2016年2月例会『グッド・ライ~いちばん優しい嘘~』

HP用02月2

解説

幼い頃は、知らなかった。世界がこんなにも大きいなんて。
こんなにも 自分たちと違うなんて―

 アフリカ、南スーダンのとある村、木の枝に上った少年マメールのつぶやき。彼方に広がる地平線。「行ってみたいな、他所の国」なんて勝手なイメージソングを奏でかけていると、突然の武力襲撃で、少年はそんな事を望んでもいないのに、両親からも故郷からも引き剝がされます…。
 1983年に始まった「第二次スーダン内戦」で、命からがらケニアの難民キャンプに逃げ込んだ子どもたちは帰るところもないままそこで育ちました。2000年、彼らの運命が大きく動き出します。国連難民高等弁務官の要請でアメリカとスーダンが協力し、3600人の若者たちを、全米各地に移住させる計画を米国史上最大の規模で実施したのです。
 難民支援機関の職員によって非公式に「ロストボーイズ」と呼ばれた若者たちのことを、主にテレビで活躍していた脚本家のマーガレット・ネイグルが知り、彼らのストーリーを伝えたいと世界中の新聞記事や、国中を回って元難民や彼らと関わった人たち約千人から直にリサーチ、その体験を物語に織り込んでいきました。
 書き上がった脚本を、『ぼくたちのムッシュ・ラザール』(13年11月例会)のフィリップ・ファラルドー監督がメガホンを執り、実際に元難民や少年兵であったスーダン人の俳優やモデルやミュージシャンなどをキャスティングして映画化。突然、「自由の国」への切符を手渡された若者たちと、彼らを受け入れたアメリカ人たちの、温もりを湛えた人間ドラマとなりました。

ロストボーイズの過酷な道のり
 目の前で両親を殺され、家を焼かれたマメール、兄テオ、妹アビタルら、孤児となった子どもたち。万が一の時にはエチオピアかケニアに行けば安全だと年配者から教えられてきた言葉を守り、日本縦断に相当する1000マイル近い乾いた大地を4年もの歳月をかけて歩き続けました。猛獣や害虫に脅かされながらの道中、飢えや渇き、また敵兵と出くわしたりして命を落とした仲間たちを弔いました。挫けそうな心を「生き抜きたい」と互いに声に出すことで奮い立たせ、聖書を大切そうに抱えてひたすら歩く―。その胸を締めつけられるような姿が脳裏に焼き付きます。
 マメールと妹、そして北部から逃げてきた元少年兵のジェレマイアとポールが生き延びて、ケニアのカクマ難民キャンプに漸く辿り着きました。(兄テオは途中で敵兵に連行されてしまいました)
 それから13年。医師の見習いをしているマメール、家事を引き受けるアビタル、信心深いジェレマイア、やんちゃなポール。成長した四人は安心して生活はできるものの先の見えない難民キャンプから、「第三国定住」制度の候補者に選ばれて、共にアメリカへ―。幼い頃の心の傷を抱えながらも、新たな人生をスタートさせるすばらしいチャンスであると同時に、文化的な違いを乗り越えるという難しい挑戦が始まります。

人と人―寄り添って生きるとは
 ロストボーイズ3人(アビタルは入国時に別の受け入れ先へ)を出迎えたのは、カンザスシティの職業紹介所で働くキャリー。彼女の任務は、彼らに勤め先を早々に見つけること。でも、車に乗せれば一瞬で酔い、牧場を見ると「猛獣はいますか?」と確認、電話の意味も分からない彼らの就職は困難を極めます。
 いきなり自分の恋人の店に面接に連れて行ったりもする(!)キャリー。彼女は最初彼らの過去にとりわけ興味も抱かず、ただ仕事を全うしようとしていました。しかし、アメリカの日常生活に対する反応や、物事を言葉通りに受け取る姿勢に驚きと面白みを感じるようになります。
 独身で自活しているキャリーも、彼女の上司で牧場を所有していることで3人から尊敬のまなざしを向けられるジャックも、人との距離を置いて生きてきました。でも彼らから慕われることで、ためらいつつも、彼らの人生と深く関わっていきます。
 程なくして彼らは仕事に就き、逞しく順応していきますが、新生活が徐々に落ち着きを見せ始めたころ、ポールが問題を起こして警察沙汰になってしまいます。それは「いくら働いても誰にも相手にされない」―そんな怒りや悲しみを爆発させてのことでした。そしてその思いは、彼だけのものではありませんでした。
 ジェレマイアも、賞味期限が切れた食物を廃棄するスーパーマーケットのやり方に対し、宗教的価値観に裏打ちされた、食べ物に対する正しい考え(精神)を譲らず、辞めてしまいます。
 難民キャンプに残された者たちから比べ幸運だったとはいえ、大自然と野生動物たちがいるアフリカ大陸から、先進国の代表であるアメリカにいきなり投げ込まれた彼らは少数者として生きる孤立感や不満に耐えていました。
 彼らの満たされない心の大きな要因が離れ離れになった妹アビタルのことと知り、キャリーは真っ直ぐに行動を起こします。人道的な立場で遂行された移住計画とはいえ融通の利かない役所の窓口で啖呵をきるのでした。
 そしてマメールが心を痛めてきた兄テオへの想いも知ります。自分たちを救うために敵の面前に姿を現し拘束連行 された兄。生きているのか、死んでしまったのかも分からない兄の行方を探しだそうと奔走する弟にある一報がもたらされ…。タイトルの「グッド・ライ」とはそういうことだったかと最後に判ります。

急ぐなら一人で行け 遠くへ行くなら一緒に行け
 ―エンドロールで示されるアフリカのことわざです。
 家族全員の幸せを願う優しい人間性を持つ「ロストボーイズ」たち。故郷、民族、家族。彼らが失ったものを全てとり戻す日は訪れるのでしょうか。世界の各地で内戦や紛争が絶えることはなく、難民は増え続けています。
 「ロストボーイズの話を伝えることが重要なのは(中略)実際にこういう歴史があり、いまだなおスーダンでは緊張状態が続き、何も解決には至っていないことを知らしめなくてはいけない」と、ファラルドー監督は語ります。
 「僕たちが何を彼らに与えられるかだけじゃなく、彼らが僕らに何を与えられるかを伝えることも重要なんだ。移民としてではなく一人の人間としてね。世界の見方はいくらでもあるし、僕らのものがすべてではない」とも。
 映画は、差異のある人と人の図式を、大きな括りで国同士の文化の違いとして分かりやすく描いているように思えます。
 厳しい移民生活の中でも失うことのないマメールたちの純粋さと誇り。彼らとキャリーたちの間に築かれる絆は、人と寄り添って生きることの素晴らしさを思い出させ、人との壁を越える勇気を見せてくれます。
(ゆ)

ひとくち感想

◎大変よかった  ◯良かった  ◇普通  ◆あまり良くなかった  ☐その他

19日に見て感動して20日に夫を連れてきました。たくさんの人に観て欲しいと思いました。(89歳 女)
とてもあたたかい、大切なものを、気持ちに。(75歳 女)
家族や幼なじみ、友人を大切にする温かい人達。難民の若者の就職を親身に世話する福祉の職員たち。心暖まる思いでした。後進国に難民が出ないよう先進国は世界規模で望ましい人間社会のあり方を考える責任を痛感しました。(75歳 女)
急ぐなら一人で行け、遠くへ行くなら一緒に行け。今私の欠けている所はいさぎよさかもしれませんね。(75歳 男)
題名が最後になってはっきりわかった映画でした。この映画いつまでも心に残る忘れられないものになります。さいきん自民党の丸山和也代議士、弁護士はアメリカの大統領は奴隷の子孫といった。少しの世界歴史を学んでいればなぜ奴隷が生まれたか分かるはずです。日本の政治家の反知性な、あまりにもひどい発言。余談になりましたが一言。(75歳 男)
難民とは本当につらく悲しいものですね。千kmも2千kmもさまよう子供たちの姿は痛々しい。こうした中でも兄弟姉妹の愛は一筋の光を感じる。ラストのマメールの嘘に泣かされる。(74歳 男)
子供(4歳)の時の中国からの引き揚げ体験とだぶり、未だにこんな事が起きているのかと辛い、辛い思いで観ました。(74歳 女)
今もある難民問題、地球的大きな出来事。人間が人間を苦しめる。知恵ある人間なのに愚かでもある人間。それは人間の欲望のなせる事なのかと考える。戦いをはじめる人が”戦争”だと叫んだ故か、考えると眠れなくなります。アメリカの懐の深さとまた矛盾も描いていてよかったです。(71歳 女)
家族の結束は美しいが、それは困難な状況と裏腹の関係でもあるのでは?何事も一筋縄ではいかないことに歯ぎしりする。アフリカの大地の美しさがよけいにそれを思わせる。(71歳 男)
久しぶりの涙々でした。とても良い映画を見せていただきました。(70歳 女)
感動的でした。今多くの難民がいます。誰が難民を作っているのですか。世界から戦争がなくなることを!!祈ります。(69歳 女)
感動的でした。今多くの難民がいます。誰が難民を作っているのですか。世界から戦争がなくなることを!!祈ります。(69歳 女)
うまくコンパクトに収めたいい映画でした。アフリカ問題の暗い側面を極力おさえて、”今”の重大問題を明るく楽しめました。それにしても平和を望みます。(68歳 男)
現在も進行中のシリア難民の方々のその後の苦労を知る事ができました。また人生にとって「大切な事」「本当の愛」など考えさせられる事いっぱいです。文化のレベルやはだの色で判断するべきでない真実の深さを学びました。(68歳 女)
シリア難民がいま問題になっている昨今、弱者である子ども達(女性)の問題を改めて考える時間を持つことを自分の生活にと…。(68歳 女)
のんびり暮らしている私たちの日常では考えられない命と向き合った日々。ボディブロウのようにあとからじんわり心に響いてくる。人間として、文明の中でユオゴされていない精神の高い生き方を私たちは忘れている。豊かさとは何か考えさせられる。(67歳 女)
平和な日本に住んでいて無責任な事は言えないと思いました。ニュースではあまり知りえない事を映画は私達に教えてくれる。ありがたいと思います。(67歳 女)
いい映画でした。若い人に観て欲しい。学校でも上映できたら…。(66歳 女)
大変良かった。是非多勢の人に観て欲しいですね。(63歳 女)
9.11が難民受け入れを中断させたことを改めて知った。現在のシリアなどからの難民受け入れも様々な障害が生じている。根深い問題だと思う。(62歳 男)
こんな事がまだまだ起きているんですね。命の大切さを感じました。静かな映画ですが訴えるものはとても強いです。(61歳 女)
心あたたまる優しい映画でした。周りには素晴らしい人が一杯います。しっかり見つめたいものです。(60歳 女)
久しぶりに大きな映画館で見ました。大変いい作品でした。(58歳 男)
本当に感動しました。広島県(福山市)から来たかいがありました。(56歳 女)
あんなに長い距離を自分で食べ物を探しながら歩くなんていくら家族が一緒でもできそうにない。「スーダン」と聞くととても悲惨なイメージで目を背けてしまっている。アフリカで苦労して生きる人達も私達も同じ地球で暮らしていることを思い、毎日の生活をいかに生きるか考えていきたい。(53歳 女)
とてもよかったです。生徒に見せたいです。紛争、難民の映画といえば『ホテル・ルワンダ』を思い出しましたが、Lost Boysのことは知らなかった。(52歳 女)
何も知らずに見て、最後にこみあげてきて大泣きしました。このようなテーマをたんねんに作られていること尊敬します。映画サークルに感謝です!(52歳 女)
久々に(すみません!)とってもよい映画でした。題名だけを見た時に女性の職員の人が上手なウソをついて彼らに自由を与えてやるみたいな話を想像していましたけれど、もっとすごい「ウソ」がまっていた。『おやすみなさいを言いたくて』の外から見たのと裏から見た視点の両方が見れてよかったです。ポールの薬物はつらすぎました。悪い「トモダチ」から引きはなしてよかったと思いました。(51歳 女)
2回目ですが何度見ても感動します。ビザ譲る、そこまで負い目を感じなくても、と思ったけど、そこまでしようと思うほどアメリカで暮らしている時、お兄さんのこと思ってつらかったのだと思うと、よりつらかった。(48歳 女)
すごく良かったです。(47歳 女)
タイトル『グッド・ライ』が「ハックルベリー・フィンの冒険」から来ていたのには驚いた。米文学の名作もまたこの物語で一人を救っていたのかと思うと感慨深い。(27歳 男)
いい映画だった。(匿名)
キャリーが変わっていくところが素晴らしい。兄弟姉妹のきづなの基に信仰が基本にあるのですね。アフリカの草原、夜景の美しさ。(匿名)
現実を捉えた上で希望をもって作品にしており非常に前向きで大きな可能性を秘めた映画でした。大変良かったです。ありがとうございました。(匿名)
兄弟姉妹が何歳になっても愛し合っている絆の深さをしみじみと感じた。今の日本人はこのような絆を忘れているような気がするので、徐々に取り戻していきたい。(五四歳 男)
最後まで見ごたえがあってとても良い映画です。(匿名)

ラストシーンの替え玉入国はチト甘いけど、世界の広さとバラエティ故に今更ながらー。(81歳 男)
知らないことがいっぱい出てきて(アフリカの実際の内戦や難民キャンプなど)ショックです。私は何をしたら…という思いです。(71歳 女)
難民でも少年〜青年だと順応性が高くてよいのだなと改めて思いました。文化の違いやトラウマの深さについては無理のない支援をしていくことが3回目にしてよくわかりました。(64歳 女)
心の痛み、環境への変化への戸惑いなどなど外から見えないものを理解するには深い思いやりが大切なことを教えられました。
9・11以後、移民の国アメリカでも、建国時の理想を掲げ続けることが、日に日に困難になっている。2000年にスーダン内戦の「ロストボーイ」としてアメリカに受け入れられた4人の青年男女が、異文化に戸惑いつつも、先祖からの教えを守り、家族、仲間、故郷の絆を大切に行きたいと願う姿に人間としての普遍的なあり方を見せてもらった。キャリーや周辺の人々はその姿に動かされていったのではと、感じました。マメールが一番心を痛めていたこと、兄テオに対する償いをはたすためについた嘘は、「グッド・ライ」の意味を考えさせてくれました。(女)
予告編では全くわからなかった前半のキビシイ旅、その後でもキャンプでは、ただ生きているだけで希望がない。生きるということは働くこと、学ぶことが大切なのだ。人間にとっては。戦争をし続ける国アメリカが一方で難民を受け入れる。助ける人もいる。だが日本は?戦争ができる国になっても難民を受け入れることはあと何千年かかるのか?(匿名)
内戦、移民、難民、国を追われ、過酷な人生を生きる…。我々が愛の手をさしのべるのは簡単ですが、彼らの価値観や人間性まで内なることも受け入れることのむずかしさを教えてもらいました。彼らの心が受け入れられなくては虚しいですね。支援活動のむずかしさがそこにあると思います。私達の考えをおしつけては本当に理解はできないです。人類はバベルの塔のままですか?(女)

ストーリーはよかったが、現在アメリカを美化しているのが感じられる。アメリカが中東で戦争をしていることを忘れるな。(76歳 男)
夫婦、兄弟で争うことが恥ずかしくなる素敵な映画でした。目が覚めました。(80歳 男)

感動作です。世界の現実はあまりにも悲しすぎ、希望は持ちにくいけど、こういうやさしい嘘で幸せになるのならもってもいいと思います。(60代 男)
町で出会う男がすべて元カレ。ミニスカートにブーツといういでたちのアメリカン・アラフォーのキャリーが変わっていく姿が良かった。(匿名)
「内なるものをしっかりと掴んでほこりを持って生きろ」と言われた気持ちがします。今シリアの子どもたちはどうしているのかと思い胸がつぶれました。安保法制も施行されるし、アメリカは世界の警察は八女津と公言し、大統領が代わります。何かもう何かが近づいていて、おびえる毎日ですが、もっと強く、しっかりと生きる。自分にできること考えること教えられました。あーこんな映画久しぶりです。ありがとうございました。(匿名)