(映画サークルの方々が選んで上映されるのを毎月楽しみにしています。)明るいハッピーエンドの映画で、言葉はわからなくても挿入歌が良かったし楽しい気持ちになって印象に残る映画になりました。(60歳 女)
ワルツ・フォー・デビーは愛らしくて大好きですが、今日初めてあたたかい思いが伝わり泣いてしまった。深い曲を改めて感じた。ジャズ最高! 川嶋哲郎(テナーサックス)がいますぐ聴きたい。(59歳 女)
内容も音楽もとても素晴らしく感動しました。もう一度観に来ようと思います!(50歳 女)
音楽とファッションに魅了されました。うきうきしながら帰れるラストでよかったです。(50歳 女)
二時間ずっとハッピーであっという間でした。ステキすぎます。(48歳 女)
人のもつ何かが人を結びつける。自分にとってのそれをよく分析してみていい仕事をしたいなと思いました。(48歳 男)
Jsskの集まりでチラシをもらって来ました。私にとって旬だったのでとても感動し、また隅々まで楽しめました。〔希望〕北欧の作品を!(47歳 女)
ジャズに興味が無かったけど、挿入歌を聞いて他の曲も聞いてみたくなりました。伝記関係の映画は好んで観ています。(43歳 女)
上映時間を一時間ほど早めてほしい。冒頭から主人公の顔の部分に光の筋が常に入っております。これは以前からずっと入っています。(42歳 男)
とても楽しかったです。歌もよかったしストーリーも。ハッピーエンドで楽しめました。いつもありがとうございます。(40歳 女)
全編を通して思いかえすに、歌がモニカの人生を決めていたといえる。歌で名声を得て、失い、落ち、そして復活した彼女は、歌手というより歌そのものだったと評していい。モニカの活躍と熱狂を冷めた目で見ていた父との和解も歌が成し遂げた。その意味では父と娘の映画ともいえる。(27歳 男)
「モニカ・Z」とっても良かった。彼女の生き方をわがままと非難しないバンドの仲間(特にボーカルの相棒の女性)の温かさに、スウェーデンという国のおおらかさが見えて羨ましかった。父との確執も彼が元はプロのミュージシャンであり、若いころの苦労の経験が「木のてっぺんまで登りつめようとする娘の足を抑えようとした」という点がわかりにくいのがちょっと残念。ジャズを母国語でやったらとペッペ・ヴオルゲシュの詩を紹介してくれたり、黙々と「アッシー」に甘んじてくれたストウーレの愛の深さに気が付いて良かった。(彼の婚約者はかわいそうだったが)あの歳でもう大人の分別を持った娘の冷静さも印象的だった。(女)

大変魅力的な映画でした。自分の力を信じ強く生きる女性、こういう生き方をする女性が日本にもどんどん出てくるのでしょう。ただ目に見えぬ(見えてますね)支える人が沢山ありそのことを知った。彼女の最後をハッピーに。(72歳 女)
日本には絶対〔?〕いないと思う女です。半分は男性かも。(70歳 男)
女の子は、男親にみとめてもらって大人になるのでしょうか。育っていく過程で、その人生がいろいろに別れるのかも。ジャズがいっぱい聞けて良かった。モニカも幸せになってよかった。(67歳 女)
高みを目指す女性…コンクールの最下位の後、アル中になり、自殺を図ろうとするが…。このままこの女性の人生は終わるか?と思わされたが、再起し、最後に幸せをつかめ、父親とも和解ができ、見ているものもほっとしました。(65歳)
二回目ですが、今回は歌を楽しく聞けました。前回に見た後(一昨年かな?)の外国映画の中にレコードを聴き、これはモニカの歌よ!と言うシーンが二、三回あったのでこの映画の影響は世界中で大きかったようですね。私生活のほうもおもしろかったですね。(64歳 女)
「親に認められたい」これがとても大切なんですね。それだけのことなのにうまくいかない現実がそこここに。簡単そうでうまくいかない。それだけ難しいことなのかも。でもこれがうまくいってたら生きるのに苦しい思いを感じてる人はちょっとでも楽に生きれることになるのかもと思います。(61歳 女)
上手な歌を聴くのはとても心地良い。本物のモニカの歌を聴きたくなりました。日本でいえば「美空ひばり物語」を見ているようで。どこの国でも下積みから這い上がって大スターになっていく人々はあんな感じかもしれないと思う。「周囲の拍手を気にしている」という指摘は図太いようで、繊細な神経を言い表している。芸というのはそこから生み出されるのだろう。(60歳 男)
今月の『ストックホルムでワルツを』は良かった。才能はあるが、人間関係に不器用な彼女がとても感動的でした。(59歳 男)
好奇心旺盛な娘と冒険を好まない父親との間。最後にはお互いにわかりあえたのがほっとした。ただ、そこに至るまでの間、あの孫娘の立場を考えればすごく迷惑な感じもした。(54歳 男)
結婚式まではいらなかったと思う。美人はいいわネ。(54歳 女)
ロック時代にジャズを歌い続けるのが、父〔?〕の先を見たかったからとは思わなかった。ひたすらに歌うモニカはかっこよかったり、少し娘さんが不憫だったり(ハッピーエンドで安心)。歌心地よかったです。(21歳 女)
ワガママでちやほやされたくて、さみしがりやで…いつの時代もスターって周りの人が大変。モニカはどんな男よりお父さんが好きなのだなァと。色々あったけどアッシー君(古いか?)と結婚してメデタシメデタシ。聞きやすいJAZZもすてきでした。
主演の女優さんのふてぶてしさを感じるほどの演技がとてもよかったです。でも最後の空飛ぶ画面まではいらなかったかな。(女)
歌手になりたいという娘の夢を理解せず、否定する父親に嫌悪感を抱いた。しかし、親とはそういうものかもしれない。

モニカにはほとんど共感できませんでした。まあ、こんな人もいたのかというところです。ベーシストは演奏も良かったです。(64歳 女)

Jazzは美しい人が歌うとさらに魅力が増していいです。声が素敵でした。恋人を次々変えてもお嬢さんが理解あると思いました(笑)。(女)