2015年12月例会『間奏曲はパリで』

12月HPA4

解説

大人の男女の機微を描いた、大人のための寓話

 フランス映画のコメディってどんなイメージですか。この映画はエスプリというよりもユーモアを漂わせクスクス笑えてほんのり心が温まるコメディです。
 フランスの北東、ノルマンディ地方で夫グザヴィエ(ジャン=ピエール・ダルッサン)とともに畜産業を営むブリジット(イザベル・ユペール)。学生時代の恋を実らせ結婚した二人ですが子どもも巣立ち、今は倦怠期を迎えています。家業よりもアクロバットに興味を持ちサーカス学校へ入学した息子への態度も対照的。息子を応援するブリジットに対し夫は胡散臭い職業だと認めてはいません。そんな夫の態度と変化のない毎日に彼女の不満は積み重なっていきます。「私って必要?」そんな疑問が口をついて出る日々。
 そんなある日、パリから来た姪の友人のハンサムな青年と知り合い、久々に女心をくすぐられます。持病の皮膚炎の治療に行くと嘘をつき、そのハンサムな青年に会うためパリへ冒険の旅に出る計画を決行します。
 ブリジットにはフランスの大女優イザベル・ユペールが扮します。今まで『ピアニスト』など屈折した役柄が多く、どちらかというとミステリアスなイメージでしたが、本作では夫を愛しながら非日常的なアヴァンチュールに心をときめかす普通の中年女性の気持ちを実に可愛らしく表現しています。こんなに可愛らしいイザベル・ユペールは初めて!そんな彼女の新たな魅力に満ちています。
 誰もがクスリとそして時には声を出して笑ってしまうような描写にあふれ、それを真面目に演じるイザベル・ユペールの上品な立ち居振る舞いや表情とのギャップがその笑いを際立たせていたような気がします。彼女のコメディエンヌぶりが新鮮です。

 この作品の魅力のひとつは、労働の場面が数多く出てくるところです。畜産業を営む夫婦が飼育している牛。毛が長くて大きい。そしてオープニングの肉牛品評会のシーンも大変興味深かったです。でも、何と言っても牛の出産シーン。新たな命が誕生する瞬間の感動。農家の仕事ってこんな素晴らしい瞬間があるんだと納得してしまいます。餌やりなど彼らの生活がしっかり描かれるのがいいのです。そしてそんな細かい描写の中で彼女の個性的で夢想家、そして優しい気持ちの持ち主であることが浮かび上がってきます。だからこそ、移民の少年に対する優しさも違和感なく受け取れるのでしょうね。露店を摘発され逃げる移民の少年の、果物を「自分が買った」と言って守り少年に返そうとする姿に彼女のまっすぐなところを感じて頬が緩む場面でした。

 良い人だけどちょっと頑固な夫、平穏だけど変わり映えしない生活。グザヴィエはパソコンのパスワードが妻の名前とか、羊飼いのエピソードを嬉しそうに話したりして、妻のことを愛しているのだとわかります。けれど、ささいなことで口げんかになってしまう二人。彼女の口には出さない気持ちを表現する皮膚炎という設定が秀逸です。そんなブリジットの何となく物足りない日々に突然現れた若いハンサムな青年。
 医者の治療と偽って青年に会いにパリに出掛けるブリジットの姿が可愛くもありちょっと痛くも見えます。ブリジットは浮気がしたくてパリに行ったわけじゃなくて新しい「何か」だったり「刺激」がほしかっただけ。そんな彼女の気持ちは実行するかどうかは別としてよくわかります。
 心踊らせて彼に会いにパリに行ったものの、いざ会って話すと、何となく「あれ、なんか…やだ」って思った様子。トホホ…ってなるそういう彼女の気持ちもよくわかるだけに、この場面はコミカルで面白く、そこで毅然としている彼女に好感がもてます。
 一方ブリジットの嘘を知り、こっそりパリへ様子を見に行く夫グザヴィエ。彼も素敵です。
 ホテルで知り合ったデンマーク人の男性と連れ立って歩くブリジットを目撃してショックを受け、見ていられなくなって尾行をやめたグザヴィエが向かったのはオルセー美術館。羊飼いの娘の絵をじっと見つめます。羊飼いは昔のブリジットの夢で、その夢が可愛らしくてグザヴィエはお気に入りなのです。
 そしてサーカス学校へ行った息子に会いにゆきます。このシーンは大変美しくて良かったです。息子のトランポリンの芸が見入ってしまういい芸で、説得力がありました。思いがけず息子の芸に力をもらったのでしょう。息子が目指すものの価値を知って、ショックの原因は何も解決してないけれども、励まされたのでしょうね。予想外の何かが突然悲しい気持ちを少しだけ和らげてくれるってことが、時に起こるものですよね。見ているだけのこちらも目頭が熱くなりました。
 家に帰ってからの従業員との会話も良かったです。出てくる人たちが地に足がついていて、会話にユーモアが漂って存在感があります。

 翌朝、ブリジットは帰ってきます。グザヴィエは何も言わずに、でも少し前とは違う感じで迎えます。イライラして見せたり、落ち込んでみたり。
グザヴィエはブリジットの湿疹のためにイスラエル旅行をプレゼントします。その荷造りの中、ブリジットは自分がパリにいた日のレシートを見つけます。買ったものはオルセー美術館の羊飼いの娘の絵はがき。絵はがきを見つけてブリジットはいろいろ思い当たります。窓からグザヴィエをみて目に涙をためるのです。
 このシーンも素晴らしかったです。ほとんど表情も変えないのに、ブリジットがいろんな事を思い至り、夫に詫びて、夫の優しさに気づいたことが、私には感じられました。絵はがきを見つけたことをブリジットは言わないでしょう。浮気を言葉で詫びることもないでしょう。それでいいのかもしれないな、と思いました。おそらく彼女は許される自分になるよう、これから振舞うのだろうと思いました。

 原題「La Ritournelle」の意味についてフィトゥシ監督は、「悪く言うとルーティンという意味があり、映画のなかで夫婦が陥っている倦怠感のあるルーティンな生活を表しています」と語っています。
 原題とは違いますが、邦題はなかなか素敵です。この物語はこの夫婦の人生の間奏曲なのです。大人の男女の機微を描いた、大人のための寓話です。パリの街並みや会話など雰囲気を存分に感じさせてくれます。パリの光景をこの一本で満喫できるのも魅力の一作です。

ひとくち感想

◎大変よかった  ◯良かった  ◇普通  ◆あまり良くなかった  ☐その他

爽やかな夫婦のくらしが、心境が描かれていた。この師走に妻の浮気のドラマなんてと思って来たが、深味のあるドラマでした。畜農のくらしが生々しく伝わってきた。(81歳 女)
良い映画をみたなぁ~です。畜産農家の日常作業の様子、フランスの農村と首都。よく描かれて親しみを感じた。音楽もステキでした。次回、次々回も楽しみ。(76歳 女)
久しぶりに良い映画でした。語らずともわかる空気感が何とも良かったです。(70歳 女)
なかなか良かった。すじのはこびもフランス的で、さらに無理もなく、自然に観ることが出来た。(70代 男)
フランスのエスプリの詰まった粋な映画でした。いい役者さん達で、映サの映画の中でたまにはこんなのも歓迎。(68歳 男)
生き物のいる生活は体が休まらないですね。大変さがわかります。全体に大人のほっとするような映画でした。彼女(主人公)の表情が豊かでステキでした。動物が出る映画はなぜかうれしくなります。(牛とか、ねこの曲芸も楽しかった)息子のトランポリンの曲芸も良かったです。(67歳 女)
もう少しノルマンディ地方の風景をみたかった。パリの映画は満足。(67歳 女)
最後に流れる音楽のピアノのイントロがぎこちなく、でもあたたかみのある演奏で、映画の主人公夫婦を象徴しているようでした。(64歳 女)
意外と平凡な主婦(?)役のイザベル・ユペールが、とてもチャーミングで、ちょっとしたアバンチュールのあと、結局は元に戻る夫婦が可愛らしくいとおしい。何ということないけど、ほのぼのいい映画でした。(64歳 女)
雨降って地固まるでしたね。(62歳 男)
気楽に楽しめました。音楽も衣装も夫の浮気の話もサラッとオシャレに描いているなと思いました。役者はそれぞれ味がありうまくはまっているなと思いました。でも世の中の人はあんな風に簡単に浮気しちゃうんでしょうか。音楽…クラブでのサックスの曲もパリに向かうグザヴィエの車中での曲もピッタリ合っていた。トランポリンは芸術的でした。グザヴィエの顔と交互にうつすのもステキだしその音楽もピッタリ。(61歳 女)◎パリ大好きなので、楽しくみさせていただきました。(61歳 女)
息子が見せるトランポリンを使った演技がとてもよかった。しゃれている。すばらしい。(61歳 男)
フランス映画らしくて楽しかったです。(55歳 女)
浮気されるということは、配偶者にとってはどれだけ淋しいことなのか、思い知らされた。夫が妻を尾行するのは、やっぱり自分の妻のことがすごく気になり、愛しているからなんだなとつくづく思った。(54歳 男)
映画はステキでしたが、子供がうるさくて台なしでした。(53歳 女)
最後まで安心して観られるいい作品でした。でも主人公は田舎のおばさんにしては洗練されすぎているかも。(53歳 男)
泣きました。心をきゅっとつかまれました。チャーミングだった。誰にでもある人生の流れや心の動きだわ。(48歳 女)
おそらく個人のセレクトでは観る機会のない予告でしたので、このサークルで観れたのは良かったです。ひとり身なので「ああ、ここが居場所だ~」と思う場所が欲しいなあって温かくなりました。(45歳 女)
「田舎のねずみ都会のねずみ」にも通じるありきたりなストーリーなのに、とても心休まるいい映画だった。細かな部分の味付けというか描写がなんとも心憎い。(26歳 男)
羊飼いの女性の絵が素敵だった。りりしくて、可愛らしくて、ブリジットと重なった。(匿名)
映画を見ていた友人から「あんな不道徳な映画!」と感想をきいていたので、まったく期待はしていなかった。だがしかし、とてもかろやかで、ステキなフランス映画でした。ブリジットも夫もデンマーク人の彼もとっても「良い人」。時には「あやまち」(世間一般でいえば)を犯したとしても、その後の人生をもっと豊にした「プチパリ旅行」はいいナ!(匿名)

許せるかな。自分の方は許せるが。(74歳 男)
何か、フランスってみんな自由ですね。さすが筋金入りの自由さです。(66歳 男)
三回くらい見てますが、やはり、夫婦が互いに浮気したじゃない!とののしり合わないのが不思議でなりません。主要人物の気持ちの微妙な動きも上手に映像化していてよい映画でしたね。(63歳 女)
お互いに手の内を知りながら、知らない振りをしてトランプゲームを楽しむ気分って、なかなかむずかしい。ゲームセットにならないカードの捨て方、言葉のやりとりはちょっとスリリングでした。映画は男と女の行き違いと互いにだんだんと不満が高まってくる様子を上手に描いて二度見て、そう思います。ああいうささいなことが積もっていくというのは、そうだよなと納得します。そして、やはりパリだからああなるのかなとも。日本の首都とはだいぶ違うのでしょう。(59歳 男)
二回目だけど一回目にわからなかったよさがあり、よりおもしろかった。(48歳 女)
仕事がかわって少し余裕ができて本当に久しぶりに来ました。途中ちょっとzzz…、ブリジットがどうやってパリに行く決心ができたのかを見逃しましたが、やっぱりパリは魅力的。彼女は夫の魅力を再確認できてよかった。(43歳 女)

よくある話ですがうまくスマートに仕上ってました。ドロドロしなかったのが好感でした。(74歳 女)
心暖まる映画であることは認めますが、個人的にブリジットの考え方、行動がわがままに思えるのです。私のように一人で精一杯生きている人間には、なんかね…という感じがしてしまいます。妻の浮気を認めつつ、かえって彼女への愛を強め、息子にもエールをおくって待つ…。そして自分を変えていくグザヴィエに対し、一夜を絶対にenjoyしてからrefreshする…。女の業でしょうか。グザヴィエも昔浮気をしていたので、fifty-fiftyらしいのですが。とりあえずHappy endでおめでとう。今年は戦後70年で暗い映画が多かったので良かったです。(62歳 女)

都会(パリ)と田舎(ノルマンディ)、日常(生活)と非日常(旅)、どちらも豊かな人生には必要なものだろうと感じた。(71歳 男)
▢ ①夫は初めから妻の事をよく見ていると思いますよ。パリに行けといったのも夫だし。②二人にとって単独のパリ旅行は良かったのでは。③夫がパリで息子の練習を見守るシーンは良かった。(61歳 男)
こういうのを自立した女性のための映画なのでしょうか? あまりにもうますぎますけど。これって普通のフランス女性なら男はこわい。(男)