2015年3月例会『愛さえあれば』

解説

チクリと痛い、愛と喜びに満ちた大人たちの人生讃歌

 『ある愛の風景』『未来を生きる君たちへ』などで知られるデンマークの鬼才スサンネ・ビア監督によるロマンティック・ラブストーリー。スサンネ・ビア監督といえば、重厚な作風というイメージがありますが、この作品では見事にその印象をくつがえしています。
 『マンマ・ミーア』『007』シリーズのピアース・ブロスナンとデンマークの実力派女優トリーネ・ディアホルム(『未来を生きる君たちへ』)が演じる主人公を始め、個性的な登場人物たちを、デンマークを代表する俳優陣が見事に演じています。
 見応えがあってちょっぴり笑って感動して、人生について或いは愛について考えさせられる作品に仕上がっています。単なるラブコメに終わらない、スサンネ・ビア監督らしい苦い現実のベースの上に展開される中年の恋模様は酸いも甘いもかみしめるレモン味の爽やかな余韻を残します。

物語
 家族の幸せを第一に生きてきた美容師イーダ(トリーネ・ディアホルム)。乳がんの治療もひと区切りつき、娘の結婚式を目前に控え、明るい未来が見え始めたそのとき、夫の浮気が発覚。一方、イギリス人の会社経営者フィリップ(ピアース・ブロスナン)は、愛する妻を事故で失った悲しみから何年たっても立ち直れず、仕事ひと筋に打ち込んできた。そのせいでひとり息子とも疎遠、心通わせる相手がひとりもいなくなっていた。イーダとフィリップは、それぞれの娘と息子が結婚式を挙げるイタリアへ向かう空港で、偶然にして最悪の出会い方をする。南イタリアのソレントへ一緒に行くことになった二人は、お互いのことを知るようになり、心を開いていく。一方、彼らの子どもたちは挙式を目前に控えながらも、迷いが生まれていて…。
 
 物語は主人公のフィリップとイーダが繰り広げる大人のラブロマンスですが、彼らを取り巻く人たちが面白い。パーティにやってきたのはひと癖もふた癖もある人たち。結婚式に浮気相手を連れてくる夫と厚かましい愛人。フィリップに密かに想いを寄せる彼の義妹とその娘などなど。彼らのキャラクターも一人ひとり生き生きと描かれており、彼らがしでかす数々の言動に唖然としながらも物語に引き込まれてしまいます。下手をすれば彼らの毒気に当てられて辟易としたかもしれないのですが、そうはならないのは、人物描写の秀逸さと構成と脚本のおかげでしょう。セリフ回しも丁々発止の会話に引き込まれ、全く退屈しません。
 イーダの家族とフィリップの家族、ともに欠点も多く問題を抱えた個性豊かな面々が、時に罵倒しあい、殴りあいまでしながらも、それぞれに気づきを得ていく数日間。傷ついたからこそ真実が見えてくる過程が、ユーモラスかつロマンチックに綴られていきます。

 主演のピアース・ブロスナンの感情を抑えた「ワーカーホリックな英国紳士」がヒロインに見せるぎこちない好意も「奥手の男性心理」を上手く表現していますが、どんどん美しくなっていくヒロインイーダの表情の輝きに女性の内面の美しさの本質が描かれています。
 今まで悲しみや苦しみを背負ってきた熟年の男と女だから、若者のようにそうやすやすとはお互い付き合えない。その葛藤の描き方が見事です。
 原題は「坊主のヘアドレッサー」なのですが、彼女の坊主頭が美しいです。ガン治療のため抜け落ちてしまった頭髪を彼女はウィッグで覆っています。人生は皮肉ですが彼女は明るく前向きに生きようとしています。
 好きなのはイーダとフィリップとの掛け合いのシーン。はじめは自動車の接触という最悪の出会い方ですが、考えてみれば自動車事故で妻を亡くしている身からしたら車の不手際はナーバスになって当然。そしてまた彼も妻の死に耐えるために仕事に没頭してきた人なのだと物語が進むにつれわかってきます。カフェで話しているときの感情を抑えた演技はむしろリアリティがあり、「我慢強い人の感情を抑えた態度」が作品全体を貫いている印象を受けます。
 そして、美容室に来るフィリップとそれに対応するイーダは、お互い再会できて嬉しいはずなのに、それをおくびにも出さない。そういうところが彼らの慎ましさというか、もしかしたら本当に好きな人に会い大事なことを話す時は、ああいう表情なのかもしれませんね。淡々として変に冷静で、周りのことも考えている。大人であるがゆえに、浮気相手にも冷静で抑えた態度を見せ、ストレートにものが言えない情けなさやせつなさを感じさせるイーダですが、そんな彼女が選択し行動し始めるときの輝きに感動してしまうのは私だけではないでしょう。

 結婚式で使われる南イタリア、ソレントの風景が素晴らしい。別荘を取り巻くレモン果樹園、別荘の佇まい。そして別荘から見える海の風景。
 ナポリ近郊の陽光溢れる海岸での日常から離れた空間で次第に世事から解放されて、ほぐされていく心の推移が、爽やかなカタルシスをもたらしてくれます。音楽もイタリアならではの明るい軽快さが素晴らしく、往年のヒット曲That’s Amoreなど最高です。
フィリップとイーダ、彼らがそれぞれ歩んできた人生の重さ、喜び、苦味があるからこそ輝くラブストーリー。ちょっぴりの毒とユーモア溢れる爽やかな物語をお楽しみください。
(陽)

ひと口感想

◎大変よかった  ○よかった  ◇普通  ◆あまりよくなかった  □その他

風景、街、ひと、美しく、よかった。人間ってほんと、おもしろいですよね。(80歳 女)
とても静かで深い深い感動を味わいました。(74歳 女)
真実の愛とは難しいものですね。息子と娘たちの決断にも美しいイタリアの風景を背景に愛を貫くすばらしさをみつけた。(73歳 男)
ストーリーには少しついていけないところがあったが、十分楽しめた。ソレントと別荘からの景色はすばらしかった。(70歳 男)
久し振りに映サに来ましたが、題名通りの内容の映画で家族に色々あったものの最後はハッピーエンドで・・・。彼女も彼とならたとえ病気が再発してものりこえられそうな予感もします。(70歳 女)
久し振りにすっきりした楽しい映画でした。結局は誠実に、自分に正直に生きて、それでハッピーなら一番最高なんですね。(68歳 男)
思っていたとおり、よい映画でした。(67歳 男)
人間模様がとても面白かった。あんな夫とは別れて正解!イタリアに行ってイーダ!!(65歳 男)
とても良かったです。選んでくれたので良いので。(65歳 女)
ハラハラ・ドキドキの素晴らしい映画をありがとうございました。本音でものが言えることって最高ですね!(63歳 男)
愛の形は色々あって、又、やり直しもあり、最終苦労した人が幸せになってホッとしました。(61歳 男)
自分の心に正直になって、決断するのも勇気がいる。とても、きもちいいです。さわやかなレモンとイタリアの気候。とてもLOVEな二人いいですね。大人でしたね。ステキでした。(61歳 女)
役者、映像、衣装、音楽、そしてストーリー。おしゃれで、でも親子のことや人生、夫婦、ひとすじなわではいかない諸々のことを、落ち込まずに立ち止まって考えさせてくれる映画だと思いました。ただ、イーダがカットするシーンでケープが首元きっちりしてないことがきにかかりましたが(笑)。大切なことを若い人が勇気を持って示してくれたことに感動しました。(60歳 女)
デンマークのTVドラマはとても面白く素晴らしいものが多いですがヒリヒリした空間が特徴的です。この作品は南イタリアを舞台にしている為か、そんな空気を感じさせず、最後までゆったりした時間の流れ方を描いていました。でも人間関係の不思議さは北欧独特ですね。(53歳 男)
観終ってレモンのようなさわやかさが残りました。複雑で深刻な場面でも人生ってステキ!『未来を生きる君たちへ』は澄んだ空気を感じましたが、この作品にはカラフルさと暖かさが加わりましたね!期待以上でした。(52歳 女)
とっても良い映画でした。景観も良かった。(44歳)
とても楽しくすてきな映画でした。音楽もよかったです。色々あるけど大人の恋の映画よかったです。平成26年度おつかれさまでした。平成27年度も楽しみにしています。(43歳 女)
いろんなことがあり過ぎのストーリーでしたが、短い人生、言いたいことは言い、したいことはするというのが、いいかなと思いました。
イタリアらしい。家族のしんこくなことだが、明るい。風景や音楽のせいか?(女)
誘った友達二人、よかったと、いってくれた。よかった。最後ハッピーエンドで安心。現実ではこの様な出会いもなく、一人で問題を抱えるのかもしれないが。タイトルの文字が金粉の様にくずれてゆくところ、ファンタジーの、昔のディズニー映画のようにみえた。
問題を抱え、悩んでいる二つの家族のそれぞれのメンバーを丁寧に描きながら、誰もが(ライフは残念ですがね)自分に素直に向き合おうというという道を選んで行動する、北欧らしいおおらかさが羨ましい。フィリップの別荘があるソレントの海と遠くに霞んで見えるヴェスヴィオス山が心を癒してくれた。(女)

風景が大変良かった。(72歳 男)
経済的な心配のない人達の別れと出会いはカッコいいね。生きていく上では辛いことの方が多いのかなァ、とつい思いました。日本人の私、老人にはちょっと荷が重すぎたけど、面白かったです。(71歳 男)
最初は?と思ったけれど後半は二人の大人の恋がとてもステキでした。衣装も赤、黄、青とカラフルで、最後がレモン色と景色もきれいでした。(66歳 女)
新聞やテレビでいやなニュースばかりの昨今、今日の映画はなつかしい音楽と一緒に「人生、なんでもあり、おもちゃ箱」のような、云いたい事をなんでも云っていい、なんでもOKみたいな・・・笑って見られる映画だった。こんなのも有りだね。(66歳 女)
ジェンダーの問題、考えさせられます。私の中では、まだ理解が乏しく、うけ入れられないところがある。自分の娘なら、息子ならどうする? 夫婦のことはわかりません(笑)映画のようにこんなにうまくいかないでしょう。(66歳 女)
久しぶりに、ハッピーエンドの映画もいいですね! 子どもたちの結婚式はダメになりましたが、大人同士の人とのふれあいや愛の大切さが伝わってきて、心がホットになりました。(65歳 女)
二回目なので、イタリア風景とカンツォーネをしっかり楽しめました。中高年の愛をていねいに描いていてよかったです。主人公のパートナーや愛人、義妹についてもそれぞれの心情がよく表れていたと思いました。(63歳 女)
いろいろな愛の形、家族のあり方、現代の社会を知る上で面白かったが、少しもの足りなさを感じた。(60歳 女)
おひさしぶりのP・ブロスナン。ほんとにまるくなっちゃって。ホント、ひさしぶりの例会参加でした。楽しかった! P.S.映サ、グワンバレエ~!!(60代 男)
かっこいい男と女がくっつくのは、それはそれでハッピーエンドでいいけれども、色々な人が出てくるが、彼、彼女たちの魅力が突っ込んで描かれないのは不満。ちょっと紋切型すぎ。たとえばライフは無神経でつまらない男としか描いていないが、彼の良さがあるような感じがする。(59歳 男)
ライフがイーダに対する「君しかいない」みたいな言葉はしらじらしい。あいつはあの彼女と別れたみたいだが、また次の女に行って、またその女を泣かせるのではないか、とつくづく思った。(53歳 男)
むずかしかったので、また大人になったらもう一度見たいです。(15歳)
ヘアドレッサー(美容師)という職業とは? 下にみられるの?それにしても美しい風景、南イタリアに行きたくなった。(女)
雄大な美しい自然と広いスペースの家、ゆったりと流れる時間。ヨーロッパの生活は、本当に人生に、人に生き易い良いものと思っていました。だから人々も体力的に精力的にがんばれるのでしょうね。でも、本当にいろいろと事件のおこる家庭ですね。最後は親同士のハッピーエンドがおもしろいです。二時間ハプニング続きで楽しかったです。いろんな形の愛を教えてもらいました。(女)

駄作だと思う。登場人物が類型化されすぎ。(56歳 女)
浮気をする夫とそんな彼をさげすむ息子の板挟みに悩む、イーダが印象的だった。(26歳 男)

もっと笑える映画かと思ってましたが…。中途半端な映画でした。倦怠期の妻の浮気相手が大金持ちの独身イケメンというパターンは前にもありましたネ。こういう映画が熟年世代の女性にウケルと思ってとりあげたのならやめて欲しいです。舞台がデンマークとイタリアなのに何故か英語の会話がほとんどだし、ヨーロッパ映画までが英語帝国主義に浸食されて来たのでしょうか?!がっかりでした。(63歳 女)